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9.お願い事 交渉術の基本

大好きな人を手に入れるためには、彼の周りの異性を全て消せばいい。

残った私が、必然的に彼の一番になれるのだから。

ーー鈴木千佳

「嬢ちゃんの飯は美味いな! 俺が後10年若かかったら、嫁にしたいくらいだ!」


ファザさんはそう妹を褒め称えた。

ここまで筋肉質の義理の弟はいらない。

10年前に転移させられなくて良かった。


食卓には、パンっぽい物、ポタージュスープっぽい物、ベーコンぽい物、サラダっぽい物が並べられていた。

『ぽいもの』と形容しているが、実際に食べてみると、見た目通りの味がして美味しい。物理法則がほぼ同じ、ということは味を感じる仕組みも同じということなのかもしれないな。


「別に嫁にしなくても、ご飯ぐらい作りますよ。ご迷惑でなければ、明日のご飯も私が作りますよ!」


「それはありがたい!お願いするぜ!」


こうして、私たちのファザ家での滞在二日目が、何事もなく確定した。

自然に、言質をとることに成功した。


「アリシアちゃん、ありがとう。君が教えてくれたおかげだよ」


とアリシアに言う。

対するアリシアは「お姉さんが……覚えるの……上手なだけです」と恥ずかしそうに答えた。

奥ゆかしい少女だ。

父親のDNAはどこに置いてきた、と疑問を感じる。


ーー


食事を終えて、妹と二人で自室に戻った。

褒められて上機嫌なのか、妹はるんるんと鼻歌を歌っている。

なんの曲かは、分からないけれど。


「それにしても、いきなり料理を振る舞うとか大胆だな」


知らない土地、

知らない食べ物、

知らない人。

未知な要素づくめで、もしファザさんたちの口に合わなかったら、二日目の滞在はなかったかもしれない。

なかなかリスクの大きい選択だったと思う。

単純に、ホームステイ気分で自分の得意分野を披露したいという好奇心故の行動かもしれないが。

どちらにしても、私には選べない選択肢であることは確かだ。


「頼み事をするときの基本原則だよ、兄さん」


と妹は得意げに人差し指を立てた。


「確かに、わからないことはたくさんあって不安だったけど、アリシアちゃんという先生がいたから、そこらへんの問題はクリアできたわ。味見もしてもらったしね。料理はレシピ通りに作れば、少なくとも失敗はしない。料理は化学ーー兄さんの大好きなね。素人は変なアレンジを加えるから、失敗するのよ」


プンスカと妹は持論を述べた。


「それでね、頼み事の話だけど、先に相手にメリットを与えるのが交渉術の基本なの。さっきの私たちの例だと、料理を作るってことね」


ベットの上にぼすんとダイブする妹。

そして、足をばたばたさせつつ、続きを語る。


「先に尽くしてもらった手前、後続する依頼事項は断りづらくなる。心に罪悪感が芽生える。断るの申し訳ないな、って思ってしまう。相手の狙い通りとは気づかずにね」


罪悪感は交渉事の時に使える最強の感情なんだよね、と妹は悪魔っぽく笑った。

我が妹ながら外道だった。

ファザさんは罪悪感とか、そういう感情とは無縁な気もする。

だが、あの人の場合は元から懐が深いかあるいは受けた恩は返す主義なのだろう。

結果として、妹の望み通りになったのだからどちらでも良いのだろうが。


「ベストなのは、先出しするメリットが自分の大した負担にならないもの。ーーたとえば、趣味でしていることとか、ボランティアでやってもいいかなーって思えるレベルのこと。それでいて、相手にはちゃんとメリットがあること」


妹は、仰向けになって天井を見上げつつ言う。


「だから、日常的にいいことしてくれる人の頼み事って、よっぽどじゃないと断らないでしょ」


確かに、振り返れば職場のお菓子をくれる事務員さんの頼み事は、なぜかその場で承諾している気がする。

『重いものを運ぶの手伝って』とか、『そこ行くならついでに持って行って』とかわりと低負荷なものばかりだけど。


つまり、と妹は続ける。


「兄さんは私からのお願いごとは、断れないでしょ。いつかお願い事するかもしれないから、その時を楽しみにしてて」


と蠱惑的に笑った。

なるほどな、操られているのは、私も同じ、ということか。

相手に先行して利益を与える、というのは交渉術の基本です。

お菓子やティッシュをもらうと、話くらいは聞いてあげようかな、と感じてしまうのと同じ。

セールスの手法は、そう言った過去の研究・事例の積み重ねからできています。

その手の仕事をしていない人でも、その技術は仕事・恋愛・交友関係といった分野に活かせるので、学んでおくと人生がほんの少しは、楽になると思います。

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