表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】異世界転移したけどチートなスキルも魔力もゼロなので、狐耳美女錬金術師に拾われてスローライフを満喫します。  作者: 橘つかさ
東方より来た使徒?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

146/162

82.主人公は遅れて……?

 なんだかなー……。


 俺は心の中で呟きながら、呆然とクォートを眺めてしまう。

 不利な状況下で、突然現れたクォート。

 そして、対峙するボスキャラ――ルーエルは戸惑いを隠しきれていない。

 クォートは、身長は百八十センチはあるし、金髪碧眼で端正な顔立ち。彼の圧倒的な主人公然(しゅじんこうぜん)とした姿は、嫉妬を通り越してしまい、思考停止して納得すらしてしまう。

 ただ、よくある展開なら、異世界から転移してきた俺が、クォートみたいな登場をするべきなのでは?

 そんなことを考えていると、ルーエルが苛立ち混じりの声を上げる。


「何でキミがいるのさッ! 数百万の魔物を用意しろ? 馬鹿じゃないのかッ! 僕が準備した魔物の中には、魔獣もいたんだぞッ! 腑抜けた騎士団を壊滅させて、王都を蹂躙するには十分すぎるほどの戦力だったんだぞッ!」

「ハッハッハ! ルーエルよ、冗談が過ぎるな! あの程度の魔物ならば三日三晩――いや、七日七晩相手しても余裕であるぞ」

「ふざけるなよッ! あの程度だとッ! 常人ならば一刻で正気を失うほど、強力な魔物の大群だぞッ! いくら『王国の剣』とて、折れて朽ち果てるに十分だったはずだッ!」 


 ルーエルの怒号に、クォートが動じる素振りは一切ない。獰猛な笑みを浮かべたまま、ルーエルの感情を受け止める。

 反響するルーエルの声が消え、静寂が訪れるとクォートがゆっくりと口を開く。


「ルーエル、吾輩の故郷が何処か忘れたわけではあるまい。魑魅魍魎が、こんこんとわき続け、絶望が迫る地と恐れられるリリーシェルなるぞ。我輩を絶望させるには貴殿の用意した魔物では役不足であるぞ!」


 それほど大きな声ではなかったのに、クォートの言葉は圧倒的な存在感があった。理屈も理解もふっ飛ばして、俺は彼の言葉に納得してしまった。


「……お兄様が、手加減せずに(・・・・・・)、暴れてきたのは理解しましたわ。でも、お兄様が学園(ココ)に現れたのは理解が出来ません。馬鹿みたいに王都から一直線に走ってきたんですか?」

「ハッハッハ、(テトラ)よ、辛辣な空気を感じて吾輩は悲しいぞ」


 テトラのツッコミに、クォートはルーエルから視線をそらさずに応じる。

 先程までの緊迫した空気が消え去り、いつも通りのやり取りに、俺は安堵してしまう。


「吾輩が学園に駆けつけるとが出来たのは、アキツシマ師のご尽力があってのことだな。さすがはアキツシマ師だな!」

「はぁ……お兄様、それだけではお師様が何をしてくださったのか分かりませんよ」

「ハッハッハ! アキツシマ師が何をしてくださったのか、吾輩が説明できるわけなかろう」


 自信満々のクォートに、テトラがため息をつく。

 あまりにも場違いなほど、緊迫感にかけた空気。教室で他愛もないやり取りをしているような錯覚に陥ってしまう。


「ふざけるなァァァ! 王国に巣食う害虫の分際で!」


 ルーテルの怒号とともに、全身に身に着けた魔導具(マジックアイテム)が揺らめき、どす黒い閃光が空間を塗り潰――


『囀るな、童子(わっぱ)


 黒猫――シノさんの声が響くと同時に、ルーテルの魔導具がすべて沈黙する。

 しゅるり、と床に降り立つ黒猫。

 圧倒的な存在感が空間を支配していく。


『つまらぬのぅ。だいぶ時が過ぎたというのに、保護術式は、変わっておらぬとは。まあ、そんな瓦落多(ガラクタ)じゃから、童子の玩具にはちょうどよいか』


 黒猫は器用に前足で口元を隠しながら、上品にコロコロと笑う。

 つられるように笑い出すクォート。

 しばらくは二人の笑い声だけが響く。


『笑い過ぎじゃ、悪ガキ。緊張感のないやつじゃな』

「アキツシマ師が場を盛り上げておられるのに、乗っからないのは失礼かと。なぁに、もとより緊迫する場面でもありませんゆえ、お目溢しくだい」


 一礼するクォート。

 その悪びれた様子のない姿に、黒猫――シノさんは嘆息すると、彼に前足で下がるように指示をする。


『さてさて童子、王都に魔物をけしかけるのは良い手じゃったぞ。なんやかんや言うても王国は魔物の脅威が他国に比べて低く、魔物の大量発生現象が起これば、浮き足立つからの。これもあの(・・)底抜けのド阿呆の願いの弊害じゃな』


 黒猫(シノさん)は、「嘆かわしい」と言いたげな素振りで、(かぶり)を振る。


『まあよい。建国当時は、金子(きんす)も兵もおらぬ。やれ魔物が出ただの、やれ野党が出ただの、敵国の侵略などと、てんやわんやが続いての。移動時間の無駄を省くために、妾は転移の魔導具を設置してやったのじゃ』

「そんな魔導具が自由都市に存在するはずがないだろッ! 様々な文献を調べたけれど、そんな魔導具について書かれていた文献はなかったッ!」

「ハッハッハ! 柔軟な思考が出来てないぞ、ルーエル。アキツシマ師が嘘を申されるはずなかろう。アキツシマ師が申されたなら、そうだと無条件に受け入れることが必要だろう、常識的に考えて」


 黒猫(シノさん)の言葉を拒絶するルーエル。

 以前、〝転移の泉〟を利用したことがあるけれど、厳重に管理されていた。

 王都と自由都市(ここ)までの距離がどれくらい離れているのか、俺は知らないけれど、〝転移の泉〟が設置されているのなら、何かしら情報があって然りと思う。

 クーデターを起こすような連中が、そんな情報を見落として計画するとは思えない。

 俺はそこまで考えて、何か引っかかる。

 転移って、〝転移の泉〟だけだっけ?


「あっ……そいえば……」


 思わず声が出た。

 俺は反射的にテトラに視線を送ってしまう。俺の視線に気づいた彼女も思いたあるフシがあるようだった。

 俺たちの様子に、黒猫(シノさん)がニヤリと笑う気配がした……気がした。

 そして、ルーエルが俺睨み殺す勢いで見てくる。

 余裕なさすぎだろ、怖ぇ。


『何かあれば童子を気にせずに申してみるよ』

「お師様、工房の階移動に転移の魔導具を利用してますよね」

「な――ッ!」


 テトラの言葉に、ルーエルが絶句する。

 そうなんだよな。

 あまり意識してなかったけれど、工房の地下に移動するとき、階段とかじゃなくて転移で移動してたのを忘れてた。

 さらに〝転移の泉〟みたいに管理や監視されている感じもしない。国防とか考えたら、大問題になりそうな魔導具なのに。


『転移の魔導具なんぞ、妾にとっては珍しいものではないのじゃ。尤も私物をいちいち管理するような余裕がなかっただけじゃがな、当時は。童子がもう少し新しい町を狙っていれば、結果は違っていたかもしれぬな』


 シノさんが設置していた転移の魔導具が、たまたま自由都市にあって、クォートが王都から一瞬で駆けつけることが出来た。

 種明かしをされれば。なるほどと思えなくはないけれど、納得はできない。

 後出しジャンケンで狡されたような気分だろうな、ルーエルは。

 黒猫(シノさん)は、言いたいことを言い終わって満足したのか、くるりと体の向きを変えると、俺のそばに歩み寄る。


『悪ガキ、あとは任せるのじゃ。妾たちは先を急ぐのじゃ』

「うむ、もとよりそのつもりだっ!」


 クォートの返事を聞くと、黒猫(シノさん)は、ひょいと飛び上がり、俺の背負う背嚢に潜り込む。


『ほれ、凛太郎、駆けるのじゃ』

「は、はい!」


 シノさんの言葉に俺は慌てて駆け出した。テトラと六花も俺のあとに続く。

 激昂するルーエルが何か仕掛ける気配を感じたが、全てクォートがどうにかしてくれると信じて、次のフロアを目指して、俺は脇目もふらずに走るのだった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下記の投票リンクを一日一回クリックしていただけると幸甚です
小説家になろう 勝手にランキング
拍手ボタン
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ