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027.ルート確保?①

「はぁ、はぁ、はぁ……。なんとか巻けた、かな?」

「カースハウンドは確実に追ってきてないと思うけど……」


 膝に手つき肩で息をする俺と、剣と盾を構えて周囲を警戒するテトラ。

 背負子の重量は俺の方が重いけど、剣と盾を合わせるとテトラの方が重い。だけど、テトラは若干肩が上下する程度で、全然余裕そう。

 俺も元の世界にいたときよりも体力がついているはずなのに。ちくしょう。

 テトラの様子から、魔狼を巻けたかどうかわからないことを俺は察する。ボス魔物は居城でシンボルエンカウント以外しないと信じたいところ。

 息が落ち着いてきたので、上体を起こしてテトラの横に立つ。浮かない顔をしたまま、テトラは周囲をキョロキョロと見渡していた。


「リンタロー、現在位置ってわかる?」

「……がむしゃらに走ったから、現在位置の把握はさすがに出来てない」

「そうよね」


 そう言いながら、テトラは親指と人差し指で作った円くらいの懐中時計みたいな物を胸元から取り出す。小さな鎖がチャラチャラと鳴る。

 蓋を開けると中は時計のように見えるが、文字板はなく、時針だけがついていた。テトラは懐中時計もどきを地面と水平に持つと、りゅうずを親指で押し込む。するとキリキリと時針が回り始める。そして二、三周すると十時くらいの位置でピタリと止まる。


「んー、北はアッチみたい」

「あ、これ方位を調べる魔導具なのか」

「リンタロー、魔導コンパスを見たことなかったの?」

「うん。シノさんかテトラの後ろをついて行くだけだったから、方向とか気にしてなかったよ」


 俺は魔導コンパスと地図を交互に見比べる。方向はわかっても現在位置がどこなのかわからない。

 ゲームの地図みたいに自動マッピングして、現在位置も表示できる魔導具(マジックアイテム)ないのかな。

 俺が地図を睨んでいると、テトラが地図の一部を指差す。走り書きで何か書かれている。


「大きな丸い岩って書かれているわ。夜みたときは気にならなかったけど、お師様がヒントで書いてくれてるんだと思う」

「ヒント、か。シノさんならあり得そう」

「でしょう。ヴァン山脈の辺りだけ、書き込みがあるの。地名かな、と思ったけれど、なんか不自然」


 テトラの指摘を頭に、地図を眺める。文字は読めないけれど、文字の書かれている地点を等高線を意識して繋げると、フローズヴィトニルの巣穴に滑らかに繋がる気がする。

 中には等高線の間隔が短いところがあるけれど、最短ルートってやつになるのかな。

 俺はテトラが"大きな丸い岩"と言った地点から、指で文字がある地点を通りながら、巣穴までを指でなぞる。


「"白い崖"、"小さな庭"、"崖の細道"、"枯れた大木"……」

「等高線を踏まえると、ぐねぐねしているから距離であるけど、比較的になだらかなルートだと思う」

「うん。リンタローの体力を考えると妥当なルートだと思う」

「かなり、予想が入っているから外れているかもしれないけど、現在位置がこの辺りだと仮定して、白い崖? を目指そう」


 俺はヴァン山脈の入り口と"白い崖"の中間地点辺りを指差し、テトラに確認する。テトラは眉を顰ませて、地図を睨む。


「私の予想だと、もう少し近いと思う。あと、私の気のせいかもしれないけど、私たち臭くない?」

「へ?」


 唐突な指摘に俺は呆気にとられてしまう。逃げることに必死で臭いとか気にしてなかった。

 くんくん、と鼻を鳴らして臭いを確認す。テトラから漂ってくるほんのり甘い香り、それを全力でぶち壊す臭い。鼻の奥を殴り付けてくるような臭いは、間違いなく悪臭玉の残り香だ。

 悪臭玉をカースハウンドに投げつけずに、足元の地面に叩きつけたから、臭いが俺とテトラに付着したってこと? なんて扱いに困る魔導具(マジックアイテム)だ。


「……逃げる時に使った悪臭玉の臭いだと思う」

「ええ! たったアレだけで臭いがついたってこと! ねえ、リンタロー、この臭いもうとれないの?」


 心底嫌そうなテトラ。少し涙目になりながら俺に訴える。

 俺も臭いがとれないのは嫌だけど、ここまで簡単に臭いが移るとは思ってなかったんだよ。

 移り香の対処法など、シノさんから教わっていないが、俺はダメもとで消臭玉を腰の巾着から取り出す。


「リンタロー、それは?」

「消臭玉っていう悪臭玉の対になるやつ。室内とか洞窟とかで悪臭玉を使って、臭いが残った場合に使うみたい。成功するかわからないけど――」


 そう言って、俺はテトラから一歩離れ、俺とテトラの間の地面に消臭玉を投げつける。クラッカーボールみたいに、パン! と音を立てて消臭玉が弾けた。特に煙がもうもうと立ち上ったりはしない。

 何のエフェクトも起きないので、バツが悪い。俺はポリポリと頬を掻きながら、テトラを見る。

 俺の心配をよそに、テトラは真剣な顔をして周囲の臭いを嗅いでいた。ピクピクと鼻の穴を動かすのは美少女としていかがなものだろうか。


「くんくん……。リンタロー、これスゴいよ。悪臭玉の臭いどころか、体に染み付いていた剣とかの手入れ油とか薬草とかの臭いとかも軽減されてるよ」


 驚いた顔をしながら右手を俺の鼻先に付き出してくる。これは匂いをかけということなのか。

 ニコニコ顔のテトラ。クソッ、可愛すぎる。この笑顔を前に断ることが出来るわけない。

 俺はドキドキうるさい自分の心臓を殴り付けて黙らせたい気分で、テトラの右手の匂いを嗅ぐ。緊張しすぎて、全く匂いがわからない。

 俺、ヘタレすぎだろ……。


「ああー、うんうん。確かに軽減されてる、かも」

「でしょ! 消臭玉単体で売れると思うわ! リンタロー、あとで、お師様に相談よ!」


 アキツシマ錬金工房の新商品候補に、テトラの鼻息が荒い。だから美少女として――略。

 俺は周囲を伺いながら、興奮気味のテトラに声をかける。結界装置(タリスマン)を設置せずに長時間同じ場所にいるのは得策ではないはず。


「とりあえず、"白い崖"を目指して移動しよう。同じところに留まると魔物も集まるだろうから」

「そうね。それに今なら消臭玉で、私たちの臭いが抑えられているみたいだから、移動のチャンスだもの」


 テトラを先頭に俺たちは、薄暗い木々の間を縫うようにして先に進み始めた。


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