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13.逃避行 勝利条件の変更

善悪は立場の問題。

君の正義は僕の悪、

僕の正義は君の悪。

だったら、善悪論ではなく、人間らしく好きか嫌いか、そんな身勝手な理由で戦おうよ。

—-No Name

「緑人の生贄にされるのはいいとして、いつまでここに監禁されるのかな」


妹はあっけらかんと呟く。

生贄にされるの、いいんだ。

そこは諦めてはいけないところだと、思うのだけれど。


「さてな! あんたらのことを緑人が嗅ぎ回っていると村長は言ってたから、すぐだろう! 明日かもしれんし、今日かもしれん!」


「なるほどね。じゃあどっちにしろ落とし穴戦法は難しいね、時間かかるし、しんどいし。別の選択肢をとろうか」


何のけなしに言うと、妹は自身の拘束をほどいだ。

最初から、拘束なんてされていないかのように。

するりと自由の身になる。

忍者のように、

脱獄犯のように、

華麗に拘束を解いた。


「嬢ちゃん、どうやってその拘束を解いた?」


「ノリと勢い♪」


と冗長っぽく言うと、そのまま私とファザさんの拘束をほどいた。

短期間とはいえ、ずっと同じ体勢。

体が硬直していて、だるい、重い。

軽く伸びをしたり、ストレッチめいた作業をして体を戻す。


「縄抜けは乙女の嗜みってね。まあ、こんなものは簡単な手品みたいなものだよ」


さてと、と妹も伸びをして体をほぐした。

控えめな胸がわずかにだが強調される。


「ファザさん、アリシアちゃん連れて、私と兄さんこの村から出ませんか?」


急な方向転換。

闘争から逃走へ。


呼びつけた末に、目的の生贄がいないとなれば、その後の惨状は予想できる。

最悪で村は壊滅、

良くて見せしめに数人犠牲が出る。


「クリア条件の変更だよ。当初は、村人一丸で緑人と戦争だ!と私も張り切ってたけど、みんなのテンションがあれじゃあね。勝てる戦も勝てない。完全に負け戦。やるだけ無駄、というか明確なマイナス。こういう場合は大人しく逃げるに限る。けど、私たちだけ逃げると、ファザさんはきっと村人から酷い仕打ちに会う。良くて村八分、悪くて拷問の末のデッドエンド」


妹は続ける。

ファザさんがその選択をとれば、村がどうなるかは。

想像することは、難しくはない。


「ファザさんも、今回の件で愛想が尽きたでしょ。村長はもちろん、村人さんたちにもさ。ここぞと言う時に助けてくれないなら、それは本当の仲間じゃあない。ましてや、仲間を売ってまで敵に媚び諂い、自分たちが生き残りたいって連中はさ。ただの隣人だよ。一緒に滅んでやる義理はない」


ファザさんは黙った。

考えているのだろうか。


村人のこと、

これからの生活のこと、

娘のアリシアの日常のこと。

自身の決断が、それぞれの未来に対してどんな結果を引き起こすのか。


「おい、そんな言い方はないだろ。ファザさんの立場も考えてーー」


「兄さん、半端な言葉でファザさんの考えを邪魔しちゃダメだよ」


妹の制止に、私は黙った。

ファザさんを見つめる。

彼の決断には、時間はそう必要なかった。

1、

2、

3、

……

沈黙が続くこと、約10秒。


「ーー分かった。俺もついていく!」


彼は妹の提案を受け入れた。

ただ、娘だけは一緒に連れて行きたい(当然のことだが)とのことで、夜闇に紛れて彼女を回収した。

彼女はぐっすり眠っていたので、眠ったままにファザさんの背中に乗せていくことにした。

年端もいかない彼女に、この選択をさせるのは残酷だから。


ーー

ファザさんは道中、道案内のとき以外、特に話をしなかった。

何も話さず、

笑わず、

怒らず、

悲しまず、

無表情をつらぬいていた。


快活な笑顔と雰囲気が嘘のようだ。

だが、彼はきっと心中で泣いているのだと思う。

私たちに迷惑を、娘に不安を与えまいと耐えた結果の無表情。


妹が提示した、残酷な選択肢。

否、あれは選択肢ではなかった。

『父親』という存在に、

愛する娘がいる存在に、

あのまま残るという選択肢はなかった。

ならば、残された方を手に取るしかない。

残酷な判断。


けれど、選ばないという選択は、自らで最悪の結末を選ぶことになる。

彼が選んでくれた私たちと一緒にくるという選択が、せめて良かったと思える道中になればと、私はいるかどうかもわからない、神に祈った。


ーー

村を出て、ファザさんの大雑把な道案内をもとに隣街まで逃げることにした。

隣街、といっても1番近くにある街というだけで、山を一つ超えるレベルだった。

自動車や自転車、かつての世界の文明のありがたさを見に染みて味わう逃避行だった。


「お父さん……ここは……?」


寝惚けた風のアリシアがファザさんに尋ねた。


「遠いところさ!アリシアが来たことがない、遠いところに行く途中さ!」


「そう……村の外……あんまり出たことないから、楽しみ……」


そう言い残すと、アリシアはまた、眠りについた。

次目覚める時には街についていればいいな、と私は願った。


最初に立てた勝利条件にいつまでもしがみつく、というのは愚かな場合が多いです。

状況は時間とともに変化しているのに、初期設定の勝利条件がそのまま、というのはあまりありません。

初志貫徹が望ましいとされ、朝令暮改は悪とされがちですが、状況への適応、都度最善手をとるという考えでは後者のが正義です。

初期の目的が果たせなくても、今の自分にとって望ましい結果が得られ得るなら、そちらに勝利条件をスライドさせ、一度負けてしまうような選択肢をとってもいいのです。

過去は過ぎ去り変えられないし、

未来はまだ来てない。

人生には今、この刹那しかないのですから。

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