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【完結済】異世界転移したけどチートなスキルも魔力もゼロなので、狐耳美女錬金術師に拾われてスローライフを満喫します。  作者: 橘つかさ
東方より来た使徒?

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77.王都の異変

 (リズ)は、視線だけ動かして、周囲の様子を確認する。

 カリカリとペンの走る音だけが響く王国騎士団の詰め所。

 貴族出身の騎士も多いのに、詰め所は必要最低限の備品しかなく、飾り気はゼロと言っていいほど殺風景。

 もっと華美な装飾品を配置するべき、とアチラコチラから声があがっているようですが、騎士団トップが全てを却下しているようです。

 殺風景なままにしておくことが、面倒ごとを避ける一番の方法らしいです。

 貴族出身の騎士から、要求される装飾品や美術品などを、一つでも採用してしまえば、採用されていない騎士がゴネ出して、全ての要求を叶えないと終わらないとのこと。

 莫大な予算が必要になるのは、あきらかです。

 騎士団を維持するのにも、お金がかかるのに、無駄なところで浪費出来ないというわけです。


「ふぅ、さすがに疲れてくるな。訓練で体を動かしている方が楽だ」

「お疲れ様です、クォート様。本日、お目を通していただく必要のある書類は、残り三分の一といったところです」

「リズ、我輩のかわりに――」

「無理ですよ、リズには何も権限がありませんから」


 執務机から、体を引き剥がしながら、背伸びをする主――クォート様に、私は間髪入れずに言葉を返す。

 私の返事を、クォート様は予想通りといった様子で、肩を窄めて、ため息を一つ。

 わざとらしい芝居じみたやり取り。クォート様のコミニュケーションの一種です。

 強者ゆえの悩みから生まれた芝居じみたやり取り。

 クォート様の心中を察することが出来るヒトが、はたして何人いるだろうか?


「今日も精が出るな、クォート」


 不意に、執務室に響くのは、通りのよい低い声。

 視線を向けると、筋骨隆々で、大型の肉食動物を彷彿させる男性――王国騎士団、団長アヴロズ様の姿があった。

 齢四十を過ぎていると聞いていますが、全身から放たれる活発な気配と、瞳に宿る輝きは、二十代――いや、十代のそれと遜色ありません。

 団長が精力的に活動をしているからこそ、騎士団は正常な運営が出来ていると言っても過言じゃないでしょう。

 クォート様は、私が用意していたカップに口をつけ、口を潤ませてから、団長に声をかけます。


「吾輩より、団長殿の方が、精が出ているではないか。少なくとも我輩の倍は働いておられるだろ」

「なぁに、俺がやっていることなど、大したことではないわ。睨めつけるだけで、突っ掛かってくるようなヤツはおらんからな。俺が若い頃は、上官に掴み掛かっては殴り倒されていたというのに」

「団長殿に掴み掛かられては、まともに殴り返す上官も少なかったであろうな。少なくとも我輩は、団長殿を殴り倒す自分の姿が想像できませんな」


 クォート様とアヴロズ様は、一瞬顔を見合わせると、豪快に笑い始める。

 年齢は離れているものの、なんだかんだで気の合うお二人のようです。

 クォート様の王国最強の剣という呼び名に対して、アヴロズ様は王国最強の盾。

 もし、お二人が決闘した場合、最後に立っているのはクォート様なのは間違いないと私は断言します。

 しかし、一筋縄ではいかないでしょう。

 クォート様が無傷ではいられない、数少ないお相手でしょう。


「だ、団長! き、緊急事態です!」


 慌ただしい足音を響かせ、若手の騎士が執務室に飛び込んできました。

 私の記憶が確かなら、規律を重んじるタイプの騎士だったはずなので、慌ただしい姿は極めて珍しいです。

 騎士は、呼吸を荒げたまま、直立不動の姿勢をとると、クロード様とアヴロズ様を真っ直ぐに見据えながら、口を開きます。


「王都から北北東に、突如魔物の大群が現れました!」

「……間違いないか?」


 アヴロズ様の鋭い眼光に、騎士は一瞬息を飲み込むが、すぐに返事をする。


「は、はい! 間違いありません!」

「そうか。クォートが想定していた王都の緊急事態にあったな」


 ギロリ、とアヴロズ様が、クォート様に視線を向けます。

 空気が凍りついていくような錯覚。

 私は内心でため息をつきながら、嫌々ながらクォート様を確認する。


「――ッ!」


 反射的に出てきた声を、私は喉の奥へ押し込みます。

 いつもの柔和な笑みのままなのに、クォート様の全身から放たれる威圧感(プレッシャー)

 私の背筋を冷たい汗がダラダラと流れ落ちていきます。

 横目で騎士の様子を確認すると、顔面真っ青で今にも倒れそうなくらい憔悴していた。


『邪魔するぞ、悪ガキに朴念仁』


 凛とした声が執務室に響く。

 真っ黒な猫が、音もなくデスクに飛び乗ってきた。


「アキツシマ師、せめて団長と呼んでくださらんか」

『貴様など、朴念仁で十分じゃ。悪ガキ、少しは落ち着くのじゃ』

「これはこれは、アキツシマ師。我輩は、十分に落ち着いていますよ」


 王国、いや大陸でもトップクラスの錬金術師であるアキツシマ師。自由都市にいながら、王都に配置した使い魔を自在に操るなど、造作もないのでしょう。

 テトラ様が彼女に師事することを反対されないことが納得できない時期もありましたが、今では当時の私を窘めたいです。


『まあよいのじゃ。王都(そちら)に何が起きておるのか把握している。王立学園(こちら)でも、ことが起きているからの』


 そう言って、アキツシマ師の使い魔は、状況を説明します。

 要約すると、王立学園でクーデターです。

 貴族至上主義を掲げた学生が武装蜂起したようです。


「ルーエルめ、越えてはいけないラインを……」


 クォート様が悲しそうに呟く。

 一呼吸置いて、クォート様が席から立ち上がる。


「団長殿、我輩が露払いに出る。魔物の大群の進路上にある町の防衛、住民の避難については、お任せする」

「当然のことだ。クォートに言われるまでもない」

「アキツシマ師、すまぬが、ロロ様の保護を。いや、それは無理な話であったな。せめて(テトラ)とリンタローのサポートをお願い出来ませぬか?」

『愛弟子と凛太郎の支援くらいはしてやろうぞ』


 アヴロズ様とアキツシマ師の返答に、クォート様は満足そうに頷きます。

 ちなみに報告に来た騎士は、失神寸前で片膝をつきながら肩で息をしてます。


「団長殿、我輩は魔物の迎撃に出る。決して援護で騎士を回さないでくれ」


 クォート様の口の端が持ち上がる。

 ああ、久々に見る事が出来る。

 ゾクゾクとした快感が、私の内側に生まれる。

 ただ一人で、地平線を埋め尽くすほどの魔物の大群を虐殺した鬼人の姿を、私は脳裏に描く。

 何年経っても色褪せることない映像。

 私は状況にそぐわない笑みが零れそうになり、口元を手で覆い隠す。


「リズ、サポートを頼む」

「承知しました、主様」


 一礼し、私は執務室を出ていくクォート様に付き添うのでした。


お読みいただきありがとうございます。

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