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10.捕縛 嘘のつき方騙し方

国対国の戦争で人を殺すのは、味方によっては正義だ。

だが、人対人の争いで人を殺すのは大抵悪だ。

行為そのものは変わらないのにね。

人間って、どこまでも醜く、愚かと思いませんか?

ーーNo name

部屋でのんびりと過ごしていると、外から大人数の声がする。

何かを言い争っているような、そんな雰囲気。

あまり良い感じではなさそうだ。


「何かあったのかな? 10人……20人くらいか、いるっぽいけど」


妹が、窓から外を覗く。

私も、それにつられて外をみる。

見れば、先の畑の周辺に人だかりができている。


「……だから、あいつらは確かによそ者だが、悪い奴じゃないって!」


耳を澄まさずとも、ファザさんの声とその内容はわかった。

声質、 特徴的な喋り方。

途中からしか聞いていないが、私たちをかばっている様子だ。


「ちょっと私出てくるね」


そう言うと、妹は外へと足早に駆けていく。

こういう場合、当事者は参加しないほうがいいと思うが……妹が出た以上、兄として後ろに控えている訳にはいかない。

私も妹の後を追うことにした。


ーー


「どうも、はじめまして。ファザさんの所にお世話になってます、山野緋香里です。こっちは兄の巧です」


妹は丁寧な口調で村人たちに自己紹介をする。

私も、紹介されるままに「どうも」とだけ挨拶をした。


村人たちは、見るからに私たちを怪しんでいる。

自分たちとは色々と違う、私たちという存在を。

それも仕方がないことだろう。

パジャマの少女とスーツ姿の青年、とはいってもこの世界には異質の服装。

アリシアは、その恥ずかしがり屋の性格から、

ファザさんはその豪快な性質で気にしなかったのだろうが、

普通は怪しむ。

自分たちと違うものを、簡単には受け入れ難い。

私たちは、第一村人に恵まれたのだ。


「村長のギルドランです。大まかなことはファザから聞いている。遠くの街から来たことも、ファザの家で居候していることも」


重々しい口調と共に老人が前に出た。

ギルドランと自称した村長は、口調こそ丁寧だったが、その言葉の一つ一つに、私たちへの疑念が感じ取れた。

白髪の60過ぎの老男に見えるが、眼光は鋭く、村長としての威厳もあった。


「聞きたいことは一つです。緑人の住処に入りましたかな?」


ギルドランの問いに、私たちはキョトンとした。

リョクジン……どういう字を書くのだろうか。

住処、というくらいだから、なんらかの生き物のことを指しているのだろう。


「ファザさん、リョクジンって何?」


妹は即座に、ファザさんに尋ねる。


「緑人っているのは、緑色したでかい人型の生き物だ! 棍棒みたいなものを振り回して、そこらへんの獣とかを狩って生活している!獰猛だし、知性もそれなりにある!」


「なるほど、なるほど」


妹は合点がいったようだ。

私も状況は把握した。

あの落下地点で遭遇した緑の生き物が『緑人』だということ。

そして、その落下地点は彼らの住処で、縄張りを意図せず荒らしてしまったということ。


「その顔を見るに、やはり君達は彼らの住処に『入った』のですな?」


ほぼ断定するようなギルドランの問いに、私は黙った。

だが、妹は黙らなかった。

それどこから、1秒後に、


「入りましたけど、それが何か?」


と挑発するような風に答えた。

……一体、何を考えているのだ、この愚昧は!?


「おい、余計な事は喋るな!」


「兄さん、こういうことは正直に言ったほうがいいよ。ばれる嘘はつくべきじゃない。ついてもいいのは100%ばれない嘘か、本当にできる嘘だけ。今回は正直でいるのが得策だよ」


と妹はあっけらかんと理由を説明する。

冷静に解説している場合ではない。

妹のこの返答で、ギルドランはじめ村人ーーファザさんやアリシアも含め落胆の表情を浮かべていた。

ため息や不安の声が、周囲を満たしていく。


「え、何なに? 入るの駄目だったの?」


あっけらかんと尋ねる妹に、ギルドランは声を上げる。


「緑人と我らは共存関係にある。毎年1人『生贄』を村から出すことで、我々は緑人

との関係を保っている。しかし、それも彼らの狩場に入らないという前提あってのもの。彼らは遠くない日に粛清にやってくる。お前たちを探しにやってくるのだ!」


ギルドランは、悪魔を見るような目で私たちを睨む。

呼応するように、周囲の村人たちも同じような視線を向ける。


それにしても、生贄か。

神に捧げるのではなく、緑人というあんな化け物みたいなものに捧げるなんて、恐ろしい共生関係もあったものだ。


「だから、お前たちには責任をとってもらう!」


ギルドランは、パチンと指を鳴らすと、背後から大男2人が現れる。


「捕らえよ。緑人の怒りを鎮めるための追加の生贄になってもらう」


とギルドランは冷たく言い放つ。

その命令通りに、大男2人は、私たちに襲いかかる。

機械のように、淡々と命令事項を実行に移す。


「待て!こいつらの言い分も聞いてやれよ!そんなルール知らなかったんだ!仕方がないだろ!」


大男の2人の捕獲動作を、ファザさんは1人で止めた。

圧倒的腕力。

頼りになる戦力。

本当にすごいな、この人。

関心しつつ、回避動作も迎撃する様子もない私を横目に、妹はため息をつく。

しかし、それは情けない私ではなく、村人に向けられたものだった。


「嘆かわしいわ、本当に。生贄出して、共生関係って、あなた方はいつの時代の人たちですか!」


妹は言う。

村人たちを侮蔑すよるように。


「強者に媚び諂い、弱者を差し出すーー恥を知りなさい!」


妹は続ける。

村人たちを嘲笑するように。


「いつから生贄を捧げてきた?」


妹は続ける。


「何人それで死なせてきた?」


罵倒を続ける。


「そんな生き方して楽しい?」


村人たちの表情が苦痛に曇るのも気にせず、


「未来永劫、子々孫々に至るまでその生活を強いる気?」


一部で怒号がとぶも気にせず、


「そんな夢も希望も誇りのない生活を、『仕方がない』とか『昔からそうだから』とか、糞みたいな理由で、生き続けるつもり?」


ギルドランが静止を叫ぶも、止めず、


「でも、運が良かったわね。私と兄さん、そして村のあなた方の協力があれば、その緑人とやらを駆逐するなんて容易いこと!」


力強く、妹は叫ぶ。

煽る、

語る。


「あなたちに、緑人を倒す知恵を授けましょう」


妹は、人差し指をぴんと立てた。

そして、妖艶な悪女の如く、笑った。

嘘をつくときは、たくさんの真実の中に混ぜ込むか、絶対にバレない嘘をつくべきです。

バレた時のリスクはなかなかに大きいです。

それ以降の自身の言葉に、いちいち疑問を持たれるのは不愉快ですし面倒だから。


別に嘘をつかなくとも、事実の解釈の仕方で相手を誤認させることはできます。

嘘は最後の手段、使わないで済むなら使わない方がいいんです。

人を騙す、というのもあまり褒められた手ではないでしょうが。

ですが、それで自分や愛する人が助かるなら、幸せになれるなら私はそれもありとは思いますが。

世界は正しさだけでは回らないので。

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