表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】異世界転移したけどチートなスキルも魔力もゼロなので、狐耳美女錬金術師に拾われてスローライフを満喫します。  作者: 橘つかさ
見習い錬金術師

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/162

013.再チャレンジ①

 アキツシマ錬金術工房、リリーシェル錬成室。そこに俺、テトラ、シノさんの三人でいた。

 俺の視線の先には、錬金術の下準備を行うテトラの姿がある。シノさんは揺り椅子に座りながら、彼女の姿を眺めている。

 テトラは俺たちに見守られながら、手際よく錬成の準備を整えていく。


「まずは、カミーレ草……」


 俺が素材の保管庫から運んできたカミーレ草に手を伸ばす。

 テトラは、茎から葉をちぎり、真剣な眼差しで一枚一枚を選別していく。色がおかしいもの、枯れているもの、虫に食われているものなど、彼女の基準で品質をチェックする。

 全ての葉をチェックし終えると、ふぅー、と小さく息を吐いて一息入れるテトラ。 そして選んだカミーレ草の葉を小指の先くらいの大きさの千切っていく。


「次が、タレハ草……」


 カミーレ草と同じように、品質が良いものを選別するテトラ。その間に俺は手桶に水を張り、テトラのそばに置く。


「ありがとう、リンタロー」

「お礼はいいよ。テトラは作業に集中してなよ」


 俺の言葉にテトラは微笑むと、コクリと頷く。

 選別したタレハ草の根を、手桶の水で丁寧に洗って泥を落とす。洗い終わったタレハ草はよく乾いた布で優しく水分を拭き取る。

 前回、錬成の下準備をやったときは、その作業は行っていなかったはず。

 シノさんを確認すると、嬉しそうに目を細めていた。

 ということは、テトラの増やした手順は正解なのかな。

 錬金術は素材を分解して再構成を行う。

 以前、シノさんが話していたことを俺なりに理解して整理すると、分解と再構成を完璧に制御できれば、不要なものを除くことが可能。その場合、テトラがやっているような下準備は不要になる。

 でも、そのためには使う素材を完璧に理解する必要になるが、素材の一つ一つの違いを完璧に把握して理解するなんて、到底無理。だから下準備で素材を可能な限り均一化することは、錬成の成功率や品質を上げるために必要な工程となる。

 テトラが、自分で考え、面倒くさがらずに、丁寧に素材を処理していく姿に、シノさんは錬金術師としての成長を感じているのかもしれない。

 俺はテトラが作業をしている間に、薬研(やげん)を準備する。テトラの邪魔にならないように、極力音を立てないように動くことを心がける。

 テトラのそばに薬研を置くと、カタッと小さな音が出る。音を立てない脳内任務(ミッション)失敗に、俺は舌打ちしかけて、慌てて止める。

 音で俺の行動に気づいたテトラは、笑顔で小さく会釈する。俺も会釈で返す。

 テトラと出会ってから日が浅いけれど、俺のことを少しは信頼してくれてるような彼女の気配に、自然と頬が弛んでしまう。

 テトラは薬研車を手に取ると、体重を乗せながら、ゆっくりと薬研車を動かす。しばらくすると、彼女は額にうっすらと汗を滲ませ始める。

 俺はポケットに入れていたハンカチ(洗濯済み)を取り出して、テトラの汗を拭う。彼女から俺の行動に対して不快そうな気配はなく、ホッと安堵する。同時に妙な気配を感じて振り返ると、シノさんがニヤニヤと愉快そうに笑っていた。

 何かあったときにネタにされそうだけど、今はテトラが錬成を成功させることが優先。シノさんについては務めて意識から除外することにする。


「……下準備、完了。リンタロー、補助ありがとね」

「気にすんな。それが俺の役目だからな」


 俺はニッと笑ってみせる。それを見て、テトラは頬を弛ませる。

 テトラは大きく深く息を吸うと、静かにゆっくりと吐く。そして、表情を引き締める。彼女の凛とした雰囲気に、俺も身なりを正す。


「錬成を、始めます」

「うむ。妾にとくと見せてみよ」


 錬成陣は前回から大きな変更はない。水の入ったビーカーを錬成陣の中央に置くと攪拌棒で混ぜながら、カミーレ草の葉とタレハ草の根を入れる。

 前回同様、ビーカーの中身は"野草が混じった汚い水"に変わっていた。

 テトラは慌てず、騒がず、平静を保ち、ソッと錬成陣に指先を触れる。

 ゆっくりと、ゆっくりと、テトラの身体の芯から、何かが導かれていく。

 チリチリとした熱い何か――これが魔力(・・)というやつなのだろうか。

 テトラは魔力が暴れ出さないように、慎重に、慎重に錬成陣に魔力を注いでいく。伝わってくる緊迫感に俺は無意識に唾を飲む。


「あと少し。このまま、錬成陣に――」


 下唇を噛みながら、堪えるテトラ。俺は握り拳を作り、声を出さすに彼女に声援を送る。

 次の瞬間、バチッ! という弾ける音を、俺は身体で感じた。


「――ッ! 繋がった!」


 指先から流れ出す魔力。

 そして、魔力に充たされていく錬成陣。

 錬成陣から燐光が放たれ、宙に舞い始める。

 宙を舞っていた燐光が、錬成陣の中央に置かれたビーカーを包み込む。

 燐光はビーカーの中身に溶け込み、ビーカーの中身自体が光を帯始める。


 ――蒼い錬成光


「うむ、良き色じゃ。錬金術師が、己の意思で分解・再構成を成した場合に放たれる錬成光じゃ」


 そう呟くとシノさんは満足そうに頷いていた。

 前回の錬成時は発生しなかった温かくも意思を感じる光に、俺は見入ってしまう。

 時間にすれば、ほんの一瞬だったかもしれない。錬成光が収まるとビーカーの中身は淡い赤色の液体に変わっていた。


「……出来た?」

「うむ。良き錬成じゃ。精進したな、テトラよ」

「うはっ! これが錬金術か! すげぇな、テトラって!」


 わずかに弾んだ声音のシノさん。興奮を隠しきれない俺。

 呆けていたテトラだったが、じわじわと思考が現実に追い付いていく。

 フルフルと体を震わせながら、テトラは両拳を天井に突き上げる。


「やったーーー!」


 瞳を潤ませながら、テトラは叫んだのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下記の投票リンクを一日一回クリックしていただけると幸甚です
小説家になろう 勝手にランキング
拍手ボタン
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ