圧倒
本日2話目です
「それじゃあ準備はいいかしら?」
三人による即興の講義を受けた四人は期待に満ち溢れた顔をしている。今の自分たちならばミノタウロスは問題にならないと勝利を確信していた。
まずアイリスがウィルの剣に斬撃を鋭くする為に風属性を付与し、ラークの大盾には強度アップの為に土属性を付与する。そしてウィルとラークが身体強化魔法を発動させて、彼らの身体強化の度合いが二倍程になり、更にアイリスがバフをかける。アキはタイミングを見計らっていつでも詠唱を開始できるように準備する。
「ああ、頼む!」
ウィルが答え、三人がその目に闘志を宿らせて首肯する。
そしてミノタウロスの周りにあった障壁が解除される。
当然の事ながら怒り狂ってこん棒を振り回し雄叫びを上げる。だが彼らに焦りも恐怖も無い。静かに打ち倒すべき敵を見据えている。
まずはラークがその怒りを一身に受けようと前に出る。ミノタウロスはその挑戦を受けて立つようにこん棒を力一杯振り下ろす。
ラークはパーティの士気を最高潮にする為、いなすことなくその一撃を大盾で受け止めて見せる。属性付与魔法も上手く行っているようで大盾にもダメージは無い。
渾身の一撃を真正面から止められて手が痺れたのか、ミノタウロスはこん棒を手放してたたらを踏む。
その瞬間ラークの後ろからウィルが飛び出す。その速度は先程とは段違いだ。ミノタウロスは反応できず、その顔面を切りつけられる。どうやら視力を失ったようだ。
もはや視力を失った魔物が取るべき行動は唯一つ。力尽きるまで暴れ回るだけ。
ラークは自身とウィルに向かってくる攻撃を的確に捌く。
やがてチャンスをうかがっていたウィルが飛び出すとミノタウロスの脚を切りつける。
そしてミノタウロスが遂に膝をつくと、ウィルとラークが後ろに下がりアキの詠唱が完成する。あの日リクが見たエルの魔法だ。
『天と冥府の狭間に燃え盛る炎よ
我が魔力を贄にその姿を現せ
現世に蠢く迷える魂を
諸共全て汝の炎で浄化せよ
煉獄』
瞬間ミノタウロスの足元から紅蓮の炎の檻が姿を現す。その光景はあたかもミノタウロスの魂を浄化し冥府へと誘うかのようだった。
やがて炎の檻が姿を消すと、そこにはミノタウロスの魔石だけが残っている。一目でそれとわかるほどの上質な魔石だ。
「本当に勝てた…」
「自分でも信じられないわ…」
ラークとアイリスは相変わらず無口、と言うよりも驚きすぎて言葉が出ないといったところだろう。
「よくやったわね!」
腕組みをして満足気に四人に向けて頷くエルを見て、リクとルーシーは苦笑する。
「ウィル、ラーク、あとは今日教えたことを繰り返して練度を高めることが重要だよ。まだまだ強くなれるはずだ」
「アイリス、相手をよく見て的確なサポートをするのじゃ。お主が戦闘中に忙しくなるのは相手が圧倒的に格上の時だけじゃろう。同格や少し上くらいであれば、戦闘前にしっかりと準備をするのじゃ。その程度の相手にお主が忙しいのならば準備が足りておらん」
「アキは術式の構築と詠唱についてもう一度考えた方がいいわよ。きれいな術式と詠唱なんていう枠の中に居たら、強くなれないわ。アドバイスならいつでもしてあげるから」
三人の言葉にファングの四人は神妙に頷くが、やがて我慢できずに笑みがこぼれる。わずかな時間のうちに自分たちが打ち破れなかった壁を破ることが出来たのだ。嬉しくないはずがない。
「やっぱり三人に稽古をお願いしてよかったわね!ありがとうエル」
「ああ、まさかこんなにすぐ結果が出るなんて思わなかったよ。ありがとなリク」
「…ルーシーありがとう」
「リク、恩に着る」
四人が真っすぐこちらを見ながら感謝してくるのでリクたちは少しむずかゆいような気分になる。
「気にするな、俺たちは切欠を示しただけだ。その証拠に全部自分たちが元々持っていた力でやってのけただろう?俺たちだって力を持たない奴らに教えたっていきなり強くは出来ない。四人が地道に力をつけてたからだよ」
リクの言葉に嫁二人は黙って頷き、四人はそれでもと感謝を伝えてくる。三人もその気持ちは分かるので、感謝の気持ちはしっかりと受け止めておく。
「さて、出来れば一日二階層くらいは進みたいと思っているんだけどどうかな?」
五十階層への到達を目指そうと思うならば、何かあった時の為に一日二階層は進んでおきたい。リクの提案に異存のある者はいなかった。
階段を降り四十一階層に到達した七人。アキとエルがそれぞれ魔法陣に魔力を記録させる。これで次回からはアキとエルのどちらが魔法陣を起動しても、ここに転移できるようになる。
四十一階層の様子は先程の洞窟といった感じから打って変わって、ダンジョン入口と同じく人口迷路のような整然としたものだった。
「ダンジョンってやっぱり罠とかあるのかしら?」
「そうだな、落とし穴とか毒の道とか、あとは矢が飛んできたりもするな」
「心配いらぬ。妾が感知できる」
「さすがルーシーね!頼りになるわ」
そう言ってエルがルーシーの腕に抱き着く。甘え上手な末っ子気質全開だ。そんな仲良しな嫁二人の様子をリクが微笑ましく見ていると、ふいに魔物の気配を感じる。
気配を感じた方に目をやると、壁がもこもこと蠢いている。まさに壁からモンスターが生まれようとしているところだった。どうやら形から推測するにリザードマンのようだ。
「うわぁ…これはキモい」
壁から生き物が産まれてくるという、理解しがたい状況に思わず呟いてしまう。ファングの四人は落ち着いたもので、産まれると同時にウィルが切りつけて絶命させる。リザードマンは単体では脅威にならないが、どこからか手に入れた剣と盾を使った集団先方が得意な魔物だ。なぜか今の個体も剣と盾を持っていた。
「ダンジョンが厄介なのは完全に産まれない限り、魔法で魔物を探知できないところだ。なんとなく気配を感じたりは出来るけどな」
「確かにそうじゃな。索敵には反応が無かった」
「でも良かったわね。どうやら四十階層代はそこまで強い魔物が出そうになくて」
「え?そんなことが分かるのか?」
「ああ、大体十階層ごとに魔物の種類が変わるんだ。ちなみにこのダンジョンだと入り口からはゴブリンやコボルドといった小人系、十一階層からはアルミラージやキャタピラーといった動物系、二十一階層からはアンデッド系、三十一階層からは巨人系。それで今のリザードマンを見る限り四十一階層からは恐らく亜人系だろう。ちなみにボスも同じ系統だな。例えば十階層ならホブゴブリンって具合だ」
「ふむ、先のミノタウロスは巨人系のボスということか。しかし亜人系の魔物にも強いものはおろう?」
「確かにね。今までの傾向からそこまで強いのは出ないと思うが、気を抜かずに行くか」
七人は順調に進んでいく。どうやらこの階層ではリザードマンしかいないようだ。一度群れと遭遇したものの、リクたちが手を出す必要も無くファングの四人が新たな力を馴染ませるように討伐していく。
途中宝箱がいくつか見つかったが、ルーシーの索敵によってミミックは判別できたので、安全に進むことが出来た。ちなみに宝箱の中身は上級ポーションなどの回復薬ばかりで、エルは文句を言っていた。
そして何事も無く四十一階層の探索が終わる。これはルーシーのマッピング能力が凄まじいからで、ほぼフロアの全域を把握できてしまう為、迷うことが無い。
四十二階層に下りた七人は同じように魔法陣に魔力を記録させると、入口に転移をする。今日の探索はここまでで終了ということだ。
入口にいた冒険者ギルドの担当者とミノタウロスを討伐したといって立ち話をする七人。そこで奇妙な話を聞く。
「おお、立派な魔石だな。確かにミノタウロスならこの魔石も頷ける」
「だろ?そう言えば今までにこのダンジョンって踏破した奴っているのか?」
「ああ、実はついこの間勇者様が来られてな。五十階層を踏破したらしいんだ」
その言葉に七人が衝撃を受ける。リクはここに来るのは初めてだ。つまり何者かが勇者を名乗りダンジョンに潜り、踏破までしてしまったということだ。そこまでの実力者がいるなんて聞いたことが無い。ウィルはリクに頷くと続きを聞こうとする。
「へー、初耳だな?有名な奴なのかい?」
「一応お前らと一緒のAランクだぜ?恐らくこの踏破によってSランクになると思うがな。確か今はフォータム共和国にいるとか言ってたな。黒髪と黒目が印象的なきれいな女だったぜ」
そこまで話を聞いて一行はその場を離れる。
そしてリクたちの脳裏にある女性の姿が思い浮かぶ。フォータム共和国で流人としてパレードに参加していた女性だ。
「恐らく彼女だろうな…」
「どういうことかしら?なぜ勇者の名を?」
「…十中八九、良からぬことを考えておるじゃろうな」
「知ってるのか?」
「ああ、こっちに来る前にそれらしい女性がヘルプストでパレードをしてたんだ。もしかしたらダンジョン踏破祝いだったのかもな」
「ダンジョン踏破でパレード?そんなことがあるの?」
「通常の冒険者ならないだろうな。だけど国が勇者に仕立てようとしているのなら…」
「Aランクの冒険者なんて数えるほどなんだ、俺らが知らないはずないんだがな。なんだか穏やかな話じゃねえな…」
ウィルが渋面を作って言葉を絞り出すと、他の三人も苦々しい顔をする。自分たちの故国が悪だくみをしているなんて信じたくない話だ。それも恩人である三人にとっていい話でないとすれば尚更だ。
「目的が分からないんじゃ動きようがない。とりあえずきな臭いことになる前に、さっさとダンジョンを踏破するのがいいだろうな。明日からもよろしく頼むよ」
リクの言葉に六人は力強く頷いて宿に戻った。
おかげさまで5000pv越えました。ありがとうございます。
明日はクリスマスイブのプレゼントと感謝を兼ねて9時、15時、21時に3話更新します。
加えてクリスマス特別編を25日の0時に更新しますが、こちらは本編終了後の3年後のクリスマスを描いております。つまりネタバレを含んでおります。本編のラストに関わるものではありませんが、ご注意ください。
恐らく年明けの頃には読んでも問題ない内容です。
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