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【完結済】異世界転移したけどチートなスキルも魔力もゼロなので、狐耳美女錬金術師に拾われてスローライフを満喫します。  作者: 橘つかさ
東方より来た使徒?

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75.波乱の予感

「リンタロー! 説明して! 今すぐ!」


 昼下がり独特の静けさに包まれたアキツシマ錬金術工房に響き渡るテトラの声。

 あまりにも突然のことに、俺は目を白黒させながら硬直してしまう。

 ちなみに場所は二階のダイニングキッチン。俺は、牛スジ――ビックホーンという牛型魔物のもの――を煮込んでいた。きちんと処理しないと美味しくないから、安く買えて重宝していたりする。

 テトラは、牛スジの作り方を説明して欲しいわけじゃないよな。


「えーっと、なんのこと?」

「なんのことって、とぼけるつもりなの!」


 テトラは部屋に入ってくると、食事に使っているテーブルに、両手をバンバンと叩きつける。物凄くご立腹なことは伝わってくる。

 俺、何かやらかしたっけ?


「マジで何のことが分からないんだけど……」

「あーもー! これを見ても言えるの!」


 そう言って、テトラは懐から取り出した紙を取り出して、俺に突きつけてくる。

 ふんふん、とテトラの鼻息は荒い。

 俺、まだ公用(エリトアル)語は、完璧に読み取れないんだよな。

 英語のテストが毎回赤点ギリギリだった俺が、日常生活で困らない程度の語学力を身に着けたことは、褒めて欲しい。


「えーっと、リンタロー=ソーマを……読めないな……世話、役に……任ずる……かな。学園で飼っている馬とか、研究のため飼育している魔物とかの世話とかすればいいのか?」

「ちっがーう! なんでそうなるのよ! よく読んで!」

「いや、まだ読めない単語とかあるから……」


 鼻息荒いテトラにタジタジになりながら、俺は反論する。

 テトラは「もー! もー!」と地団駄を踏む。

 なんというか、美少女にやって欲しくない行動のギリギリを攻めるようなことは、やって欲しくないのだけど。

 ひとしきり暴れたテトラの動きがピタリと止まる。それを見て、俺は緑茶を注いだ湯気立つカップをテーブルに置く。

 少しの間を置いてから、テトラは大人しく椅子に座ると、ズズズッとお茶を啜る。

 俺もお茶を啜って、テトラの反応を待つ。

 彼女は「ふぅー」と静かに息を吐くと、先ほど俺に突きつけていた書類をテーブルに置く。


「王国からリンタローに、正式な依頼が出されたわ。週明け――つまり明日から学園に通われる第三王女、ロロ様の世話役として」

「はぁぁぁ! 聞いてねぇぇぇよ!」


 反射的に椅子から立ち上がって、俺は絶叫してしまう。

 王女が学園に通うって情報は知ってたけどさ、なんで俺が世話役になるんだよ!

 俺の反応を見て、テトラが額に手を当てながら、深いため息をつく。

 俺の預かり知らぬところで、決まったことを察してくれたのだろう。


「この件は、クォート様が『細かい事情を知っているリンタローが適材だ!』と推薦されております。国王も『クォートが言うのなら間違いないだろう』と即決されたようです」


 不意に聞こえてきた柔らかな若い男の声。

 視線を向けると、柔和な笑みを浮かべたラズが恭しく頭を垂れていた。


「……ラズ、何故お兄様を止めなかったの?」

「クォート様の発言に、一介の従者に過ぎない僕が意見するなど、恐れ多いことです」


 演技くさい大げさな動きで天を仰ぐラズ。

 イラッとするが、なんとか感情を抑えて、俺はラズに尋ねる。


「俺が扶桑の民って、助言するだけで、話は無かったことになったんじゃないのか?」

「ハハハッ、ソーマ様は、我が国王を侮っているのか? そんな度量の狭きお方ではない。出自を問わず優秀な人材は採用される」

「……マジかよ。絶対、反発されるやつじゃないの」


 俺の言葉に、ラズは微笑を反し、テトラは苦笑する。それだけで、臣下の反応が窺い知れた。


「俺、暗殺とかされるんじゃ……」

「安心してください、ソーマ様。そのために僕が派遣されましたから」

「それって、俺の命がヤバいってことじゃ……」


 即視線をそらす二人。

 そこは、「大丈夫!」とか、言って欲しかったんだけど。



「とにかく、リンタロー様は、明日から学園に通っていただきます。クォート様も業務の合間をみて通われるそうです」

「……今日、クォートは学園に来る?」

「明日は、新兵をしごく予定があるとリズから聞いています。それが終わり次第、学園に向かうそうです」


 うん、それは暗に間に合わないってことだよな。

 俺一人で、第三王女の相手とか無理ゲーだろ。


「リンタロー、今日は私も同伴するから」

「て、テトラ……!」


 俺は思わずテトラを見つめてしまう。

 むしろ、クォートよりもテトラの方が、断然良い気がする。

 俺は一抹の不安を覚えながら、明日からの支度を始めるのだった。


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