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【完結済】異世界転移したけどチートなスキルも魔力もゼロなので、狐耳美女錬金術師に拾われてスローライフを満喫します。  作者: 橘つかさ
見習い錬金術師

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「いらっしゃい、リリーシェルさん、ソーマさん。今日は良い話を聞けそうな感じね」


 俺とテトラが錬金術ギルドの建物に入ると、箒を手に掃除をしていたミリーさんが声をかけてくる。


「はい! もちろんです!」

「こんにちは、ミリーさん」

「あ、こんちにわです」


 返事をして胸をそらしていたテトラは、俺が挨拶をしたのを見て、慌てて挨拶をする。

 ミリーさんは、挨拶を忘れても気にしないと思うけど、挨拶は大事だよな。信頼とかに繋がるし。

 ニコニコと微笑みながら、ミリーさんは掃き集めた塵芥をちり取りに掃き入れながら、いつも自分が座っているカウンターを指差す。


「ゴミを始末したら、すぐに入るから、先に座っていて」

「わかりました」


 パタパタと足音を響かせながら、奥の方に消えるミリーさん。

 俺はチラリとテトラの様子を確認すると胸の辺りで抱きしめるようにして持つ麻袋。中には缶コーヒーくらいのガラス容器――通称ポーション瓶が六つ入っている。

 テトラ謹製の初級ポーション。

 シノさんの鑑定によるとB等級のなかなか高品質なもの。

 合格確定と太鼓判を押して貰ってはいるが、ギルド登録の件がある。シノさんの判定基準と今の錬金術ギルドの判定基準に、差異がないとは限らない。

 つまり、ミリーさんから、合格を判定を貰うまでは、気が抜けないと考えるわけだ、俺は。


「ん? リンタロー、どうしたの? なんか不安そうな顔してるよ」

「あ、いや、なんでもない」

「変なリンタロー。早くカウンターの席に座って。ミリーさんを待とうよ」

「……そうだな」


 にっこりと陰りのないテトラの笑みに、俺は思わず自嘲してしまう。

 錬成した当の本人が、不安な様子は一切見せていないのに、端で見ていた俺が不安そうにしてどうするよ。

 俺はテトラのあとに続いて、カウンターの椅子に座る。

 数秒もしないうちに、ミリーさんがカウンターの向こう側に現れる。


「では、リリーシェルさん。提出する初級ポーションを出してください。あ、一本以上の提出が必要なのは知っているわよね?」

「はい、知ってます。まぐれでないことと、何度でも同じものを作れる証明に、複数回分を持っていけと、お師様に言われました」

「さすがはアキツシマさんね」


 ミリーさんの表情が一瞬、なんとも言えない顔になった。

 そういう大事なことは知っているのに、常識がないのは何故だろう、とシノさんに対して心のツッコミを入れたに違いない。

 テトラはミリーの様子には気づいた素振りはなく、麻袋から六つのポーション瓶を取り出して、カウンターに並べる。


「初めて初級ポーションの錬成に成功した日の翌日に、提出用に三回錬成を行いました。そして、一回あたり二本ずつ提出用を準備しました。ミリーさんから見て、右から一回目です」

「ハァー、本当に、こういうところは尊敬に値するのに……」

「ミリーさん、何か問題でも?」

「はっ、いえいえ、リリーシェルさんには一切問題がないわよ。他の仮免の人たちにも見習って欲しいくらいよ」


 慌てて取り繕うミリーさん。テトラは不思議そうに首をかしげる。

 シノさん、いったいどれほどギルドに迷惑かけているんだろうか。


「では、確認させてもらうわね。あ、今回提出した初級ポーションは、商品として問題ないと認められた場合、ギルドから買取金額相応のお金を支払います」


 テトラはコクリと頷く。

 つまり商品として認められなければ、支払いはなしってことか。

 ミリーさんは、真剣な顔をして一回目に錬成したポーションを手に取る。蓋を開けて、一滴ポーションを手の甲に垂らす。

 ジッと見つめた後、匂いを嗅いでから、ペロリと小さな舌で舐める。しばらく舌を口内で転がしてから、嚥下する。

 するとミリーさんは険しい表情で、手にしていたポーション瓶を睨む。

 その反応に、ピクリとテトラの体が動く。彼女の表情に大きな変化はないが、不安そうなオーラが俺には感じられた。


「……ちょっと失礼します」


 そう短く告げてミリーさんは席を離れる。

 一呼吸置いて、ギギギッと音が聞こえてきそうな動きで、テトラが俺の方を見る。目が潤んでおり、泣き出すまで秒読みと言った感じがある。


「リ、リンタロー、私の初級ポーション失敗作?」

「そんなことは絶対にないから」

「で、でも、ミリーさんが私の初級ポーションを見て……」


 俺はポンポンとテトラの頭を優しく撫でる。


「シノさんが言ってただろ。C等級あれば十分って。たぶん、テトラの初級ポーションの品質が良すぎてビックリしたんだよ」

「本当?」

「本当、本当。だから安心しなよ」

「……うん、わかった」


 目尻に滲んだ涙を指で拭い、テトラは表情を引き締める。

 口から出任せだけど自信はある。自信はある。だから、俺の予想よ、当たれ。


「フォフォフォ、待たせたの」

「ぎ、ギルドマスター!」

「立たんでよい、立たんでよい。すぐに用事は終わるからの」


 ミリーさんを連れて現れたのは小柄な老人――ギルドマスターだった。彼はミリーさんが持っていったポーション瓶を手にしていた。


「まず、テトラ嬢の初級ポーションだが、品質が良すぎじゃ。一、二割ほど水を混ぜて薄めないと他の者が錬成したポーションと差がありすぎる」

「……ポーションの品質が高すぎるとダメなんですか?」


 俺は反射的に訊ねてしまう。ギルドマスターは嫌な顔せず、質問に答えてくれる。


「勿論じゃ。毎回、テトラ嬢の錬成したポーションを使えるのであれば問題はない。でも、そうでない場合、効果が違うとどうなると思う?」

「……予想していた回復効果がなくて、ピンチになる、とか」

「その通りじゃ。だから、ある程度、品質を合わせる必要がある。あとはテトラ嬢のポーションばかり売れるようになると、冒険者が押し掛けたり、売れないポーションの恨み妬みとか面倒な話になるぞ」


 なるほど、と俺は納得する。

 アイテム名は同じ。でも、一つ一つで効果が極端に違えば博打感が増す。回復アイテムに求められるのは安定性だよな。

 テトラのポーションばかり売れて独占状態になるのもよろしくない。延々と急かされてポーションを作らされると過労死しそうだし、他の店のポーションが売れなければ、妬み嫉みで工房を襲撃されるかもしれない。

 何もかも程ほどが大事だ。


「……私の初級ポーションは、大失敗、なんですね」

「んにゃ、見習いで、この品質で錬成出来るのであれば大成功じゃ。さすがはアキツシマの弟子と言ったところだな」


 ギルドマスターがニカッと笑う。テトラは目を見開いて硬直してしまう。

 しばらくして、くしゃくしゃな笑顔を見せる。

 俺はソッと手を回し、テトラな背中を撫でる。


「おーおー、アキツシマからは考えられない純粋さじゃな。ミリー、残りのポーションもしっかり買い上げておけ。金額は通常の価格の三割増しで。ミリーの方で品質を調整して、冒険者ギルドに卸すやつに含めておいてくれ。ほれ、テトラ嬢。正式なギルドカードを受けとれ」

「……あ、ありがとう、ござい、ます」

「礼を言うものじゃないぞ。新たな錬金術師にギルドカードを手渡す。儂の大事な仕事じゃからな」


 そう言って、銀色のカードをテトラに手渡すギルドマスター。

 受け取ったカードを凝視するテトラ。なんと書いてあるか俺にはわからないが、きっとテトラの名前とか職業が錬金術師とか書いてあるのだろう。

 テトラがカードを抱きしめて、泣きながら笑う。


「リンタロー、私、正式な錬金術師になれたよ……」

「うん、おめでとう」

「おめでとうございます、リリーシェルさん」


 俺とミリーさんは、喜びにうち震えるテトラをしばらく眺めることになった。

 その後、ミリーさんからギルドの説明などを受け、テトラは正式に錬金術師ギルドの一員として迎え入れられるのだった。


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