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86.決闘③@テトラ

 目の前の晶石――王国に張り巡らせら結界の要石の魔導具――の魔術式に、魔力を流しながら、私は視界の隅でリンタローの戦いを見守る。

 晶石に張り巡らされた魔術式は繊細で、流す魔力は強すぎず弱すぎす、魔力量は多すぎず少なすぎず、作業には細心の注意をはらう必要がある。

 他のことに意識を割く余裕などないはずなのに、私はリンタローの戦う姿を視界の外に出すことが出来ない。


 私なら、あの男――剣士と渡り合うことが出来ただろうか?


 錬金術師として生きることを選んだはずなのに、私の頭の片隅で、そんなことを考えてしまう。

 私の神の祝福(ギフト)の暴走を抑え、私の人生を助けてくれたお師様謹製の魔導具。

 お師様に恩義を感じたし、私もお師様のように誰かを救う魔導具を生み出せるようになりたいと憧れた。

 だからこそ、お師様に弟子入りして、剣を手放す覚悟をした。

 実際のところ、錬金術の為の素材集めなどで、魔物と戦う必要性があったから、完全に剣を手放すことにはならなかったけど……。


 私は頬を伝う汗を指先で拭いながら、軽く息を吐く。

 そして、リンタローを苛烈に責め続けるチカゲを見る。

 少なくとも、あの男は、お兄様(クォート)に近い技量を持っている。

 私が対峙した場合、全力――未来視の魔眼――を使えば、均衡を保つことは容易い、はず。

 ただし、私の戦闘スタイルは剣と盾を用いて、相手の攻撃を受け流したり、受け止めるため、相手の技量に見合った剣と盾がなければ、武具を破壊されて、まともに斬り結ぶことは出来ないかもしれない。

 私とリンタローの戦闘スタイルは違う。

 リンタローは扶桑の武器――カタナを用いて戦う。攻撃を武器で受け流すことはするけれど、私のように真正面から敵の攻撃を受け止めることはしない。

 だから、圧倒的な技量差があるときは、剣の腕だけで、結果を覆すことが難しい、と思う。

 それなのに、リンタローは魔術で牽制したり、攻撃を防いだりしていない。

 ただただ紙一重で斬撃を回避し続けている。

 そのリンタローの姿が、私にはとても異質なものに映っていた。


――あり得ない。


 私の中で、私が冷淡な声で呟く。

 そうなのだ。あり得ないことが、私の目の前で繰り広げられているのだ。

 私が知っている限り、リンタローがあの男と対等に渡り合えるほどの技量はない。

 でも、お兄様を驚かせた魔術と、相手の慢心を誘えば一泡吹かせることは出来ると、私は確信していた。

 だから、リンタローがチカゲと戦うことを、お師様が言い出しても平静を保つことが出来ていた。

 それなのに、リンタローの姿は、私の想像(イメージ)を逸脱していた。


「……すごい」


 思わず呟いてしまう。

 瞬きをすれば見逃してしまうほどの速さ。

 リンタローは、チカゲの斬撃を見惚れる様な動きで回避している。

 私が考えていたリンタローの戦法は、魔術で牽制して距離を保ち、相手が冷静を欠いてきたところに、最大火力を叩き込むというもの。

 まともにチカゲと刃を交えずに、戦うことを前提にしていた。中央の騎士なら「正々堂々と戦え卑怯者」と罵ってきそうな戦法だ。

 敗北すれば領民が魔物に蹂躙されるリリーシェルにおいて、勝つことが最優先だ。

 なので、リンタローが取るであろう戦法は、技量差がある彼が、勝ちを手にするために選んだ最善策と、私は称賛するつもりだった。


 ヂヂヂッと微かに空気を灼く異音。

 私は慌てて気を静めて、いつの間にか、握りしめていた手を開きながら、魔力の乱れを整える。

 魔術式に損傷はなく、私はホッと胸を撫で下ろす。


「――っ!」


 圧倒的な澄んだ鋭い剣気。

 それまでの何処か淀んだ剣気とは違い、私の本能が最大限の警鐘を鳴らす。


「リンタ――」


 次の瞬間、リンタローの喉を、チカゲの黒いカタナが貫いていた。


「リン、タローッ!」


 思考が一瞬で怒りに塗り潰される。

 全力で床を蹴り、チカゲに肉薄する。


――□□□□□□!


 喉から迫り上がってきた獣の咆哮のような声で、私は未来視の魔眼を解放する。

 チカゲの未来――行動の全てを()るために、魔眼にありったけの魔力を注ぎ込む。


 絶対にアイツを逃がさない。


 膨大な情報に曝され、頭が握り潰されるような激痛に襲われる。

 それでも私は魔眼の能力を最大限にする。

 私の全身全霊を掛けた一撃をアイツに叩き込もうとした刹那、ガラスの砕けるような音が響き渡った。


「勝負ありじゃ」


 お師様の声と同時に私の意識は遠のいていった。




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