準備と泊まりと。
暇潰しにどうぞ。
多分4話目です。
やっとかけた。
楽しんでいってください。
誤字、脱字があった場合は遠慮なく。
文化祭の貴重な枠である喫茶店。
それを彼方達のクラスが勝ち取り、盛り上がったまま、準備が始まる。
最初に手をつけたのは衣装作り。
手芸部に所属している人を中心に、衣装を作っていく。真冬と空は手芸部と一緒に女子が着る衣装を作る。
衣装作りと同時に不器用な人は看板作りや、調理室につける飾り付けなどを進める。彼方と月夜は看板作りだ。
作業する彼方が何処かよそよそしい。
そう感じた月夜は声をかける。
「彼方、どした?」
「うお、月夜か、なんでもないよ、逆にどうした?」
笑ってそう返す。
彼方の笑顔に違和感を感じ、月夜は顰める。
「彼方調子悪ぃのかよ、」
「あーあー、大丈夫だよ。一ノ瀬にも色々あんだ。だろ?一ノ瀬。」
月夜の肩に手を置いたのは空だった。衣装を作るための布を取りに行く途中なのだろうか。
「あー、うん。まぁ。」
彼方はそっぽを向きながらそう言う。
「なんだよ、内緒事か?」
「まぁ…」
誤魔化す彼方に月夜は
「ふーん。まぁなんでもいいけど。」
と、今まで色を塗っていたヘラに手をつけ、看板に色を塗っていく。
「まぁ、何れ話すよ。話さなきゃいけなくなる。」
彼方も手をつける。
月夜は不思議そうに横を見るが、直ぐに向きを直して看板作りに励む。
「あーまふゆ可愛いー!」
「うんうん、よう似合っとる。さすがうちやな」
メイド服擬きを着、顔を茹でダコのように赤くして立っている真冬を取り囲むように空ともう1人の関西弁が目立つ女子、松岡みかが立ち、舐め回すように見る。
「いやー、さすがみかさんっすわー!コスプレで売ってるメイド服を改造してしまうなんて!」
真冬を360°、色々な角度から撮りながらみかのクオリティを褒める。
「いやいや、元々の形がアレだっただけで、それを直しただけやん。誰でも出来るわ」
笑い、そういう。
「さっ、空もそれぐらいにしときや、真冬ちゃん脱ぎたいやろ」
まだ写真を撮る空の肩に手を置き、止めさせる。空はそれに素直に従い、写真を撮るのをやめ、着替えを渡した。
真冬は着替えを受け取ると、パタパタと小走りして着替えをする場所に向かう。
「次、どないしましょ」
「女子はだいたい全員終わったからなー、あっ一ノ瀬ー!今看板終わった?」
みかが腕を組み、タキシード服を見つめていると、空が手空き状態の彼方を見つけて声を掛ける。
名前を呼ばれた彼方は空の方を向き、「うん」と返した。
作り終えた看板を壁に立て掛け、空の方へ向かう。
その時、「メイド服って暑いねー、」
とメイド服を手に持ち、着替えるスペースから出てきた真冬と鉢合わせする。
「おっつ〜メイド服は預かる」
と空はメイド服をかっさらい、みかの方へ飛んでいく。
「あ、かなくん。どうしたの?」
「え?あ、なんか空に呼ばれて。」
「じゃあ、今からかなくんはタキシードを着るんだ!」
目を輝かせながら、嬉しそうに真冬は、「着たら見せてね!」
という。彼方は「え、うん。」と返す。
_変に意識しすぎだ。
「じゃあね、」と真冬はどこかへ向う。
_なんか、変だな…
「よし、じゃあ一ノ瀬、これ着てこい」そう言って押さえつけられたのはタキシード。
「それ、まだ改造してないからー。一ノ瀬君が着てから色々調節するんで、汚さないでな〜、」
みかがそう言うと、「んじゃ、そういう事で!」と着替えるスペースに押し込まれる。
_着替えるしかないのか。
着てみたが、いつもと違う服装にどこか違和感を感じる。
「空、着てみたけど。」
「おっ、はいはーい」
作業をしていた手を止め、「みかちーん!」とみかを呼ぶ。
その声に反応した真冬もタキシードを着た彼方を見に来て、「わぁ、かっこいい」と声のトーンを何故か下げて感想を言った。
「うーん、そやなぁ足丈が短めかぁ、一ノ瀬君足長いんやぁ。他も色々調節できそうだな…」
彼方を遠目に見て、改善点を見出す。
「もう着替えていい?」
_恥ずかしいし。
大量の視線を感じ、一刻も早く着替えたいと急かすように上着を脱ごうとしていたが、
「ちょっとまってて、靴も履いて!革靴!ローファー!」
と彼方に制止するように手で促しながら、ローファーを持ってきた。
「これ履いて!」
「うん、」
言われるがまま履く。
「うーん、腕の丈も短いな…もう1サイズ大きくするか?そうすると肩幅が…特注?いや、肩部分を切って、」
みかが腕を組みどうするか、プランを立てている間に空が色んな角度から写真を撮る。
「ねぇ、もう脱いでいい?」
もう一度彼方は上着を脱ごうとする。
「駄目、もうちょっと待って…!!みかがプラン立ててるから、」
はぁ、と彼方がひとつため息をつく。
「…よし、決めた。一ノ瀬君、脱いでええで。」
「うん。」
_やっと脱げる。
元々居た持ち場に戻ると、近くで作業をしていた月夜が作業をする用具を持ってきて隣に座り、声をかけた。
「おっ、彼方どうだった?タキシード。」
「違和感しか無かった。」
「ブレザー着慣れてるから大丈夫だと思うんだけどなー、」
「天宮ー!」
「はいはーい。噂をすればなんとやらだな、マネキンになってくる。」
彼方に歯をみせて笑う。
「行ってらっしゃーい。」
彼方はひとつも笑わずに手を振り、そしてそのまま看板作りに没頭する。
_できた。
次々と出来上がる看板を壁に立てかけていく。
「一ノ瀬、もうノルマ終わったのか。」
出来上がった看板の微調整をしていた彼方の横にちょこんと座る空。
「うん。」
「じゃあ、こっち。手伝ってくんね?」
そう言って指さしたのが衣装を作っている場所。
「一ノ瀬、手先器用だよな。見る限り…」
「いや、そんなこと_」
「いいから!」
彼方の意見などお構い無しに、衣装を作る場所まで手を引っ張る。
_これ逃げ出せないやつだ。
「これ手伝って!」
連れてこられた場所は、小物を大量生産しているグループだった。
衣装作りにも色々グループがあるらしく。
衣装、小物、靴。そこから枝分かれして、もっと細かくなっていく感じだ。女子の人数にも限りがあるため、手先が器用そうな男子も参戦していく。
小物を作っている男子もいたが、作業が追いつかないらしく、彼方を呼んで作業を早めよう、という事らしい。
「一ノ瀬も早く作業終わらせたいだろ?」
「あー、まぁ。」
「じゃあ手伝って!まーしー!」
「あ?」
"まーしー"と呼ばれた女子が振り向く。
名前は月崎志麻。苗字みたいな名前のため渡世名だのなんだのと言われているが、別に"ヤ"のつく人でもないし、家系でも無い。
本人はあまり気にしていない。
目付きが悪く、男子と間違われてもおかしくないが、手芸部に所属しているれっきとした女子だ。
高校に入ってからみかと出会ったが、ウマが合ったようで、いつも行動を共にしている。
「一ノ瀬が手伝うって。」
そういって彼方を指さす。
「一ノ瀬…分かった。」
一瞬"誰だっけ"という顔を見せたが、彼方の顔を見た時、"ああこいつか。"という顔を見せ、頷いた。
「一ノ瀬、よろしく。」
「よろしく。」
志麻が頭を下げたため、反射条件で彼方も頭を下げる。
「今、小物…というかポーチ?まぁよくわかんないけど。縫う場所が指示されてるからその通りに縫っていって。仮縫いね、波縫い。あとでミシンにかけるから。そうすれば何とかなる。」
_自分も今何を作っているのかわからないまま作ってるのか。しかも適当。
「分かった。」
彼方は言われた通り、縫う場所にそって波縫いをしていく。
_一つのことに集中するのはいいな。余計な事を考えずに済む。
内心そう思っていても、やはり何処かで真冬の事と、空の言っていた事が気になってしょうがなくなる。
「………できた。」
彼方の目の前に置かれていたノルマは全て終わらせた。
他に無いかと、周りを見るが誰もが忙しそうにしていた。
月夜は見当たらないけれど。
「あ、一ノ瀬。」
スマホでも触ろうかと、ズボンの後ろポケットに手を伸ばそうかと思った時、志麻に声をかけられた。
「終わった?」
志麻は両手に何かの材料が入ったダンボールを2つ、積み重ねて持っていた。
そして、彼方が仮縫いをした物をぽいぽい、と箱の中に入れていく。
「うん。持とうか?」
「嗚呼、さんきゅ。」
彼方が見た目重そうな荷物を志麻から1つ取る。
「何処まで持っていく?」
荷物の中身を見ると先程まで縫っていた小物や服など。
重さを聞かれたら重い方だ。
_こんなのを女子一人に持たせてたのか。
もうひとつも持ってあげたい親切心が芽生えたが、そうすると彼方の手が空いていないため、持つことも出来ないし第一、志麻が素直に渡すとは思えなかった。
_良く清々しい顔して2つも持ててたな。
実際、志麻は力持ちの分類に入る方で彼方の手助けも要らないぐらいだったが、そうすると彼方が暇を持て余してしまう。という志麻の親切心もあった。
「家庭科室。」
志麻はそう言って、家庭科室へ足を向けた。彼方もその隣を歩いていた。
それから彼方と志麻は一言も交わすことなく家庭科室へ着いた。
「持ってきた。」
そう言って雑に足で扉を開ける。ばん、と大きなと音が鳴り、一瞬家庭科室内が静まり返る。
「ああ、まーしーこっちやで。」
みかが手を挙げ、志麻を呼ぶ。
「ここに置いといてや。」
片手でミシンを操作しながら、もう片手で志麻に場所の指定をする。
志麻は無言で頷き、荷物を置いた。
どさっと音がした。志麻が持っていた荷物も相当重かったようだ。
彼方もその隣に荷物を置く。彼方が持っていた荷物からもどさっと重そうな音がした。
「みかちゃん、終わったよー。あっ!かなくん」
自分の作業を終えた真冬がみかの元へ来た。
「タキシードかっこよかったよ!
かなくんもこっちの作業手伝ってるんだね」
「ありがとう。まふのメイド服もかわいかった。
うん。自分のやることなくなったからね。…まぁ、大体空のせいだけど。」
「聞こえてるぞーしかもそこでイチャイチャすんな。」
「してない。」
空に聞こえないように言ったはずなのに、向こうは気づいたようだ。ミシンを操作しながら彼方を見てくる。その上、余計な一言を言った。彼方はすぐさま否定する。
_地獄耳め。余計なこと言って。
彼方も空を見る。睨む程ではないが、漫画だったらきっと、火花でも散っていただろう。
真冬は2人を見てふふ、と柔らかく笑う。
_可愛い。
彼方はそう思った。心臓がきゅっと誰かに掴まれた。
「はいはい、3人とも仲いいのはよろしいんやけど、手伝ってくれん?まだまだ残っとるんや。」
みかは、手を叩き会話を中断させる。
「はーい」と返事をし、それぞれの作業に戻る。彼方はやることが無くなり、教室にでも戻ろうかと思っていたが、みかに「一ノ瀬君も手伝ってくれるんやろ?」と言う。
「いや、ちょっと_」
「ああ、じゃあ天宮くんも呼ぼか!」
仲間がいないと嫌やろ、と言ってみかは教室に戻るが彼方は
_そういうことじゃないんだけどな…
と思っていた。
「え、なんでこれ俺呼ばれてんの?」
「すまん…」
月夜は、言われるがままここへ来て言われるがまま作業をこなす。ここに呼ばれた意味もわからないまま、楽しそうにミシンを使う。
「天宮くんはお裁縫好きなん?」
ミシンを使いこなすように見えなかったのだろうか、少し驚いた顔を見せる。
「あー、俺裁縫だったらミシンだけ好きなんだよなー機械系だからか?」
月夜は機械系が得意らしい。パソコンも自分で作ると言う。理由は「安く収まるから」らしいけれど。
「天宮、工業系行けばよかったのに。」
とりあえず、と自分のノルマはクリアし暇になった空は、一生懸命作業をしている真冬の隣に座り頬杖をつく。
「俺はサッカーがしたかったんですー。」
永遠と座ってるよりかは、運動していたい、と月夜はその場で足踏みする。
「ふーん。」
自分で話題を振ったのに、興味無さそうに返事をした。
「終わったー!」
真冬が終わらせたのは、仮縫いされていたメイド服の装飾品をミシンできちんと縫い直し、本体であるメイド服に仮縫いし、ミシンで縫う。という面倒臭いといえばそれまでの仕事。
「俺も終わった。」「おれも!」
彼方と月夜が終わらせたのは、先程彼方が仮縫いをしていたものをミシンで縫い直しただけ。単純作業だが、その分量があった。
「よし、これで衣装は終わりやな。」
疲れた、と伸びをしながら言う。
「看板作りはもう終わった?」
そう言われて彼方と月夜は顔を合わせ、
「多分」
と二人揃って言った。
教室に戻るとほぼ全ての作業が終わっていた。後は開催場所である調理室での飾り付けやなにやら。
調理室関係は、当日やればいいだろとの判断らしく皆教室の中で遊び呆けていた。
級長、副級長が黒板の前に立ち、何かを書き始めた。教室はなぜかしん、と静まり返る
シスコン 出演者 男女1名
と黒板に書き出され、急に盛り上がる。
「シスコンに出演する人を決めます。立候補、推薦ある人。」
戸惑いの声も聞こえたが、誰がいいという誰かの声を筆頭に次々と名前が出てくる。
1人ずつ推薦者の名前を書き出していく。
男子:一ノ瀬彼方 正正正 天宮月夜 正 …
女子:相川真冬 正正正一 ……
「…多数決で男子は一ノ瀬君。女子は相川さんに決定しました。いいですか?このまま決定しても。」
級長は彼方と真冬の方を向いて確認を取る。彼方は「まぁ、まふがいいなら。」といい、真冬は「かなくんがいいなら。」と言う。
級長は少し困った顔を見せたが、「それでは、シスコン出演者は一ノ瀬君と相川さんに決定します。」と言った。
シスコン出演者が決まり、文化祭の準備も順調に進んでいく。
文化祭の話で盛り上がったまま下校時間まで暇を潰していた。
「下校時間になりました。」
と、放送がかかり教室からぞろぞろと帰っていく。
_明日は文化祭か。
「ねぇ、空ちゃん今日本当に家に泊まっていく?」
「真冬ん家がいいなら私は行きたい!」
月夜も空も今日から文化祭が終わるまで、部活は休みらしく一緒に帰っていた。
空と真冬は前々から真冬の家に泊まることを予定していたようで、その確認をしていた。
「え、なに真冬ん家泊まんの?」
月夜は興味津々そうにその話に入っていく。
「真冬ん家が良かったらの話だけどねー、」
「なぁ!俺らも泊まろうぜ!」
「は?」
月夜の予想外の言葉に彼方は素っ頓狂な声を漏らした。
「真冬の家に泊まるの?」
「え?だめ?」
彼方が眉間に皺を寄せて言うから月夜は真冬と彼方を交互に見て確認を取る。
「私の家は許可取れてるから別にいいけど…」
真冬は戸惑いながらそう言って、彼方をちらりと見る。彼方はいや、と言って
「俺も真冬の家泊まるって言ったら大丈夫だけど。一応家族ぐるみだし。」
と続け、頭をかく。
「さすが、家が隣同士だと色々省略できていいねー、」
そう空が揶揄うが、彼方はすかさず
「空と月夜も家隣同士じゃん。」
と返す。
それに空はうーん、とうなり首を捻る。さらに腕を組んで
「なんか違うんだよなー、なんか…」
という。月夜も上を向いて息を吸い、
「それなんか分かる」
と空を指さす。
何かが違うと言う月夜と空を置いて、彼方と真冬は、
「本当に大丈夫?鈴子さんとか…」
「お母さんは大歓迎って言ってるから、お父さんも大丈夫なんじゃないかな?
今日、お母さん家に居るみたい。」
と真冬の家族の心配をしていた。
ピコン、と彼方の携帯からメッセージを受信した音が鳴った。スマホを手に取り、メッセージを確認する。彼方の母からだった。
『今日真冬の家に泊まるから、よろしく。今日仕事?』
『そういう事は花さんに聞いてよ〜、了解。大地さんに言っておくわね。』
"花さん"と呼ばれる女性は、彼方の母、咲のマネージャー。普段は自分のスケジュールなど全く管理しない咲にとっては"花さん"はなくてはならない存在だ。
彼方も"花さん"を相当信頼しており、他人の域を超えて、兄弟のような関係でもある。まぁ、付き合いがとても長いというのも一つの理由ではあると思われるが。
『よろしく』
と打ち返した時、真冬が「咲さん?」と聞いてきた。「うん、そう。」彼方が素っ気なく返す。
「多分うちの母さん、鈴子さんに会いに行くかもしれない。」
「かなくんの感はだいたい当たるもんね、分かったお母さんに言っておくね。」
真冬が自分の母にメッセージを送っている間、月夜が彼方の肩を組んできた。
「なんの話してんだよー」
彼方はうざったそうに、「なんでもないよ、家族の話。」
と肩を組んでいた月夜の手を払う。
「真冬の家大丈夫だった?」
「私は大丈夫、空ちゃんと月夜くんは?」
「私は兄貴の許可取れたから大丈夫!」
「俺は姉ちゃんに任せた」
彼方は一瞬兄弟がいることが羨ましく感じたが、もう既に花が姉のような存在だったことに気づき、その感情を否定した。
「兄弟いるのいいなぁ。」
真冬は思ったことを正直に言った。
「まふゆは一人っ子なのか、一ノ瀬も?」
「まぁ、そうだね。」
否定もしなければ肯定もしない。やんわりとした返し方だ。
「ふーん。でも兄弟なんていたらいたで面倒臭いよー。」
「むしろ居ない方がいいかもしれない。」
空が言ったことを付け足すように月夜がそう言う。
兄弟が居ない2人にとっては感じたことの無い感覚だ。
「そういえば、まふゆと一ノ瀬の家って何処だ?」
いつも別れる十字路まで着くと、真冬と彼方がいつも向かう方向に進む。
「踏切の向こうかな?」
「まぁ簡単に言えばそうだよな。」
真冬と彼方が顔を合わせ、簡単に説明するが、あまり伝わっていないようで、
「へぇ、そんなところに踏切なんてあるんだ。知らなかった。」
と、空が言った。
「まぁ、着けばわかるだろ。」
月夜が頭の後ろで手を組み、だらしなく歩く。
「着いたよ。」
そう言って真冬の家の前で立ち止まる。
月夜と空は絶句していて、開いた口が塞がらない状態だった。
「まじ?」
「こっちが真冬の家で、こっちが彼方の家?」
月夜が指を交互に指す。
「そうだよ。」
彼方は冷静に答える。まるで、これが普通の大きさでしょ?と言っているみたいに。
「でかくね?」
空と月夜は声を揃えて言った。
周りの家の一つ一つが大きいが、彼方と真冬の家はまた一際目立つ大きさだった。
そして2人の家は隣同士に並んでいるため、迫力もまた倍になって伝わる。
_ここって高級住宅街だったっけ。
空はふと思った。
なぜならテレビで見るような大きさの家だったり、車だったりするため、そう見えてもおかしくない。
でも実際、高級住宅街でもなんでもないのだ。たまたまと言えばたまたまで。偶然が重なって、高級住宅街擬きが出来上がった。
「普通でしょ。」
「うん。」
彼方と真冬はこれが基準だと言う。空と月夜はその言葉にまた絶句する。
「まぁ、とりあえず入って!…ただいま!」
真冬が空を前に押しながら、インターホンを押し、挨拶をする。そうするとがちゃんと、手前の門の鍵が開く音がした。
そこから少し歩き、玄関の扉を開く。
「ただいまー、」
そう真冬が言うと、1人の女性が出てくる。
「おかえり。」
真冬によく似た柔らかい笑顔を見せる。
「お久しぶりです。鈴子さん。」
彼方は鈴子と目が合うとお辞儀をしながら言った。
「お久しぶり、彼方くん。大きくなったわね。…さぁ、上がって。」
真冬の部屋まで行くにはリビングを通っていかなくてはならない。そのため、廊下はひとつ。廊下にも真冬の父である蒼の趣味だろうか、所々に絵画が飾られている。
大きいリビングとダイニングルームの間に2階へ続く階段がある。そこまで進め、「後で、お茶をお持ちするわ。」と言って、鈴子はキッチンの方へ向かう。
「ここもデカい…」
空はこの場所が信じられないと、夢の国にでも来たようなリアクションを見せる。
月夜は落ち着かなさそうに周りをキョロキョロする。まるで友人の家に預けられた犬みたいだった。
真冬の部屋もやはり普通の大きさではなかった。
「でか。」
空と月夜はついつい、言葉が漏れる。
真冬の部屋に置いてあるテーブルに4人は自然と集まる。
「ねぇ、真冬の家ってなんの仕事してるか聞いてもいい?」
遠慮がちに質問したが、内心興味津々だった。
空の質問に真冬は普通に「医者だよ。曾お祖父ちゃんの代から、」という。
「しかも、総合病院の院長。」彼方は余計な一言を言ったと思ったが、本人は気にしてないのか、「そだよ」と軽く返した。軽く返したことにまた2人は驚き、
「え、じゃあ真冬のお母さんも医者?」
と驚きを隠せないまま、そう言う。
「私の事?」
月夜が鈴子の事を言った時、丁度鈴子が部屋に入ってきた。
「私も医者。」
あまり音を立てずに紅茶の入ったカップを置く。
月夜は彼方の想定内の驚きをみせ、空もえっ、と驚く。
_じゃあ両親とも医者じゃん。そんなのドラマでしか見た事ない
少し前に放送していたドラマを思い出す。
まさに、そのドラマと真冬の家系の設定はぴったりと重なる。関係ないと言われればそれまでだが。
鈴子は自分が医者に見えず、驚かれたことに笑ったのか、ふふ、と口を抑えて笑い、真冬によく似た笑顔で「真冬をよろしくお願いします。」
と礼をして言った。
空や月夜もそれに釣られて頭を垂れた。
「じゃあ、私はお邪魔みたいだから。」
と最後にお菓子の小袋が入ったカゴを真ん中に置いて、部屋から立ち去った。
階段を下る音がなくなったのを確認して、空がねぇ、と机から身を乗り出す。
「まふゆのお母さん、凄いまふゆに似てなかった?」
別に小さい声で喋らなくても大丈夫な内容なのに、空は子供が隠し事をするのを楽しそうにする表情を見せて内緒話をする。
「まぁ、そうかもしれないな」
彼方もなんとなくつられて、声のトーンを下げて話す。
空はにやけた顔で「特に、笑った顔な!」と彼方を指さしそう言った。
その行動の意味はあるのだけれど、真冬と月夜には意味の無いように見えたため、不思議そうに彼方の方を見る。
何故か注目を浴びている彼方は首をかしげて「え、何?」と言った。
空はまぁいいや、と彼方を指さすのを止めて、ちゃんと席に座る。
喋っているだけではつまらなくなり、真冬が住んでいた海外のゲームだったり、無難にトランプをしたりしていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
「今何時だ?外暗くね?」
「わ、ほんとだ。…もう7:15ぐらいだ。」
外の景色など全く気にしておらず、ゲームに集中していたため時間感覚が狂っていた。
「ご飯までまだ時間あるから、大丈夫だよ」
その一言で、3人はじゃあいっか、とまたゲームを再開する。
「ご飯できたよ」
と下の階から男の人の声がした。
彼方達はゲームを一通り片付け、下の階に向かう。
ダイニングに入った時、男の人が料理の皿を机に置いていた。
「初めまして、真冬の父です。」
彼は優しく笑う。
「お久しぶりです。蒼さん。」
彼方は浅く頭を下げる。
彼はそれを見て、また優しく笑い彼方と同じぐらいの浅さに頭を下げた。
「久しぶり、彼方くん。
大きくなったね。」
_ほんとに大きくなった。この間まで僕のこと叔父さんとか言って咲さんに注意されていたはずなのになぁ。
としみじみ思う。
「妻は緊急で呼ばれてしまってね。男飯で良ければ沢山食べて。」
4人が「いただきます」と手を合わせて食べ始めた少し後に、蒼は全員にお茶を配り、自分も席に座り食べ始める。
運動部である2人は箸が止まらず、美味しそうに食べる。
彼方と真冬は周りなど全く気にせず、自分のペースで食べる。
美味しそうに食べる姿をみて、蒼は嬉しそうに笑っていた。
「ご馳走様でした。」
と4人はまた一緒に手を合わせる。
空はどの料理が美味しかったと蒼に感想を言っていた。
蒼はそれを嬉しそうに頷き、聞いていた。
まるで、病院の患者と医者のようだ。
いや実際、蒼は医者なのだが。
真冬が静かに自分が使った食器をシンクに置き始めた。その流れで皆一緒に片付けをすることになった。
片付けがほぼ終わり、最後の食器を拭いていた時、蒼が思い出したように言った。
「お風呂、どうする?近くに温泉とかあるからそっち行く?」
真冬はどっちでもいいよと言っていたが、3人は我儘を軽く言えるわけでもなく、提案された温泉に行くことになった。
「こんなん漫画でしか見た事ないよ」
「俺も」
某六つ子漫画のように、並んで歩いた。女子は桶。ではなく、ビニールポーチに用具を入れていた。
が、男子は手ぶらだった。
「いや私もあんま行ったことないから、久しぶりだなー。」
「俺はよく行く。たまに。」
「いやどっち」
漫才じみたことを繰り返していると、道路の角にいかにも。という雰囲気の温泉、というか銭湯らしきものが建っていた。
「じゃ。」
男湯と女湯で別れ、落合場所は漫画が置いてあるコーナーになった。
平日ということもあったのか、人は少なく、二三人ほどしかいなかった。
「まふゆ、やっぱりここは恋バナじゃない?!」
ただ他人の恋バナが聞きたいだけの空だったが、ついに真冬から反撃を食らった。
「空ちゃん、月夜くんのこと好きでしょ?」
しかも、自身満々。図星だったため、何を言わずとも段々顔が赤くなっていく。
真冬はそれを察し、ニンマリとした笑顔になった。
それを見た空はまた赤くなり、「真冬だって彼方のこと大好きじゃん!」と言うが、真冬は今度は純粋な笑顔で「うん、大好き」と言った。
_これが海外パワー。
それからは月夜のことであったり、彼方のことであったり。
隣の男湯まで聞こえるほど盛り上がったらしい。
「すごい盛り上がってる。何話してるのか知らないけど。」
彼方は頭に泡を立たせながら天井をむく。
先に風呂に入っていた月夜もそれを追いかけるように天井を向き、「あー。恋バナだろ、どうせ」と、おじさんのような声を出す。
男湯には2人以外おらず、なんでもやり放題、話放題だ。
「恋バナしようぜ」
気持ちよさそうにそのまま頭までお湯に浸かりそうだった月夜はのそのそとお湯から出てきて、彼方の近くまで来た。
彼方はシャワーで泡を落としてから「えー。」と気の乗らなさそうな返事をした。
月夜はお構い無しに話を進める
「彼方は真冬のこと大好きな。」
_当てるまでもねぇよ
いつものように傍にいた月夜だからこそわかる事なのだろうけど、わかりやすいほどに彼方は目で追っていた。本人は鈍感なのか、気づいていないが。
彼方は予想外のことだったらしく、「え」と声が裏返り、後ろをばっ、と振り向く。その時月夜の顔に水しぶきがかかり、顔を拭く。
「え、お前気づいてなかったの?え、てかバレてないと思ってた??」
首を左右に揺らしながらニヤニヤした顔を彼方に向ける。
彼方は本当に周りにはバレていないと思っていたらしく、まだ信じられなさそうな顔をしていた。
「え、真冬は」
「気づいてねーよ」
安心しろと付け加える。
よかったと胸をなでおろした彼方だったが、唐突にそうだ、と言った。
「月夜、空のことすきじゃん」
「は?!」
「え?違う?」
「いやあってるけど」
「合ってるじゃん」
「え、いや、お前それどこで…」
「え?俺の勘。」
「勘って…。」
_彼方が分かるほどわかり易かったのか?じゃああいつにもバレてんのか?
頭の中に最悪なパターンが浮かんだ。
「空は?」
「空にはバレてないんじゃないかな、多分」
「多分ってお前根拠の無い自信を…。」
_空から話聞いてると、月夜が自分のこと好きとは少しも思ってないもんな。
空は人知れず、彼方に恋愛の相談をしていた。恋愛もしたことない彼方に相談をするのは少しお門違いのような気もするが、意外なやつほどいいアドバイスをくれる。と空は信じていた。
「告白しても大丈夫か?」
「んー。場所次第じゃない?」
身体も洗い終わり、月夜の隣に座り肩まで浸かる。
「場所ってなんだよ」
「ほら、女子はロマンチックな方がいいんじゃないの」
_なんか空そんなこと言ってたような気がする。
「ふーん。彼方はどうすんだよ」
「どうしようねぇ。」
この会話は女子には聞こえることなく、風呂の中に響いて消えていった。
「あー、あっつー。」
「おー、おっつー。」
漫画を2冊ほど持ってきて、月夜の隣に座る。
「はい、牛乳。」
「わ、ありがとう。」
飲み終えた牛乳をカゴに入れて、ひとつのテーブルを4人で囲むように座って、漫画を読んでいた。
「もうそろそろ帰っておいで、布団敷いたから。」
「ありがとう」
帰ってこいとの指示がでたため、読みかけの漫画を片付け銭湯を出る。
「ただいま」
「おかえりなさい。」
そのまま真冬の部屋に戻った。
明日は文化祭ということもあったのか、
「電気消すね」
と言われ、電気が消えると真冬からすぐ寝息が聞こえた。
「起きてる?」
小さな暗闇の中に1人、空の声が溶けて消えた。
「起きてる。」
また1人、今度は月夜の声が溶けて消えた。
また1人、2人の声が聞こえて目を覚ましたが声を掛けないでいた。
寝息が2つ聞こえる。
「寝れる?」
「いや、無理。」
「寝るまで話そう?」
「いいよ」
いつもとは寝心地が違う布団から抜け出して、窓から月が見える席に座り、話を始める。
「うわ、綺麗。」
月に目を向けてずっと見つめる。
空の目の中の茶色寄りの黒色に月の光が混ざってきらきら光る。
空の髪の目と同じ色がまた反射して光る。
「そうだな。」
今日の月は満月寄りの月だ。
_なんて言うんだっけ。十六に夜って書く月。
「ね、月夜って誰が好きなの」
月の名前を一生懸命思い出そうとしていた月夜に、空はいきなり恋バナを切り出す。
_女子はみんな恋バナが好きだな。
若干呆れもしていたが、逆手に取れば告白することも出来る。
「あー、誰だと思う」
少し焦らしてみる。
「真冬!」
「違う」
「あー、じゃああの子だいつも月夜に会いに来る」
「あいつ嫌い」
「誰だよ」
「誰だと思う」
「はー?ヒント」
「一つだけな。
可愛い」
「ンなのみんな可愛いじゃん、もっとわかり易く」
「あー、じゃあ笑顔が可愛い」
「みんな可愛いじゃん」
1つため息をつく。
「…お前だよ
お前が一番だよ。」
ずっと顔を見合っていたが、ついに空は声を殺して泣き始めた。
その姿に月夜は驚いて、手をあたふたさせる。
「ちょ、泣くなよ」
なんとなく、なんとなく。月夜は空を腕の中に包み、背中をぽんぽん、と優しく叩く。
空はさらに大きな粒の涙を流す。
月夜はだんだん肩に染みる涙の数を何となく数えて、それに合わせて背中を優しく叩く。
「いつまで泣いてるんだよ。」
「だって、」
声を出すと、裏声が出てきた。
月夜はそれを聞いて、なんとなく笑みと空に似た大粒の涙が零れた。優しい笑顔だった。
「あー。泣き疲れた。」
「俺もなんか涙出てきた。」
2人で同じ目元を拭い、同じ行動をしていることに気づくと吹き出して笑う。
「あは、頭いたーい。」
「俺は寝みぃわ」
泣き疲れた上に笑い疲れて、今日は忙しい。
笑いが止まると一気に眠気に襲われて、そのまま布団に潜る。
「おやすみ」
「おやすみ。」
暗闇の中に月の光が差し込んだ。
今度は深い睡眠に落ちていった。
_おやすみ。
1人、静かに様子を見送った彼方もまた深い眠りに落ちた。
お久しぶりです。
また今日も話します。
今日は空のことについて。
やっとくっつきましたね。嬉しい。
そうです、作者もずっと応援してました。月夜が引っ越してきて、少し経った時からずっと好きなんです。なので、小学生からですかね。
本編の方でも表現があったように、
目も髪も焦げ茶。でも太陽にあたると黒く見えたり。
外にいる時間が長くて、色が抜けてるってやつですね。
でも肌の色は決して黒くありません。むしろ白いぐらい。
母親のおかげでしょうね。日焼け止め塗りたくってそうですね。
頭髪検査は引っかかりませんでした。緩いし。
空も月夜と同じようにスポーツ推薦でこの学校に来ました。
陸上ですね。棒高跳び。
記録持ってます。
家族構成は兄が2人、弟が1人。
月夜が思うには、弟の方がしっかり者だと。
男に挟まれてるため、言動は男っぽい。
家族全員陸上やってました。現在進行形でやっている人も。
母が走り高跳び
父が長距離
1番上から長距離 短距離。
1番下がハードル。
空も元々は走り高跳びの選手でしたが、母親の指導が厳しすぎて棒高跳びに逃げました。
でもそっちの方が合っていたらしく、グングン記録を伸ばしてます。現在進行形で。
必死にやっている顔は女子に、笑顔は男子にモテるという最強の表情を持ってます。
モテると言っても恋愛感情ではなく、友情的な意味で。
なので男女問わず仲良いです。
たまに恋のキューピットになったり。
今回は彼方が多分恋のキューピットになりましたね。多分。
これ以上話すと長くなりそうなので切上げます。
(個人的に一番好きなキャラです。そのうちイメージイラストでも載せれたらいいですね。載せ方わかんないですけど。
誰か知ってる優しい方いたら教えてください。)
その他の作品→″俺、明日死にます。″
私が俺になる時、
また会えることを楽しみにしてます。




