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【完結済】異世界転移したけどチートなスキルも魔力もゼロなので、狐耳美女錬金術師に拾われてスローライフを満喫します。  作者: 橘つかさ
学園にいこう

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049.控え室

「ありえねぇーーーッ!」


 俺は武芸大会の開会式で溜まった不満を、口から吐き出すように叫んでしまう。

 場所は、各チームに割り当てられた控え室。俺が最後に控え室に入ったので、俺に視線が集まるが、気にしない。


「ソーマくん、いきなりどーしたんだい。おねーさんはビックリだよ」

「リンタロー、今のは誰でも驚くよ。大丈夫?」


 憐れむような視線を、俺に向けてくるアリシアさんとテトラ。

 ちなみにクォートは、諸注意等があるということで、大会運営本部に呼ばれて不在。

 さらに過去に買収とか諸々のトラブルから、控え室は出場者以外は入室禁止になっているため、リズとラズは控え室の外で大人しく待機している。

 ナリーサさんだけは、俺の心情を理解してくれているのか、俺と同じように打ち拉がれたような顔をしている。

 武芸大会の開会式自体は、つつがなく終わった。でも、開会式で急に発表されたチーム戦のルール変更が問題だ。

 会場が大きくざわめいたが、参加チームから抗議は無し。

 俺とナリーサさんは、思わず顔を見合わせてしまったが、他のメンバーは動揺した素振りすらない。

 自分とナリーサさんの反応が異常なのか疑いかけたが、観客の反応から見て、俺たちの反応はおかしくないはず。


 一瞬、自分の反応がおかしいのかと疑いかけたが、俺はおかしくないはず。

 俺は呼吸を整えてから、控え室のチームメンバーに改めて同意を求めてみる。


「ねぇ、チーム戦の初戦が、チームの実力に見合った魔物と戦わせて、審査員の評価点が高い上位四チームが本戦出場とかヒドくない?」

「んー、おねーさんは、試合内容の差別化が出来るって理由で、概ね納得しちゃったかなー。それに、生徒に負けるより魔物に負けた方が確執が少なくて良いんじゃないかなー」」

「リンタローは、何が問題と思っているの? どんな魔物でも倒せば良いだけ」


 アリシアさんは、ルール改訂に好意的だし、テトラに至っては意に介していない。

 |チームの実力に見合った魔物(・・・・・・・・・・・・・)って、明らかに俺たちのチームを狙い撃ちにしていると思うんだけど。


「審査員の評価点は、チームとして連携が出来ていなければ、マイナスになるって言ってたよね。ワンマンチームが不利になるようにするためだよね」

「おやおや、ソーマくん。何を言い出しているんだい? クォート様とテトラっちは、別格かも知れないけれど、チームとして機能しないほど、おねーさんやソーマくん、ナっちゃんは、ボンクラじゃないよ」

「そうですね。単純な実力では、皆さんリリーシェル騎士団中位以上には及びません。でも、連携して戦うのであれば、騎士団でも十分通用する練度はあります。だから、何も心配する必要がありません」


 二人とも全然気にしていない。この様子だと、クォートがいたとしても同じような認識だろうな。

 俺が変に気にしすぎなのか、な。

 そんなことを思い始めていると、表情を曇らせたナリーサさんが口を開く。


「きっと、わたしがチーム戦に参加しているから。ラゼル様が大会運営に働きかけたのですわ。絶対、危険度の高い魔物とわたしたちを戦わせるはずですわ。わたしのせいで、皆様にご迷惑を――」

「迷惑? そんなものがどこにあるの?」


 ナリーサさんの言葉をテトラが遮る。

 テトラの抑揚のない話し方と不機嫌そうに見える無表情に、ナリーサさんはビクッと肩を震わせる。

 テトラは怒っているわけではないのだが、彼女の外向けの態度は、読み取りにくい。

 俺が嘆息していると、アリシアさんが軽い足取りでの背後に回り込み、ポンと肩に手を置く。


「ナっちゃん、魔物といっても魔導具(マジックアイテム)で再現した魔物だから、とーぜん実際の危険度ランクも下がる。テトラっちもクォート様もいる。ヘーキヘーキ」

「あ、アリシア先輩……」

「そんな泣きそうな顔は、ナッちゃんには似合わないよ。さあ、笑顔を見せてよ。ナッちゃんの素敵な笑顔があれば、勝利が向こうからやってくるよ」


 アリシアさんが落ち着いた声音で、ナリーサさんに話しかける。

 彼女が眼を細めると、ナリーサさんは息を飲み込む。そして、頬に赤みが増して瞳が潤む。

 なんだか花が周囲に咲き乱れそうな空気が二人から漂い始めていた。

 アリシアさんは、グレーの長い髪を三つ編みにしているけれど、文系少女ではない。

 活発な子犬のような印象を受ける運動系少女。さらに言えば抽象的な顔立ちで、ショートカットにすれば、間違いなくイケメン枠。

 このままでは、耽美な世界がアリシアさんとナリーサさんを中心に繰り広げられてしまいそうだ。

 ちらり、とテトラを見ると興味津々という感じで二人を観察していた。

 うん、テトラが肝心なところで役に立たないのは、わかってた。


「フハハハッ! 実に愉快だ!」


 そんな控え室の空気を一気に書き換える快活な声。

 ドアを開けた音さえ掻き消す、安定した空気を読まないクォート。

 登場に驚きはしたが、同時に頼もしさを感じてしまう。


「おっと、我輩を待つ間、打ち合わせでもしておったのか。失敬した。もう少し感情を抑えて入ってくるべきであったな」

「……お兄様に期待していない分野です。どうぞ、周囲の視線を気にすることなく、部屋にお入りください」

「ハハハッ、いつもより切れ味が良いぞ、(テトラ)よ」


 全くダメージを受けた様子のないクォートに、テトラは露骨に嫌そうな顔でため息をつく。

 俺は、二人のやり取りを横目に、部屋の隅に重ねられていた木製のダイニングチェアを人数分、並べる。

 控え室にいたメンバーはおいおい椅子に座り、円陣が出来上がる。


「クォート、今回の武芸大会は、おかしいと思うんだ。不正が是正されるように声をあげるべきだと俺は思うんだ」

「不正? 何を言っておるのだ。貴族が黒を白と言えば、それは白が世の常だ」

「ちょ、それって、貴族は好き勝手にやりたい放題ってこと」


 クォートの言葉を否定して欲しくて、周囲を見渡すけれど、みんな納得しているように頷く。


「先に言っておくが、貴族が自分のために色々と手を回すことは、正しいことだ。より強い権利を手にしたり、より多くの富を手に入れることで、領地が潤うことが貴族の責務だからな。ま、自分の懐しか潤わない貴族は低俗すぎて、目もあてれないがな」

「今回のルール変更は、わたしが原因、でしょうか?」

「うむ! 一因ではあるな!」

「――ッ! お兄様! 少しは言葉をお選びください!」


 ナリーサさんの問いに即答するクォート。

 あまりにも気遣いのない言い方にテトラが吼える。

 しゅん、と肩を落として小さくなるナリーサさんをアリシアさんが苦笑しながら、頭を撫でて慰める。


「下手に気をつかってどうする。事実は変わらんぞ。それに我輩は一因(・・)と言ったであろう。ルール変更の発端は、ラゼルのナリーサ嬢に対する歪んだ貴族意識であるが、直接の原因は我輩と妹……いや、我輩はイレギュラーであるから、妹が直接の原因と言った方がよいな」

「……お兄様、殴りますよ」

「ちょっと落ち着いて、テトラ! さ、最後までクォートの話を聞こうよ」


 とっさに俺はテトラの後ろに回り込んで、しなだれ掛かるようにして、立ち上がろうとした彼女を制する。


「リンタロー! 離れて! そこの阿呆(クォート)を殴れないわ!」


 声を荒げるテトラと、彼女が立ち上がらない様に必死に椅子に押し付ける俺。

 それを疎らな拍手をしながら眺める面々。


「おお、凄いな、リンタロー。無意識の域に達した見事な動きだ」

「さすがソーマくん。テトラっちの反射的な動きを抑え込むなんて、おねーさんもびっくりだよ」

「……リンタローさん、凄いです」

「いやいやいや、暢気なことを言ってないで、俺を助けてよ。クォート、時間も俺の余裕もないから、早く話を進めてよ」

「ふむ、我輩の見立てでは、まだまだ大丈夫だ。妹もリンタローを気にして力を抑――」

「お兄様ッ!」


 テトラがクォートを一喝する。

 同時に肌にチリチリとした何かを感じる。背中を悪寒が盛大に走り回り、今すぐここから逃げ出せと、俺の本能が訴えてくる。

 ナリーサさんとアリシアさんに視線で助けを求めると、ナリーサさんは震えながら露骨に視線をそらし、アリシアさんは何故か爆笑していた。

 その瞬間、俺は何もフォローしてもらえないことを悟った。

 徐々に増していくテトラから放たれる圧力に、転移してからの思い出が、走馬灯のように脳裏を流れ始めてしまう。


「ハハハッ! 妹を茶化すのは、これくらいにしておこう。ラゼルの考えていた台本(シナリオ)は、ナリーサ嬢がメンバー不足で、武芸大会に不参戦というものだ。何故、ナリーサ嬢の不参戦を狙ったかは……ここで話す必要はないな」


 クォートが話し始めて、テトラが大人しくなったので、俺は椅子に座り直す。

 ちらり、とナリーサさんを見ると神妙な顔をしていた。

 よくよく考えれば、彼女は昼食をとっていた俺たちのテーブル席に、アポ無しで突撃してきた。

 遠巻きで機会を窺っている生徒も多かったことを考えると、クォート――面識のない自分より上の貴族に声をかけるのは、リスキーな行為だと感じる。

 ナリーサさんが一人で、クォートに声をかけたのは、かなり大博打だったんじゃなかろうか。


「妹は秘蹟(ひせき)科とはいえ、剣の腕前は確かだ。生徒でまともに戦えるヤツはおらぬだろ。遠距離に徹して、疲弊したところを叩くという作戦もあるが、限られた空間と時間に限りがある試合で、妹がバテるとは考えにくい」

「当然です。試合会場を数時間、走り回ることなど、魔物大量発生現象(スタンピード)に比べれば朝飯前です」

「そして、我輩が加わり、何とかメンバーが揃ってしまったわけだ。端からラゼルの台本通りに事が進んでない。そこでなりふり構わず、我輩たちを初戦敗退させる強引な策を講じたというわけだ。我輩や妹が魔物にトドメをさせば大幅な減点をしてくるだろうな」


 そう言うと、クォートは愉快そうに笑い始める。


「策を講じるのは実に良い! 貴族たるもの暗躍するのは趣があって良い! 指摘するならば、誰の差し金で話が動いたのかバレバレな稚拙さは学園ということで、目を瞑ろう!」


 バンバン、と自分の膝辺りを手で叩きながら、クォートは笑いながら言葉を続ける。


「だが! しかし! 誰に牙を剥いたのかわからせる必要がある! 学園は学舎だからな、骨の髄までしっかりと教え込まなくてはな!」

「お兄様、当たり前のことを大袈裟に宣っているのですか? 愚策など圧倒する武力でねじ伏せれば良いだけです」

「ハハハッ! 当たり前であったか! すまぬすまぬ!」


 何故か視線を合わせて笑い始めるテトラとクォート。

 二人は確かに笑っているのだが、目は全く笑っていない。


「り、リンタローさん……」

「そ、ソーマくん。おねーさんでも二人を止めることは難しいかな」


 涙目で訴えてくるナリーサさんに、珍しく逃げ腰のアリシアさん。

 テトラとクォートを止めて、という思いがひしひしと二人から伝わってくる。

 うん、それは俺では無理無茶無謀。出来ることなら今すぐここから逃げ出したい。

 俺とアリシアさん、ナリーサさんは、三人で身を寄せあって、テトラとクォートが落ち着くまで待つしかなかった。


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