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【完結済】異世界転移したけどチートなスキルも魔力もゼロなので、狐耳美女錬金術師に拾われてスローライフを満喫します。  作者: 橘つかさ
見習い錬金術師

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013.再チャレンジ②

「おめでとう、テトラ!」


 珍しく感情を露にして喜ぶテトラの笑顔は眩しく、俺はドキドキしてしまう。


「ありがとう、リンタロー。貴方のサポートがあったから、成功できたわ」

「いや、テトラの努力があってのことだよ」


 互いに手柄を譲り合う俺とテトラ。なんだか背中がこそばゆい。

 俺の分かりにくい説明で、錬成を成功させたのだから、すごいのはテトラだよな?

 俺とテトラのじゃれ合いを、シノさんが咳払い一つで静める。

 そして、シノさんはテトラのそばに歩み寄る。


「さて、妾の見立てで、テトラが錬成した初級ポーションは、品質Bランク。実際、市場に出回っている魔導具(マジックアイテム)の平均品質はCと言われておる。錬金術師ギルドに正式登録されるのは確実じゃ」

「――ッ! 本当ですか、師匠!」

「ああ、嘘を言うても仕方あるまい。当初の予定では、錬成室と一緒に渡すつもりだったコレも渡しておくのじゃ」


 シノさんはローブの袖に手を突っ込み、ゴソゴソと何かを探す。すぐに取り出せる予定だったのか、シノさんの表情に微かな焦りを感じる。

 数分が経過して、ようやく目当てのものを探しだしたのか、安堵のため息をこぼしながら袖から手を引き抜く。

 それは浅葱色(あさぎいろ)のローブだった。シノさんが普段から着ているローブと同じもののように見えた。

 チラリ、とテトラの反応を確認してみると、緊張した面持ちでガタガタ震えていた。


「し、師匠……」

「うむ。テトラは妾の弟子として錬金術師に成ったのじゃ。今までのように学園生が身につける大量生産されたローブでは格好つかぬであろう」

「あ、ありがとうござ……います……」


 テトラは震える手で、シノさんからローブを受けとる。そして、瞳に涙を滲ませながら、両腕でギュッと抱き締める。


「ヌイグルミの様に扱うものではないのじゃ。はよ、着てみよ」

「は、はい」


 目尻に滲んでいた涙を指先で拭うと、テトラは真新しい浅葱色のローブに袖を通す。

 俺が声をかけようとした瞬間、テトラはシノさんの前に跪く。


「テトラ=リリーシェル。汝は世界の真理を探求する、果てなき旅路に発つことを望むか?」

「……望みます」

「世界の深淵は、(なれ)()き、汝を砕き、汝を虚無へ還すであろう。それでも、望むか?」

「はい、覚悟の上です」

「よろしい。ならば、汝を妾の弟子として受け入れよう。今、この時より、汝は錬金術師と成った」


 場所は錬成室というのに、二人を包む荘厳な雰囲気に、俺はただ見守るしかなかった。

 シノさんはゆっくりと右手を持ち上げると、テトラの頭にかざすように五指を広げる。

 次の瞬間、淡い燐光を放ちながら、床を光の線が走る。瞬きの間に光の線は魔法陣を描き上げる。

 一瞬、視界が閃光に白く塗り潰される。俺の視界が回復した時には、テトラは立ち上がっていた。


「あれっ、そんな模様、最初からあったけ?」


 俺はテトラのローブを指差す。

 左の袖の二の腕――上膊(じょうはく)部――辺りに、二匹の蛇で描かれた円の中に月と砂時計を組み合わせた図形が白抜きで描かれていた。

 シノさんの工房の入り口に、似たような図形があった気がする。シノさんの家紋か?

 テトラは描かれている図形を眺めながらニマニマとだらしない笑顔になっていた。


「さっき妾が描くのを見ておったじゃろ」

「へ? あんなにハデに光ってたのにローブにイラスト描いただけ?」

「光? リンタロー、何を言っているの?」


 俺の言葉にテトラは首を傾げる。シノさんは何かの思い当たったような顔をしたので、後で尋ねてみるか。


「凛太郎の与太話はおいとくのじゃ。ローブの肩に描いたのは、妾が錬金術師ギルドに登録している紋章じゃ。ま、似たデザインはゴロゴロ転がっておるが、一門を表しておる。師が己の紋章を描いたローブを弟子に下賜するのは、誓いの言葉とともに残る古き良き伝統といつやつじゃな」

「師匠……お師様の紋章が入ったローブを手にすることを何度夢見たことか……。偉大なお師様の紋章が入ったローブを着ている錬金術師なんて私以外にいないと言いきって良いほどすごいことなのよ」

「単に弟子をとっ――、何でもない」


 物凄くテトラから睨まれた。火に油を投げ込む趣味はないので、俺は言葉を飲み込んでおく。


「さて、ここまでは前置きに過ぎぬ。さて、晴れて錬金術師に成ったテトラよ。最初の課題は、初級ポーションじゃったが、次は何を錬成することを目指すべきと思うかえ?」

「中級ポーションですね! 何事も順番が大事ですよね!」

「ハズレじゃ」


 うん、わかってた。シノさんが素直に順番どおりに進めるわけないよな。

 軽いショックを受けてるテトラを無視して、シノさんは言葉を続ける。


「テトラに渡したローブは、絹のような肌触りと柔らかく軽い着心地。体感温度を一定に保つだけでなく、防刃を始めとした物理攻撃耐性、耐熱など各種属性攻撃耐性、毒などの状態異常耐性を着けた冒険者垂涎の魔導具(マジックアイテム)じゃ」

「な、な、なんて、もの、を……」


 テトラが絶句して固まる。

 元の世界のネトゲ知識で察するに、二つとないおっそろしく高額なアイテムなんだろうな。

 フリーズしているテトラの姿をいたずらっ子みたいな笑顔で眺めながら、話を続けるシノさん。


「それと同程度の魔導具(マジックアイテム)を錬成することを目標とするのじゃ」

「む、無理です! このローブ、国宝級じゃないですか!」

「たかが国宝級じゃろ。この街の錬金術師ギルドマスターでも錬成できる程度のものじゃ」


 笑顔で言いきるシノさん。ギルドマスターって一流の錬金術師が就任してるのが定番な気がする。逆にいうと、一流の錬金術師を目指せってことなのかな。


「精進するのじゃぞ」


 嬉しそうに言い残して、シノさんは錬成室を後にした。


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