4.第一村人ネガティブとポジティブの使い方
「冗談は置いといて、問題は私たちのクリア条件をどうするか、ということだね」
妹はこほんと咳払いをして、話題を戻した。
「え、生き残ることと、元の世界に戻ることくらいじゃないのか」
「半分正解で、半分間違い。生き残っても、元の世界に戻ったら、兄さん、死んじゃってるかもしれないじゃない。だってトラックに轢かれちやったんでしょ。意識だけこっちの世界に飛ばされて、本体は絶命している可能性だって十分にある」
妹は自身のことについては言及しなかった。
戻ったところで妹自身はとっくのむかしに絶命していることについて言及しなかった。
そして、
だったらさ、と言葉を続ける。
淡い微笑を添えながら。
「こっちの世界で第二の生をエンジョイするのが正解じゃないかな。やりたいと思っても、なかなかできないよ、異世界転移なんてさ」
「そんな軽々しく言うけど……」
「いや、軽く考えようよ。まだこの世界が、私たちが見ている夢、という可能性も否定できない。蝶になった夢を見ているのか、人だったのが夢だったのか、そんな昔話もあったでしょ。つまりはそういうこと」
だからさ、と妹は笑う。
そして再び、人差し指をピンと立てた。
「今はこの世界を楽しもう。つまりは考え方。ポジティブシンキング。今の私たちの手札じゃ、どうやってもすぐに元の世界に戻ることができない。だったら、ネガティブに落ち込むよりも、ポジティブに楽しむ方が精神衛生上いいでしょ」
確かに、そう考えるのもいいかもしれない。
少なくとも現実世界に戻るということは、今の妹との非日常が終わることを意味している。
ならこのままおかしな夢に溺れてみるというのも、ありかもしれない。
現実逃避ならぬ、異世界逃避するのもいいのかもしれない。
「まあ、ネガティブに考えるときがいいときもあるよ。準備するときとかね。不安だと、余計に準備したくなるからさ。学生時代のテスト勉強とか。不安は準備のモチベーションを上げてくれる。逆に準備期間中に『俺は天才だし、本番に強いから大丈夫!』とか思ったら何もしないでしょ? そのままだらだら過ごすだけでしょ? だから、ベストなスタイルはネガティブに準備して、いざ事にあたったら、ポジティブに考える」
ほら、と妹は私の背後を差す。
小柄な、金髪の少女がいた。
精巧にかつ丁寧作られた、人形のような無機質な見た目。
人の手、というよりは神とか天使とか、そう言った高位の存在の作品のような造形美。
だが、こちらにおびえているのか、不安げな様子が見て取れた。
「第一村人発見!」
と少女の様子を気にすることもなく、妹は笑った。
少女は笑わなかった。
ポジティブシンキングがいつでも正しいとは限らない。
ネガティブだって、使い方を誤らなければ、本文にある通りメリットがあります。
どちらかに偏ってもよくない、つまりは適材適所、ということです。