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【完結済】異世界転移したけどチートなスキルも魔力もゼロなので、狐耳美女錬金術師に拾われてスローライフを満喫します。  作者: 橘つかさ
東方より来た使徒?

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81.電撃作戦?

『ふわぁぁぁ、ようやく本陣に突入といったところじゃな』


 俺のすぐ耳元、背負った背嚢(バックパック)から聞こえてくる。

 ドキッとしながら、俺は横目で確認する。

 そこには背嚢から上半身を出した黒猫――シノさんの使い魔――の姿があった。

 黒猫は、あくびを噛み殺しながら、のそりと背嚢から、下半身を引き抜く。

 寝起きとは思えないほど、しなやかで軽やかな動きで、時計塔のフロアの床に飛び降りる。

 音を立てない身のこなしは、さすが猫と感心してしまうが、これが生身のシノさんだったなら、顔面から床にダイブしてそうと、少し失礼なことを考えてしまう。


『凛太郎、なにか物言いたそうな顔をしておるのー。妾は寛容じゃ。怒らぬから言うてみよ』

「――っ! い、いや、猫からシノさんの声がするのが、不思議で慣れなくて!」

「ほほー、本当かえ?」


 黒猫が俺を見上げてくる。

 どこか妖艶な空気を漂わせる黒猫に、反射的にシノさんの姿が脳裏に描き出されてドキッとしてしまう。


「お師様、使い魔なんだから、リンタローの手を煩わせずに、自分で歩いてください」

『テトラよ、何をいうか。猫の身でヒトと同じ距離を移動するのは大仕事じゃぞ。妾に足並みを揃えてみよ、牛歩の如き速さになってしまうのじゃ』


 ジト目で黒猫を睨むテトラに、黒猫――シノさん――は自信満々のオーラを放ちながら胸をそらす。


「まあまあ、無駄話はそこまでにいたしましよう。仮にも敵の本陣に入り込んでいるわけですから」

「……たしかに。それに出迎えもきたみたい」


 六花の指摘に、テトラが(ショートソード)を一振し、(カイトシールド)を構え直す。

 彼女が鋭く細めた瞳で見つめる暗闇から、カツンカツンと規則正しい足音が響いてくる。


「やれやれ、もう時計塔(ここ)まで辿り着く者がいるなんて、ため息が出てしまうね。同士全員に魔導具(マジックアイテム)を用意したから、最低でも一日くらいは時間が稼げる予定だったのだけど」


 穏やかな少年の声が響き渡る。

 暗闇から、ゆっくりと姿を現したのは、宰相の子息であるルーエルだった。

 魔導科のローブの裾をはためかせ、アッシュシルバーのマッシュヘアが、彼の動きに合わせてサラサラと揺れる。

 まったく周りを警戒していない無防備な姿にもかかわらず、俺の背筋にはダラダラと冷たい汗が流れていく。

 不意に空気のゆらぎを感じ、横目で確認すると、六花がカタナを構え――居合いの体勢――をしていた。彼女は口元に笑みを残しているが、ただなら雰囲気を漂わせている。


「ずいぶんと好戦的だね、テトラさんも留学生も。こういうときは、まず最初に会話するべきじゃないかな。劇場に足を運んだことはあるかな。交渉を始めたりするのが自然な流れだと思わないかい」

「どの口で戯れ言を抜かす。会話する必要性がどこにある?」

「ボクは宰相の子息だよ。それだけで価値があると思わない?」


 笑みを崩さないルーエルに、テトラは忌々しそうに舌打ちをする。

 嫌悪感を全開にする彼女に、ルーエルは肩を窄めながら、ため息をつく。


「テトラさんとは面識もあるし、手荒なことはしたくなかったのだけど、取り付く島もないって感じだね。まあ、仕方ないか。五体満足ではいられないかもしれないけれど、命は残るように努力はするよ。ああ、他の二人は死んでも恨まないで欲しいな」

「一人で私たちの相手が出来ると?」

「もちろん」


 ルーエルはテトラの問いに即答する。


「無理とは思いまするが、某たちを見逃してくださらんか?」

「はははっ、留学生は面白いことを言うんだね。時計塔(ここ)に入ってきた時点で、キミたちを処分する以外の選択肢があるわけないじゃないか。逃げたいのであれば、逃げてもいいよ。まあ、逃げ切れる自信があるなら試してみるといいよ」

「某だけならば、逃げ切る自信はあるのですが――」


 ちらりと六花が俺の方を見る。

 いやいや、勝手に俺を話題に放り込むのはやめてくれないかな。

 俺は逃げる逃げない以前に、認識される前にその場を離れるタイプだからね。

 そうやって話を振られたら、認識されてしまうじゃん。


「はははっ、特待生を囮にされたら、留学生は逃げられるかもね。見た目は無害そのものみたいな感じだけど、ヴェムを倒したみたいだし、一筋縄でいかないだろうね」

「――っ! お、俺なんて大した実力もないですよ」

「謙遜だね。ますます油断ならなさそうだよ。んー、実は真っ先に殺してしまった方が面倒が減っていいかもしれないね。よし、特待生は最初に――」

「吹っ飛べぇぇぇ!」


 ルーエルのセリフを甲高い金属音が響く。同時に彼の体は後方に吹き飛んでいく。

 かわりに、剣を振るったテトラの姿が、その場に残る。

 彼女は重心を落とし、フロアの石畳を蹴って追撃する。


「次は、ぼくの番だよ」


 閃光が空間を灼く。

 ガラスを擦るような不快な高音に、俺は顔をしかめる。

 目を細めながら、状況を確認する。

 テトラが閃光を剣で斬り払っていた。

 斬り裂かれた閃光は、不規則な軌道で天井や壁、フロアに焼け跡を描いていく。


「流石だよ、テトラさん。並の実力なら、今ので行動不能に出来るはずだったんだけどね。武芸大会を見て、テトラさんの実力を十分に理解していたつもりだったんだけどなあ。やっぱり自分で体験していないことを正確に推し量るのは難しいね」


 傷どころか、衣服の乱れ一つないルーエルが、肩を窄めながらため息をつく。

 それに対し、いつもの無表情なテトラ。だが、かすかに焦りが彼女から伝わってくる。


「さて、次はテトラさんの番だよ。それとも特待生か留学生が挑むのかな?」

「ならば、某が――」

「いや、次からは我輩だ」


 不意に聞こえてきた声に、俺は反射的に振り向く。

 きっちりとした服装――軍服と思しき格好のクォートの姿があった。

 衣服に多少の乱れはあるものの、いつもの自信満々な彼の姿に、俺は安心感を覚える。


「何故、キミが学園(ここ)にいるんだい。王都は緊急事態が起きているだろう。王国騎士団に緊急招集がかかっているはずだよ」


 ルーテルの笑顔に混じるぎこちなさ。

 クォートは、快活に笑うと手でテトラを下がるように指示をする。

 少し不満そうなテトラを尻目に、彼は前に歩み出る。


「吾輩がこの場にいる。それで説明がつく。つまり王都が危険に晒されることは何もなかった(・・・・・・)、というだけだ」

「冗談はやめてくれよ、クォート。数万の魔物が王都に向けて進行しているだろ。王国騎士団が総出で対応しても被害を免れないはずだよ」

「数万? ルーテルは、相変わらず冗談が下手であるな」


 クォートは口の端を持ち上げ、猛禽類を彷彿させる獰猛な笑みを浮かべる。


「王都を()としたければ、桁が足りない! 数百万用意するべきだったな!」


 クォートの声がフロアに響き渡った。


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