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3.小休憩 現状整理

「さて、落ち着いたところで状況整理といきましょうか」


と妹は言うと、ポケットからメモ帳を取り出した。

なぜにパジャマのポケットにそんなものが、と突っ込みたくなったが、おいておく。


「兄さんは、目が覚める前にどこにいたのか、記憶してる?」


「そんな状況分析しているよりも、さっさと遠くに逃げたほうがよくないか?」


いつあの生き物がここまで追ってくるか分からない。

遮蔽物が多い場所とはいえ、安心はできない。

数論理で囲まれてしまえば勝ち目はない。


だが、私の問いに妹は首を振って否定する。

そして、さっきと同様に人差し指をぴんと立てた。


「闇雲に動いたところで、未来の選択肢が減るだけ。誤った現状把握、場当たり的な対策を打ち続けて失敗した人は、歴史を紐解けば無数にいる。兄さんも普通科高校出ているんだから、理系でも知っているでしょ?何事も正しい現状把握から始めるべき。それに、時間経過で過去の記憶とか、曖昧になりやすいからね。都合のいいように、自分が納得できるように記憶の自己改変が起こってしまう。だからほら、今の内に整理整理♪」


と妹は促す。

私は黙って首肯し、目覚める前の記憶を呼び戻す。

 

残業帰り、

疲労感、

トラックのライト、

衝突、

痛み、

………、

……………。


「仕事の帰り道で、トラックに轢かれた」


 結果、シンプルにまとめると一言で済んだ。


「――シンプルな回答ありがとう。お互い、交通事故に縁があるね」


と妹は自嘲っぽく笑った。

私は笑えなかった。



なぜなら、妹は既に事故で死んでいるからだ。

私がこの世界に飛ばされるよりも前に、

つまりは、私が生きていた世界に、

妹は生きていなかったのだ。



「仕事帰りにトラックに轢かれた、知らない場所で目が覚めた、緑の化物に襲われた、全力で森のようなところに逃げ込んだ、とりあえず状況はこんなところかな」


と、さらさらとメモ帳に私の言葉と先ほどの状況を記録する妹。

時系列に沿って、状況が言語されていく。


「紙とペンは人類最大の発明だよね。形を残せるし、それを他者と共有もできる。一度書いたら勝手に消えないから、当時の自分の考えを知ることもできる。兄さんは日記とか書かない派だっけ? だったら、今日から書くといいよ。言葉にすれば、もやもやしたものを形にできるし、頭の中がすっきりする。気の向くまま、筆の進むまま、手が疲労で限界になるまで書くと言い。意外に自分の悩みや今の状況が大したことがないと、気楽になれると思うよ」


そう目の前で嬉々として知識や考えを語る少女は、私の妹で間違いない。

姿形、話し方、身振りの癖、どれも私の妹のそれそのものだ。

 

「と言っても、この世界に紙とペンが存在しているか分からないから、それは戻ってからということで」


と妹は悪戯っぽく笑った。

私は変わらず笑えなかった。


自分の感情を言語化する、というのは現代社会でも有用とされている方法です。

頭の中に浮かんでいる思考をただ書き殴るだけで、ストレス解消効果等があるとか。

もやもやしている感情や問題に、『名前』をつけて確定させる。

恐怖や不安は大概は正体不明だから感じるもの。

分かればその恐怖は低減される、そんなお話。

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