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コミュ障吸血鬼、人生初の啖呵を切る

お待たせしました。

今回少し短めです。ご了承ください。


 あの後、文句も言えないままアンナの家に戻ってきた。

 文句の一つでも言いたかったけど、コミュ障の僕には難易度が高かった。

 そうそう、リオナが住んでいた村を襲った吸血鬼。

 なんでも、吸血鬼になった村の人達を連れ、南へ向かったらしい。

 で、そのリオナの村の南にあるのがこの国、ローメリア王国。

 それでリオナは村の人達を吸血鬼にした吸血鬼を追ってこの国に来たそうだ。

 そして、昼間は宿をとって睡眠をとり、夜になり歩いていたところへ僕と出くわし今に至った。

 追ってる途中なのに僕のお世話係になっていいのかという疑問が浮かぶけど、リオナ自身が納得してやってくれるんだからと納得することにした。


「それでティアナ? なんで一人で外へ出たの?」


 アンナの家のリビングにて僕をソファーに座らせ、自分は僕の目の前で立て膝をするアンナがそう訊ねてくる。

 というかこれ、絶対座る位置逆だよね?


「なぁ、座る位置、逆じゃないか?」


 リオナが同じ疑問を口にする。


「誰かさんが襲いかかったせいでさっきまで腰が抜けてたのよ? そんなティアナを床に座らせるわけないじゃない」

「それはオレが悪かった。だとしても、せめて隣に座ってやれよ。明らかに戸惑ってるぞ。ほら見ろ、目が泳ぎまくってる」


 リオナの言う通り、僕は今、自覚できるくらい目が泳いでいる。

 だって、普通、説教の時って両方正座するか、説教される人だけが正座するかのどっちかなのに、説教されるはずの僕がソファーに座らされて説教する人が床に座ったら、戸惑うに決まってる。

 そんな僕を見たアンナが口を開いた。


「ティアナ、落ち着いて。私は怒ってるわけじゃないの。外に出たのは私が原因なんでしょう?」


 戸惑いつつ頷いて答える。


「けれど、まだ身の守り方も覚えてないのに外に出たことは、看過できない。私が透明化スキルで尾行してなかったら胸に杭を刺されて灰になってたのよ?」

「……アンナが悪い」

「えっ?」

「お、お風呂であんなこと言ったアンナが悪いんだよ……! なのに、偉そうに説教とかやめてよ! 何様なの!?」


 口走ってから、自分が言ってしまったことに気づいてしまい、気まずくなって顔を背ける。

 傷付けた、絶対に傷付けた。

 取り返しのつかないことを言ってしまった……。

 引き合いに出すつもりだったけど、こんな傷付けるように言うつもりはなかった。

 せいぜい、


『この前、お風呂であんなこと言ったくせに……』

『もぅ、ごめんってばぁ、許してよぉ』

『ふふ、冗談だよ』

『なぁんだ、ビックリした~』


 みたいな軽い感じで引き合いに出すつもりだったのに、アンナの言ったことがつい頭に来ちゃって……。

 こんなこと、初めてだ。

 前世では怒ったことなんて一度もなかったのに。(※ほとんど人と接してなかったから)

 アンナ、今どんな顔してるんだろう。

 絶対、暗い顔してるよね……?

 そう思った矢先、アンナが僕の肩を掴んだ。

 反射的にアンナの方に顔が向く。

 そして目に入ってきたアンナは――なぜか真顔で涙を流していた。

 衝撃的すぎて、見た瞬間に体がビクついたんだけど……。


「お、おい、どうした? 気持ち悪いぞ?」

「なに言ってるの!? ティアナが初めて怒ったのよ!? 泣くに決まってるじゃない!」

「子どもの成長に一喜一憂する親かよ……」

「というわけで、もう一回怒って、ティアナ」


 いや、満面の笑みを浮かべながら言われて、怒れるわけがない……。

 それ以前に、傷ついてなかったんだっていう安堵の気持ちの方が強いし。

 というか、もう一回怒ってほしいとか……アンナって、〝エム〟なの?

 でも、〝エム〟じゃなきゃ、もう一回怒ってなんて口にしない。

 そっか……アンナも、大変だったんだね。


「えっ、ちょっと待って? ティアナ? なんでそんな哀れみの目を向けてくるの?」

「いやお前、自分の発言を省みてみろ。哀れみの目を向けたくもなるだろ」

「えっ?」


 さっきからリオナ、僕の気持ちをズバリと言い当ててるけど、なんでなんだろう?

 アンナでも、僕が言ったことの真意を的確に汲み取ることはできても、なにも言ってないのに僕の気持ちを的確に言い当てたことはない。

 読心術でも会得してるのかな……。

 それはさておき、リオナに指摘されたアンナが、考える素振りをした数秒後、顔がみるみるうちに赤くなった。


「わ、私、Mじゃないわよ!?」

「いや、『もう一回怒って』はどう考えてもMの発言だろ」


 リオナの言葉に頷く。


「ティアナまで!? ……ち、違うわ。私はMなんかじゃ、ないわ……。私はただ、ティアナの怒るところをもう一度見たかっただけなのよ……!」


 完璧な推理を聞かされて言い逃れができなくなった犯人の最後の言い訳みたいなことを言うアンナ。


「ティアナ裁判長、判決を」


 唐突にリオナがそう言った。

 裁判長と言われたことに驚きつつも、アンナへの判決を言い渡す。

 顔を見るとダメだから、首もと辺りを見ながら。


「え、えっと……判決を、言い渡す……。被告、アンナ・クロンツェルは、〝どう考えてもエム罪〟により……」


 ……しまった。

 なんの刑にするか、考えてなかった。

 なんの刑がいいかな。

 アンナの心にダメージを与えられるものがいいんだけど……。

 あっ、そうだ。


「……今後、一切、僕とお風呂に入らない刑に、処す」


 お風呂で僕に言ったこと、忘れてないからね。という意味合いを込めて。


「そ、そんなっ。裁判長、お慈悲を!」


 僕の寝間着の裾に必死に縋り慈悲を乞うアンナ。

 まぁ、少しくらいの猶予は与えてもいいか。


「……じゃあ、シンプルな服を、今日中に、10着用意してくれたら、一週間に減らす……」

「ほ、本当に!? するっ、用意するわ! 今すぐに!」


 そう言ってアンナはすごい速さでリビングを出ていった。

 えっと、まだ午前3時だから、お店開いてないと思うんだけど。



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