追憶の仮面
「――――仮面参上」
いつかの幼い子供のころの記憶の断片を思いだし、登校中の俺は思わずクスッと笑ってしまった。
「懐かしいな」
その古い記憶を思い出したキッカケとなったのがこれ、今日の文化祭最終日の途中でハロウィンさながらに馬鹿騒ぎしながら学校を練り歩く、『仮面舞踏会』というパレードで使う予定の特撮ライダー風のパチモン仮面だった。
持ってくる仮面には特に制限もなく何でもいいという中、多分皆は百均の精巧なマスクを買ってくると考えた俺は周りに埋もれないために約十年前子供の頃に屋台で買ったこの仮面を押し入れの中から探し出したのだ。少しひび割れ壊れているが丁度いいチープさは、きっとパレードで良い味が出るだろう。
しかし、どうしてもこの仮面に関する記憶が思い出せない……。
手に持つ仮面を見つめながら歩いていると後ろから軽快な声が聞こえてきた。
「おはよう」
いつもの声に振り返ると、そこには幼稚園来の親友が馬面マスクを被っておちゃらけていた。
「朝から元気だな……」
挨拶代わりに呆れ顔を返すと親友は「まあね」と言いながら馬面マスクを外し、横に並ぶように歩き始める。
「何持ってんの? お、それは」
「知っているのか?」
「そりゃあそれを使って二人で遊んだからな。な、ヒーロー」
親友は俺の顔を見て思い出し笑いをしていた。未だ思い出せない俺は親友の笑みと言葉に首を傾げながら仮面に視線を戻す。
「ヒーローねぇ」
「……ていっ」
再び昔の事を思い出そうとしたら親友がいきなりバックを奪い取った。そして馬面マスクを着けてまるでヒーローショーの悪役のようにワザとらしく告げる。
「これを返してほしければ盗み返してみろ!」
「おい、いい加減にしろよ……」
突然の親友の行いにほとほとウンザリしたその時、どうしても思い出せなかったこの仮面の記憶がふと蘇った。
「あ、そっか……」
恥ずかしさで俯き、照れ笑いしながら馬面マスクを被る悪役の親友に向かって遠慮がちに尋ねる。
「やんないとダメ?」
コクン、と頷く馬面マスクの親友に「はあぁ」とため息を吐く。周りに誰もいない事を確認し、覚悟を決めて持っている仮面を決めポーズをしながら装着した。
「怪盗マックス仮面参上!」
この仮面は昔の俺が『盗まれた物を盗み返す』という正義の怪盗ごっこをしていたものだった。盗まれたバックを盗み返すために、そして黒歴史を思い出させたお礼に俺は親友に一発ドロップキックをお見舞いした。