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【完結済】異世界転移したけどチートなスキルも魔力もゼロなので、狐耳美女錬金術師に拾われてスローライフを満喫します。  作者: 橘つかさ
駆け出し蒐集師

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022.新たなる力③

 シノさんが用意してくれた緑茶――扶桑産――で一息いれる。彼女は俺が丸めて並べた消臭玉を満足そうに眺めている。


「やはり凛太郎は筋良いの。この出来の消臭玉ならば品質はB以上は間違いなしじゃ。それでは安心して悪臭玉の調合に入るとするかの」

「はい。お願いします」


 ふう、と息を吐いて気を静める。

 脳みそが狂いそうな悪臭を再体験したくない。必ず悪臭玉の調合は成功しないといけない。


「凛太郎、そう(りき)むでない。調合は正味のところ素材を正しく処理し、正しい手順で適量を混ぜ合わせるだけで完成じゃ。簡単じゃぞ」

「素材を混ぜて錬成する錬金術の方が、断然簡単だと思うんですけど……」


 チッチッチッと立てた人差し指を振るシノさん。彼女がニヤリと笑うと艶やかな唇から形の良い犬歯が覗く。

 ドキンと俺の心臓が跳ねた気がした。


「素材を用意して、錬成陣に魔力を流すだけ。錬金術の方が簡単。などと言われて久しいのじゃが、高難易度の調合でなければ、調合の方が単純じゃ。金に窮した錬金術師が錬成陣を売り払っていなければ、今でも調合の方が一般的だったじゃろうな」

「売り払うって……。錬金術師にとって錬成陣は探求の成果で秘匿されるものってイメージがあるんですけど……」

「まあ、先立つものがなければヒトは生きていけぬということじゃ。結果、錬金術師ギルドが設立され、考えなしに錬成陣が世間に出回らぬ様に管理することになったわけじゃ」


 なるほど、と俺は納得して頷く。

 金がなければ生活できないのは異世界も同じだよな。この世界に武士は食わねど高楊枝とか無さそうだよな。


「では、悪臭玉の調合を始めるぞ。まずは、よく乾燥した馬糞じゃ」

「ば、馬糞ッ!」


 俺は反射的に作業台から飛び退く。

 シノさんは俺の反応に首をかしげる。

 いや、糞という単語に対して、俺の反応は日本人として普通の反応だよ。そんな頭がおかしいヤツを見るような顔は止めて欲しい。


「もうカラッカラに乾燥して手に付くことも臭いもないぞ」

「いや、まあ、わかるんですけど……」


 シノさんに俺は曖昧な笑顔で返す。


「よくわからぬが、続けるぞ。馬糞を薬研で細かく粉砕する。馬糞以外のものを使っても構わぬが、効能に差が出る場合があるので注意じゃ」

「は、はい。わかりました」


 返事をしながら視線で作業台の上を探すが箸らしき物はない。

 素手で触るしかないのか。ハァー、とため息をついて俺は諦める。

 黄土色の物体、馬糞を摘み上げて薬研に入れる。

 薬研車で潰すと簡単に砕ける。水分が完全に抜けきってるみたいだ。若干臭いがするが耐えれない程ではない。


「次はルホラシナの花弁。手で小さく千切ってから乳鉢ですり潰すのじゃ」

「なんか肉厚な花弁ですね。あと色と見た目が生肉っぽいですね」


 ちょっとグロく感じるルホラシナの花弁を手に取る。肉厚だけど重さはない。力をくわえるとポキッと折れる。プラスチック、いや発泡スチロールみたいな感触だ。

 乳鉢に入れて、乳棒で丁寧に押し潰す。大きな粒が多くて、なかなか綺麗にすり潰せない。そして徐々に鼻にツーンとくる臭いが乳鉢から漂ってくる。


「ふむ、そこまで潰せば十分じゃな。次は別の乳鉢で腐臭石を粉末にするのじゃ」


 ピンポン玉くらいの黄色い鉱石を手に取る。温泉のような匂いがする。硫黄っぽい物質なのかな。

 乳鉢に入れて、乳棒で押すとすぐに砕ける。これなら簡単に粉末に出来るな。


「良き手際じゃ。ここからは一気に仕上げる必要があるので、よく聞くのだ――」


 シノさんの説明を聞きながら、俺は手早く調合を進める。

 まずは適度な大きさに千切った風切り草――オジギソウみたいな見た目――の葉を乳鉢ですり潰し、スライムの体液をくわえる。

 十分に混ざったら、別の乳鉢にナルツの実――ゴマを数倍大きくしたような黄色い実――を入れてすり潰す。先に混ぜた風切り草とスライムの粘液を少しずつくわえて、耳たぶくらいの固さにする。

 残った風切り草とスライムの粘液に粉末にした素材を同量になるように、少しずつくわえて、心持ち柔らかく混ぜる。

 二種類のタネが出来上がり、俺は首をかしげる。


「シノさん、出来ました。けど、なんで二種類なんですか?」

「そうしなければ、臭いが臭すぎて持ち運びも出来ないからじゃよ。ナルツの実を最後にくわえたのが皮で、もう一方が餡じゃ。重量比が皮が一、餡が二になるように丸めるのじゃ。皮で餡を完全に包まなければ、時間が経つにつれて悪臭がし始めるので慎重に作業するのじゃぞ」

「うわっ、それはイヤだ……」


 俺は悪臭体験を思い出して顔をしかめる。俺の反応を見て、シノさんはいたずらっ子のような笑みを浮かべていた。


「ほれほれ、はよう作るのじゃ、凛太郎。時間が経つと餡の素材が馴染んで悪臭がするようになるぞ」

「――ッ! それを早く行ってくださいよ!」

「言ったであろう。一気に仕上げる必要がある、とな」


 じわじわと作業台から距離を取るシノさん。もしかして、獣人族だから、俺よりも嗅覚が良くて、すでに悪臭がしだしてる?

 俺は作業台の悪臭玉の皮と餡に慌てて手を伸ばす。

 重量比は一対二。でも悠長に計って作る暇はない。

 餡は消臭玉より一回り小さいくらいの量を取り、目分量で皮を取る。手早く餡を丸めると、手で押し伸ばした皮で包み込む。餡がはみ出ていないことを確認して、綺麗に丸める。皮を捻って閉じたところは、パッと見でわからないように仕上がった。


「うむ、よい手際じゃぞ。そのまま一気に作り上げるのじゃ」


 すでに作業台から数メートル離れた位置に立つシノさん。

 どれくらい猶予が残されているのかさっぱりわからない。


「し、シノさん、どれくらい経つと臭くなるんですか?」

「すでに臭かろう。短耳(たんじ)族でも四半刻の半分ももつまいな」


 四半刻は三十分くらいだから、十五分以内くらいか。この量を仕上げるのに十五分は厳しくないか?

 いたずらが成功した子どものような笑みで俺を見るシノさん。いつでも逃げ出す準備万端という感じだ。よく見ると背後に部屋のドアがあるし。


「先に言っといてくださいよ!」


 俺は死に物狂いで悪臭玉を仕上げていく。途中で指がつりそうになったけど、なんとか悪臭が立ち込める前に作業は完了した。

 シノさんに振り回されるテトラの苦労を察し、素直にテトラはすごいと思ってしまった。


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