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【完結済】異世界転移したけどチートなスキルも魔力もゼロなので、狐耳美女錬金術師に拾われてスローライフを満喫します。  作者: 橘つかさ
駆け出し蒐集師

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018.新しい採取場

「リンタロー、そろそろ私も考えなくてはいけないと思うの」


 椅子に座ってぼんやりしているとテトラが急に声をかけてきた。場所はアキツシマ工房の店舗フロア。最後の客が帰って一時間は経過していると思う。


「……何を考えるの?」

「新たな魔導具(マジックアイテム)の錬成よ。やっぱり初級ポーションだけじゃ魅力が足りないのよ」


 強い意志の感じられる瞳で、テトラは俺を真っ直ぐに見つめる。

 普段なら緊張したり、共感したりするところだけど、俺は苦笑いをしてしまう。


「さっきの客に、まだ怒ってるの?」

「初級ポーションしか取り扱ってないのは千歩譲って、私の実力不足として納得するわ。ただ……あの連中は、お師様の作った物まで文句をのたまったのよ! 断固許すまじ!」


 ダーン! とカウンターに両拳を叩きつけるテトラ。全身から怒りのオーラが滲み出ている。頬を膨らませ、怒りを露にしている表情は可愛いのだが、ほんわか眺めているわけにもいかない。

 ちらり、と奥の通路に視線を向けると、柄が真ん中から折れている箒が置いてある。テトラが気晴らしに、掃き掃除を始めた直後にバッキリ折ったからだ。

 どうも感情が高ぶるとテトラは脳筋傾向になる気がする。そのうち暴れて工房を破壊するかもしれない。見た目はクールな頭脳派になんだけどな。


「えーっと、バカにした駆け出しっぽい冒険者を見返すために、錬成レシピを増やすって理解でよい?」

「さすが、リンタロー。その通りよ。もっと取り扱う魔導具が増えれば、ああいう不貞な輩も減ると思うの」

「来客が増えるから、比例して文句を言う客も増えそうなんだけど……」

「そんな輩は叩き出せばいいのよ。有名店になれば、客に媚びることなく、我が道を往くことが出来るはずだわ」


 グッと拳を構えるテトラ。彼女の瞳にメラメラと情熱の炎が立ち込めている、気がする。

 初めて会ったときと比べると確実に熱血度が上がってるよな。


「レシピを増やすってことは、いつもの平原以外の場所に素材を採取に向かうんだよね?」

「そうよ。歩いて一時間くらいの所に森にいく予定よ。中級ポーションとキュアポーションの素材が採取できるはずよ」

「レシピって、シノさんに聞いたの?」

「……錬金術師ギルドの資料室で調べたわ。いくつかのレシピを見比べて、近隣で集まりそうな素材をチョイスしたオリジナルレシピよ。不満ある?」

「んにゃ、ないよ。俺は素材を集めるしか出来ないから。どっちかと言うと、遭遇する可能性のある魔物が気になるかな」

「魔物は……何が生息していたかしら……」


 ローブの内ポケットから、年季の入った手帳を取り出すテトラ。彼女はパラパラと手帳を捲る。しばし沈黙が続き、パタン! と音を立てて手帳が閉じる。


「思ったより、魔物の種類が多かったわ。クビキリ虫、スピアラビット、ポイズンスネーク、ゴブリンね。あ、スライムもいるわね」

「……そんなところに行ったら、俺は死ぬよ?」

「魔物で溢れかえっているならまだしも、割と駆け出しの冒険者も行く場所だから安全だよ」


 俺の言葉が理解できないといったご様子のテトラ。可愛らしく首を傾げる姿に、はてなマークが浮かんでいるのが見える、気がする。

 魔物が徘徊する世界と平和ボケの日本人の違い、これが世界間の断絶(ワールドギャップ)とでも言うべき意識の違いなのだろうか。

 今までの俺なら、森に行くことを断固拒否した。しかし、今の俺は違うシノさんに伝授された新兵器がある。

 新兵器を新たな魔物に披露するのは悪くない。


「行こう、森に。テトラ、いつ出発する?」

「……リンタロー、何か私に隠してる?」

「き、急にどうしたの? 特に何も隠すようなこと、俺にはないよ」

「ホントに?」


 テトラがジト目で俺を睨む。

 俺は反射的に目をそらす。それを見て、テトラがジリジリと距離を詰めてくる。見えない威圧感(プレッシャー)にじわじわと脂汗が滲んでくる。

 新兵器――炸裂玉をテトラにバラすのは簡単。そうすれば、この威圧感から解放される。だか、その選択肢をとることは出来ない。

 何故なら魔物と戦っているときに、俺は新兵器を披露したいんだ。


 シノさんが店舗フロアに顔を出すまでの数十分間、俺はテトラの威圧感(プレッシャー)に耐え抜いた。




 俺の目の前に広がるのは鬱陶と生い茂る木々――ではなかった。適度に間伐されて明るく、人がよく分け入るため、けもの道がはっきりと出来ていた。

 想像が外れて、気が抜けしていると、気合い十分なテトラが装備を確認しながら声をかけてきた。


「途中、荷馬車に乗せてもらえておかげで、半分くらいの時間で着けたわ。ラッキーだったね、リンタロー」

「そーだね。俺の予想以上に街道に近くてビックリだよ」

「だから駆け出しの冒険者もよく行く場所って言ったでしょ。街道近いから魔物が大量発生して溢れ出したら危険だもの」


 たぶん、冒険者ギルドとかで、定期的に討伐クエストを発注して、魔物の間引きしてるんだろうな。魔物がいる世界での常識といったところだろうか。

 元の世界でも猟師が減って獣が人里に悪さするとかテレビで言ってたけど、魔物が人里に出現したら大惨事たよな。


「リンタロー、準備は万端?」

「んー、たぶん大丈夫、かな」


 俺は自分の姿を確認する。

 シノさんが色々と付与してくれた紺色のローブ。その下には軽量の皮鎧。武器は今一つ何がよいのかわからないので、テトラから借りたナイフをベルトの後ろ――腰側に横にして装着。

 円匙(えんし)とか採取に使う道具はベルトに下げる。秘密兵器――炸裂玉を入れた巾着も括りつけている。炸裂玉は取り出しやすいようにもう少し工夫したいな。

 ただ、どう考えても野山にはいる格好じゃないよな。テトラもいつも通りのメイド服にローブ。草木にアッチコッチ引っ掻けそうだ。


「リンタロー、何か言いたそうな顔してるけど」

「いや、気にしないでくれ。それよりココで何を採取すればいいんだ?」

「気になるなー……。とりあえず、採取したい素材についてまとめてきたから、渡しとくよ。中級ポーションがカンディラ、アンデリコ、サザの実。キュアポーションがクラーリジとチャンガ。カンディラとアンデリコ、クラーリジは花が咲く野草だから見つけやすいと思うわ。チャンガはキノコで見つけにくいから優先度低め。サザの木は背丈からちょっと高いくらいで小さな赤い実がつくから見つけやすいかも」

「りょーかい。野草は根っこまで掘って採取した方がいいのか? 量の目安とかある?」

「色々と試したいから、それなりに量が欲しいかな。野草は根までついた状態が嬉しいわ」

「んじゃ、頑張って掘るよ。いつもの平原みたいに適当に移動して問題ない?」


 俺の質問にテトラは目を瞑る。そして、周囲に意識を集中する。

 時間にして数秒。彼女は実を開くと同時に「ふぅ……」と息を吐く。


「強そうな気配はないから、危険は少ないと思うけど……。初めての場所だし、互いに目の届く範囲で行動するようにしましょう」


 俺は頷いて了解する。

 テトラのことは信じているけど、森とか魔物のエンカウント率が上がりそうだよな。採取に熱中しすぎて魔物に囲まれるような事態にならないように注意しておこう。




 森の入り口から、三十分ほど分け入った地点で、俺とテトラは黙々と採取していた。

 カンディラとクラーリジがたまたま群生してある場所を見つけたからだ。

 カンディラは小さな黄色い花弁が集まった丸い花をつけ、クラーリジはまっすぐに伸びた茎に紫の小さな花が無数に咲いている。

 森の中で、そこだけが黄色と紫色になっているので、簡単に見つけられた。


「ふぅ、そろそろ腰が(いて)ぇ……。テトラ、そろそろ休憩しない?」

「……そうね。運良く群生地帯見つけれたおかげで、まとまって採し――ッ! リンタロー!」

「おう!」


 テトラの気配が瞬時に切り替わる。採取道具を放り出し、ナイフを鞘から抜いて順手に構える。

 剣と盾を構えたテトラが俺の前に立つ。ピリピリとした気配が肌越しに伝わってくる。


「た、助けてくれぇー!」


 十代くらいの少年冒険者が木々の隙間から飛び出してきた。真新しい革鎧はアチコチ傷だらけ。


「て、てめぇは!」

「邪魔ッ!」


 動きを止めた少年冒険者をテトラが一喝。ヒーターシールドで、雑に払い退ける。

 こいつ、冒険者ギルドで絡んできたやつじゃね?

 肩越しにテトラが俺に視線を送ってくる。正解かどうかはわからないが、念のために持ってきていた小瓶――テトラ製初級ポーションを取り出す。


「おい、今のうちに回復しときな」

「……ありがとう」


 少年冒険者に小瓶を投げ渡すと素直にお礼が返ってきた。ちょっとビックリだ。


「リンタロー、きたよ!」


 ガサガサと草を掻き分けて出てきたのは円錐状の角を額に生やしたウサギ。スピアラビットってやつかな。大型犬くらいのサイズがある。牙も爪も鋭いから可愛さは微塵もない。


「いち、に、さん。他に気配……なし。リンタロー、一気に片付けるよ」

「俺に任せろ! 俺の新たなる力だッ!」


 盾を構えるテトラの脇をすり抜け、巾着から取り出した炸裂玉を三個取り出す。


「リンタロー、邪魔しな――」

「くらい……やがれッ!」

 魔物に炸裂玉を投げつける。

 一体に一個。三個投げれば文句無しの効果だろ。

 勝利を確信し、ニヤリと笑った瞬間、衝撃に貫かれて俺は意識を失った。


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