薊先生は今日も糸に絡まれる
「どうしようもなく好きな人がいるんです!!」
__占い業歴10年。アラサーの私こと薊には、今日もお客様が絶えない。
それは私の占いが百発百中当たる、という訳でもなく、私の容姿が特別優れているという訳でもない。ただ相談料が安いのと話をしやすい雰囲気だから、だそうだ。(エゴサーチの結果)
初めは趣味半分・小遣い稼ぎ半分の気持ちですぐに辞めるつもりが、繁盛してしまった今では本業としてやっている。
今日の高校生のお客様は、受け付ける相談の中で一番多い恋愛相談。そして私の中で最も聞きたくない相談も、恋愛相談。
いやいや、あなた様が誰が好きで、その方が誰が好きなのか、全く興味は無い。さらに、出会いの話やら恋に落ちたきっかけなんてもっとどうでも良い。
いいじゃん、告っちゃえば。告白なんて成功する人は占う前から成功する運命で、振られる人は占いをしてもその結果は変わらない。大事なお金と時間をここで使うよりも、想い人と過ごすほうが遥かに有益である。
こんな占い師失格のような思考をしながらお客様の話を聞いていると、どうやらこのお客様は、今まで告白が成功したことが無い、というのが悩みらしい。
参考程度に告白の回数を聞いてみると、5本の指を立てた。
「えーと……それは5回ということでしょうか?」
意外と少なかった。過去の高校生のお客様で20回という方がいたので驚くことではない。
「いえ……そこにゼロを足してください…」
「ヘ!? つまり……50回、ですか?」
「はい……」
最新ニュース!最新ニュース!!最近の女子高生は告白を50回もするようです。引き続き調査を進めたいと思います。
「その告白は、全員別の人ですか?」
「はい……アタシ、どうやら惚れっぽくて、すぐに好きになっちゃうんです!消しゴム拾ってもらっただけでも好きになりますし、道ですれ違ったサラリーマンにも好きになっちゃうんです!」
「は、はぁ……な、なるほど?」
「で、その後すぐに告白するんですけどいつも振られて………。そんなことが何回も何回も続くと、やっぱりアタシも悲しくなっちゃって、人と接するのが怖くなってきたんです。そんなアタシを心配してくれた友達にここの事を教えてもらって来ました。………占い師さん、アタシのことが本気で好きな人ってどこにいるの?どうか、こんなアタシの為に占いお願いします!!」
なんともぶっ飛んだ内容だ。しかし、お客様の瞳は潤んでいたので余計なことは口にせず、早速占い始めることにした。
「…分かりました。ではお客様、ライラ様の赤い糸を調べさせてもらいます。」
「よろしくお願いします!」
この世のことは、すべて様々な糸が絡みついて物事が起きる。例えば、お金の糸が適度で綺麗に巻き付いているのであればその方はお金に恵まれ、その糸が無造作に絡み合っていればしばらくするとその方は転んで恨みの糸と欲望の糸が巻き付いて借金まみれになることもある。恋愛に関する赤い糸も同じだ。量や絡み方、長さ、その全てでその方の恋愛事情が分かる。
私は幼少期からこの糸が見えていて、この糸の状況から判断してお客様の相談に答えている。さて、このライラ様の赤い糸はどうなっているのでしょうか。
「…………………………………………………………」
「う、占い師さん?」
「はっ!失礼しました…」
おいおいおいおい、これはどういうことだ?こんなこと一度もなかったぞ?
「それで……アタシの運命の方は、どこに?」
あっれ〜?さっきと占い内容が変わってない?まぁ良いや……。
それよりもこのライラ様…………まさか赤い糸が全て1㎝未満だなんて……。普通は短くても2mもある。そしてどこかに繋がっているような感じになっているのだが、ライラ様の赤い糸は全て繋がっていない。
「…………ライラ様。心してお聞きください。」
「は、はい」
「あなた様の運命の相手は__」
「聞いてくださいよぉ〜〜占い師さん〜!!今日ね、彼氏の為にちょっと高い服を買って着たのに〜〜あいつ、かわいいの一言無しでさ〜〜もう、最近こんな感じが続いて〜〜浮気とか心配なの〜〜」
「そうですか。ではその彼氏様の女の糸を調べたいので写真をください。」
「は〜〜い。どうぞ〜〜」
私はちょっと落ち込んでいるお客様からプリクラで撮ったと思われる写真を受け取った。
あーこれは…。
「そうですね……現時点では浮気はしていませんが、近い将来新しい恋人を作りますよ。そしてその……お客様にとっては酷なことですが彼氏様とその恋人様はそのまま良い関係を築くと思われます……」
「うっそぉ〜〜〜!占い師さん、その恋人ってどんな人ですか?今から釘を刺さないと〜〜」
「男です…」
「へ?!」
「天国にいる両親のために今を一生懸命生きている健気な男の方です…」
そりゃあ、お客様もびっくりだよね?彼氏が恋人(男)を作って幸せになるって話を聞いたらさ。
「……そっか〜〜。まぁ、あいつが幸せになるならそれも良いか……。」
な、なんて良い子なんだ!!この子!!
「お客様、失礼ながらあなた様の赤い糸を見させてもらってもよろしいでしょうか?」
「え?あ、はい!!」
よ〜〜し、可愛い可愛いお客様のために、私頑張っちゃうぞ!!
「!! お客様、とても太くて長い赤い糸があります!おそらく今月中に運命の方が現れますよ!!」
「ほ、ほんとぉ〜〜?」
「えぇ、しかもその相手との結びつきが強いので、もしかしたら……。」
「やったーーありがとう占い師さん!!」
「いえいえ。またのご利用、お待ちしております。」
頑張れ、お客様!……運命の方が二人いるからどちらかを選ばなきゃいけないけど、おそらくお客様なら大丈夫です。………その相手が男か女かは分かりませんがね?
トントントン
本日最後のお客様が退出してすぐに、自称私の助手がやってきた。
「先生、お疲れ様です。紅茶をここに置いておきますね?」
「ありがとう!ライラ」
__糸は見ようとしなければ見ることができない。ましてや、お客様の職業の糸など相談されなければ見ることはない。
あの後、心に大ダメージを受けたライラは呆然と座り尽くしていた。私は何か言わないと、と思い口を開くけどかける言葉が分からず口を閉じた。しばらく沈黙して様子を見ていると、ライラは突然私の手を取り跪いた。
「占い師さん…アタ…わたし、決めました!」
「な、何をでしょうか?」
「アタ…わたし、男に頼るのを止めにします!!そしてこれからは、仕事に生きようと思います!」
「は、はい……」
随分思い切ったことを言ったな…。それにしてもライラ様はいつまで私の手を握っているのでしょうか?
「それで、その……占い師さんにお願いがあるのですが……」
「はい。私にできることであれば……」
なんだろう?お金貸してくれとか、連帯保証人になってくれとか、泊まらせてとか、かな?あー昔の彼氏や男友達に似たようなこと言われたな〜…………今はもう思い出したくないけれど。
「わたしを、先生の助手として雇って下さい!!!」
「はぁあああああ?!」
人生何が起こるか分からない。誰が好きで誰が好かれているのか。どんな職業に向いていて、どんな職業につくのか。私はどんな相手と相性が良くて、それはどのぐらい良いのか。
__まさか私が助手を雇い、そしてその上その年下の女の子に絆されるなんて……私とライラの指に、目には見えないぐらいの細い赤い糸が巻き付いていたなんて……。このときの私は全く知らなかった。
暇があれば、薊さんシリーズとして続きを書きたいな〜と思っています!
その時もぜひ読んでみて下さい。