始まり
熱い……熱い……熱い……
目は閉じている。石壁に背を向け、どこかに座り込んでいる感覚はある。
酷く頭痛がして喉は灼けるように渇く。
記憶は混濁して、前後の記憶がイマイチはっきりしない。
このままだと……死ぬ……?
いやだ、死にたくない。まだ何もなし得ていない。
ふと、頭の中に耳鳴りと一緒に子供のような声……なのだろうか。何かがよぎる
「……だよ、……を使わないで。強く……」
何?聞こえないよ……熱くて痛くて、苦しくて……
「ダメだよ、チカラを使わないで。強く生きることを望んで」
その声を最後に、意識はプツリと切れた。
……
ここはどこかしら……
さっきまで熱くて苦しかったハズだけど……
手は動く。足も……問題は無い。
先程まで感じていた喉の渇きも今は感じない。
そっと、目を開ける。
目の焦点はイマイチボヤけて、寝起きのような頭の鈍さをかぶりを振って覚ます。
辺りをゆっくり見回すと周りは石垣に囲まれ、天井は大きな梁が露出している。
……城?
記憶にある日本のお城の入口の光景に酷似している。
はて、私は何故こんな所で眠りこけていたのだろうと考えつつもゆっくりと立ち上がった。
「ここは……いったいどこなんだろ……
人は……誰かいないの?」
呟いたものの帰ってくる言葉はなく、言葉は虚空に消えていった。
人の気配は上から微かに感じる。何か、物音のような……
そんなことを考えていると梁が降りた階段から子供がフワリと宙を舞いながら降りてきた
「やぁ、目が覚めたようだね」
子供はその外見には似合わない落ち着いた声色で私に話しかけた
「えっ、子供……じゃなくて、宙を飛んで……あーそうじゃなくて、ここはいったい…」
私はしどろもどろになりながら紡ぎたい言葉を口の中で転がしていると子供はケラケラと笑いながら話し始めた
「大丈夫、落ち着いて。僕は君に危害を与えない。
一つ一つ説明するから落ち着いて聞いて欲しい」
理解の追いつかない頭に子供は一つ一つ丁寧に説明してくれる。
「まず、僕の名前はヴェルド。この世界で言うと、中立に位置する勢力の1人……って所かな
この世界は混沌、調和、中立の3勢力が存在して僕はその中立にいるって訳。
僕らの存在に関しては……まぁその身をもって知ってもらった方が早いかな。
そして、最後の質問だけど、ここは始国城ってお城だね。それ以上でもそれ以下でも無いよ。」
口調は落ち着いているが休みなく言葉が紡がれ、理解をしようとする程に頭が理解しきれていない事がよく分かる。
「えっと……とにかく今は危ない場所にいる訳では無い……って事かしら」
「まぁ、そういう事になるかな」
ヴェルドと名乗る少年はニコニコとしながらそう答える。
「えっと、ヴェルド君…でいいのかな、他に人って居ないの?私、イマイチここに来るまでの記憶が無くって……」
「そりゃぁそうさ。だって君は」
言葉を遮るように私の言葉にヴェルドが声を重ねた。
フワリと身体を浮かせながら私の耳元にそっと、よく通る声で呟いた
「も う 死 ん で る」