講義
本日1話目です
「よく動けてるし、連携も問題なさそうだな」
「そうね。さすがAランクパーティと言ったところだわ」
「うむ、戦術面で教えられることなど殆どなさそうじゃ」
三人の意見は一致していた。さすがは若くしてAランクパーティにまで成った四人だ。見事な連携でミノタウロスを相手取る。今のところは彼らの身に危険は感じない。
「まあ負けずとも倒せない、と言うところか」
「そうね」「じゃな」
いかんせん火力が足りない。前衛はウィルの斬撃も何発か入っているが、浅い切り傷程度にしかなっていない。もし何回も同じところを正確に切れるのであれば、効果はあるのかもしれない。だがそこまでの力量差は彼らとミノタウロスの間にはない。
ラークはタンクらしく常に相手の正面に陣取り、相手の攻撃を大盾を使って受けている。ミノタウロスは三メートルはゆうに超える巨体の持ち主だ。そのミノタウロスがこん棒のような物で叩きつけてくるのだから、いくらラークが人間の中で大きいとはいえ真正面から受ければ潰される。上手くいなして相手をコントロールしていた。ちなみにリクは初めてタンクの戦闘を見るので、その技量と度胸に感心していた。
そして後衛はラークがいなせずに受けたダメージをアイリスが即座に回復して前線を保たせ、その隙にアキが詠唱を完成させて高位の魔法で攻撃するという実にオーソドックスで理に適った戦い方だと言える。
それでも致命傷を与えることが出来ない。それどころか消耗で言えばファングの方が早く、このままではジリ貧だと分かる。
「はーい、ちょっとタイム!」
そう言ってエルが物理障壁をミノタウロスの周りに張る。中から破壊しようと暴れているがビクともしない。しばらくは放っておいて問題なさそうだ。いきなりのことでファングの四人も固まっている。恐らく出来るのだろうと心の中で準備していても、いざ目の前でそれが起こるとそうなるんだなとリクは思う。
「はい、じゃあ作戦会議。リクは前衛二人、ルーシーはアイリス、私はアキね」
「ああ」「うむ」
てきぱきと仕切りだすエルとそれに従うリクとルーシー。対するファングの四人は思考が追い付いていないようだ。
「え?作戦会議なのに別々なのか?連携は?」
「連携は問題ないわ。火力を上げましょう」
そんなことがすぐ出来るなら苦労はしないだろうという目で四人はエルを見るが、時間の無駄とばかりに全く意に介さない。
「じゃあウィルとラークはこっちに来て」
「わ、分かった…」
ウィルが返事をして、ラークは無言でリクの下に来る。
「さて、火力を上げるっていうことだけど、身体強化魔法を自在に使えるようになってもらおうと思う」
「身体強化魔法?俺ら使ってるだろ?アイリスの強化も受けてるし」
リクの言葉に訳が分からないといった様子でウィルが返答し、ラークも頷く。事実彼らは身体強化魔法を使っている、と言いたいところではあるが意志は介在していないのだから使っているというのは語弊がある。
「俺が言っているのは意識的に使えるようにするってことだよ。つまり練度を上げて強化の度合いを引き上げるってことだ。ちょっと見ててくれ」
そう言うとリクは身体強化魔法を発動する。以前ルーシーに手伝ってもらった時に習得したように、二倍、三倍、五倍と徐々に強化度合いを引き上げていく。そして強化されるにしたがって纏う魔力が増えていくのがウィルとラークにもはっきりと見て取れる。
「まあこんな感じだ。最初は多分難しいと思うから、手を出してくれ」
そう言うとそれぞれの手を取って、あたかも自分の体であるかのように二人の体に魔力を纏わせる。
「こうやって触れていれば、俺の魔力操作なら二人の体にも身体強化魔法をかけることが出来るんだ。この魔力が体を巡る感覚を覚えて欲しい。本来この世界の人間は普段からしていることだが、当たり前過ぎて感じ取れないんだ。それをはっきりと感じられるように体を巡る魔力を増やすんだ」
生まれたときから身体強化魔法を発動している人間には、その方法が分からない。それは心臓の動かし方を学べと言っているようなものだ。だからリクは二人に本来理解できるはずがないそれが理解できるように、魔力を流して感覚を覚えさせようとした。この方法は今回が初めてではなくエルとルーシーも同様の方法でリク程ではないが身体強化魔法を意識的に使えるようになっている。
「ああ、確かに分かる。体中を魔力が巡って力が溢れてくる感覚が」
「不思議な感覚だ…」
この初めての感覚がよほど衝撃的だったのであろう。ラークまで思わず声を出す。
「よし、じゃあやってみてくれ」
リクの言葉を聞いて、ウィルとラークが体に魔力を流そうとする。なかなか上手く行かない様子だが、次第に体に纏う魔力が増えていくのが分かる。リクのそれに比べれば微弱な物ではあるが、修練を重ねれば、五倍程度までは行けるのではないかと思えた。
「すげえ、なんだこれ…」
「信じられん…」
「あとはその状態を保ちながら動く練習をするといい。そうすればミノタウロスくらい問題なく倒せるようになるはずだ」
そうしてその状態を保ったまま組手を開始する二人と、満足そうな顔でそれを見守るリクだった。
一方アイリスはルーシーから補助魔法について教わっていた。アイリスとアキは間違いなく魔法の才能がある。しかしアイリスは性格的な物なのか攻撃魔法が実践レベルではほとんど使えない。かつてエルが考えていた性格と魔法の関係はあながち間違いではないのかもしれない。
「よいかアイリス。お主は才能がある。恐らく全属性の魔法を問題なく行使できるはずじゃ」
「…うん。だけど攻撃できないから意味がない」
「そんなことは無い。先程の強化魔法も見事じゃった。あれを属性魔法で応用するのじゃよ」
「…人に属性を付与するの?そんなことしたら…」
「うむ、人に属性を付与したら竜種の加護が無い限りは耐えられんな。じゃから武器や防具に付与するのじゃ。お主らもベルファス火山で魔法銀を取って装備に使ったのじゃろう?ならば付与魔法との相性はいいはずじゃ」
「…確かに。それなら出来るかも」
試しにアイリスは自身の杖に火属性の魔力を通してみる。すると杖は色こそ変わらないが確かに火属性を帯びた。文句なしの成功だ。
「やはりお主には才能があるな。もっと練習すればより強力に属性を持たせることも可能じゃろう」
「…ありがとうルーシー。私戦闘中あまり役に立てないから嬉しい」
アイリスはルーシーに抱き着くと真っすぐな謝意を伝えてくる。
「そんなことはない。お主はよくやっておる。他の三人も理解しておるよ」
嬉しそうな様子のアイリスの頭を撫でて目を細めるルーシーだった。
そしてアキはエルから詠唱の改良について教わっている。アキの詠唱はエルから見ても教科書通りのきれいな術式で無駄のない詠唱と言える。だがかつてのエルはそれでは火力が足りないと思い、己の魔力を存分に注ぎ込めるように術式と詠唱を改良していた。
「いい?きれいな術式で火力が足りないなら、無理やり魔力を注ぎ込んで火力を上げてやればいいのよ」
エルの非常に物騒な言葉にアキは戸惑う。一般的にそんなことをすれば魔法がコントロールを失い、暴発しかねないからだ。
「言っていることは分かるけど…」
「大丈夫よ、なんせこの私が改良した術式と詠唱なんだから。これは私がリクと初めて会った時に使った魔法よ。今のアキならこの術式は問題なく理解出来るでしょ?それならこの詠唱を使えば問題なく魔法を発動させられるわ。私が保証する!」
薄い胸を張って主張するエルにアキは苦笑する。エルが言うなら大丈夫だろうと、なぜかそう思ってしまう自分が不思議なのだ。エルには人を惹きつける魅力がある。こればかりは後天的に得られるものではない天賦の才だ。
試しにエルから教えてもらった詠唱をしてみる。魔力をいつもより多く使う感覚はあるが、魔法が完璧にコントロールされていることを感じられる。アキはその計算尽くされた緻密な術式とそれを正確に表した詠唱に驚愕する。それと同時に一体この自分よりも若い大魔導士は、自身の才能に驕ることなく、どれほどの努力を重ねているのかと感嘆する。才能があるアキだからこそ理解できる。そして自分の努力などまだまだ足りないということも。
だが当のエルからすれば自分が努力しているなんて然程思っていない。魔法が好きだから研究して辿り着いただけのことだと。しかし事も無げにそう言ってのける彼女は間違いなく天才だ。
「うん、問題なさそうね。後は本番でぶちかますだけよ!」
「ええ、きっちりぶちかますわ!」
そう言って二人は笑いあう。この二人は攻撃魔法が得意なこともあり、似た者同士なのかもしれない。
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本日21時にもう1話更新です。




