舞踏会へ②
「・・・って!ユーリスが夜の護衛!?」
驚いて張り上げた声が部屋に響く。
「随分と話が逸れていましたが私はそれを伝えるためにシズを訪ねてきたのです」
「いやいや!国王と王女の護衛は!?昼はあの二人に付いてただろ?」
この国の根幹を担う人物には騎士団員が付きっきりで護衛を行う。
昼の式典の最中もアグリスト騎士団の団員達が常に巡回し、不審な動きを見せる者はいないか目を光らせていた。
だがアグリスト王国のトップである国王と王女には、特別に騎士団のNo.2であるユーリスが片時も離れることなく護衛をしていたのだ。
なぜユーリスなのかというと団長であるアリスさんは全体の指揮をとらなければいけないらしく、副団長であるユーリスにお役目が回ってきたようだ。
当然っちゃ当然か、誰かが頭となって仕切らないとこのバカでかい王宮を隅々まで見張るなんてできないしな。
その頭の役目はもちろんアリスさんがやるだろうし、信頼して任せられるからユーリスに二人の護衛という任務を課したのだろう。
俺と後輩が人目を盗んだつもりで階段の下で休憩してた時も、実際は見えない所から護衛してもらってたんだろうし。
こっちからは姿が見えなかったし俺達の話は聞こえていなかったと思うが。
国王である後輩を無防備な状態にはさせないよな。
だからこそ、だからこそだよ?俺についてくるってことはあの二人から離れるってことで・・・大丈夫なのか?
別に安全とか誰かに狙われるんじゃとかそういう事を心配しているのではなく、色んな意味で規格外の奴らだぞ?見張っとかないと常識外れの事を平気でやりそうで気が気でないんだが。
「昼と夜では警備の配置が変わるのです」
不安を覚える俺に対して一言、ユーリスはそう説明する。
「配置が変わる?どういうことなんだ?」
「安全面の問題です、不逞の輩が潜り込んでいないとも言い切れませんし」
「ますます分からん」
安全面?昼と同じ巡回じゃダメなのか?
「では、例えばの話をしましょう。今日の式典や舞踏会に参加する貴族の中に良からぬ思惑を持った者が混ざっているとしましょう」
「お、おう」
いきなり、『分かりやすい!ユーリス先生のミニ説明会!』が始まってしまった。いや本当に分かりやすいのかは分からんが。
「そのような貴族達はまず、直接自分の手を汚したりはしません。多額の金で雇った殺し屋辺りを差し向けてくるでしょう」
「ふむ」
まさかユーリスの口から殺し屋という言葉が出てくるとは、つかこの国殺し屋いるの?やだこわい。
「それが誰を狙ったものであろうと下準備は必要なはずです。そこで殺し屋が必ず手に入れるのはこの王宮の見取り図でしょう。見取り図がないのでは殺しの成功率は大幅に下がりますし」
淡々と話すユーリスの口調に乱れはない、いつも通りの冷静さだ。
むしろ冷静すぎて逆に怖いんですけど・・・自分の体験談とかを元にして話していたりしないよな?
「シズ?聞いてます?」
それまで椅子に座っていたユーリスが不意に立ち上がり俺の顔を覗き込んできた。
「あ、あぁ。聞いてるって」
背が高い事だけが取り柄の俺とユーリスの身長差は30cmくらいあるが、背伸びをして碧い瞳でじっと見つめられると今でも照れてしまう。
この子はもっと自分の容姿の良さを自覚した方がいいと思うんだよ、俺は。
「せっかくですからシズも座って下さい、この後も予定が詰まっていて長いのですから今のうちに足を休めておいて下さい」
「それもそうだな・・・よいしょっ・・・と」
手近にあった椅子に手を伸ばし、ユーリスの方へ向かって座るとふぅ、と息を吐く。
今日は慣れない事しかしてないせいで腰にも相当負担がかかっていたようだ。
騎士団での雑務で多少は体力が付いたと思ってたのになぁ。
というか・・・
「・・・・・・・」
間にテーブルとか何も挟まないでただ向かい合って座るのってなんか気恥ずかしいな。
目を合わせづらいし、思わず頬を掻いてしまう。
ユーリスもそう感じているのかいつも通りの表情からは読み取れないが、なんとなく沈黙が流れてしまう。
「・・・えっと、それでどこまで話してもらってたんだっけ?」
俺がさっきの話の続きを促すとユーリスは金の髪を一撫でして喋り始めた。
「見取り図の話、でしたよね」
「そうだそうだ、でもこの城の部屋の場所が全て描かれた見取り図なんかそう易々と手に入れられる物じゃないだろ?観光場所じゃあるまいし」
「その通りです、本来なら極秘資料のはずなのですが絶対に外部に情報が洩れていないと決めつけ慢心するのはいけません。この一見華やかで希望に満ちた国にも、裏があり、影があります。シズも知っているはずです」
常日頃から騎士団員の模範となっているユーリスがいつにもまして真剣に語っていく。
「あぁ、知ってるさ」
少なくとも一つは、な。
ユーリスが俺に言っているのは『スラム』の事だろう。
元の世界にもあったスラム街、それがこの国にも存在する。
アグリスト王国の誰もが知りながら、今まで手を差し伸べる者はほんの一握りだけだった、人と物の廃棄場。
通称、ゴミ箱。
だけどその中でも今日を死にもの狂いで生きている人が、子供がいる。
なのに前国王でさえも知らんふりをきめこんでいた、これがこの国の闇以外のなんだっていうんだ?
「明日もあそこへ行って食料を配ってくるつもりだ」
「えっ、明日ですか?」
「言いたいことは分かる、今日から3日間は国中お祭り騒ぎで俺の予定も詰まってるって言いたいんだろ?」
「はい・・・ですが止めるのはやめておきます。騎士団でシズが初めて配給に行ったあの日からスラムの人達の為に身を粉にして働いてきたのを知っていますから」
身を粉にって・・・仰々しい言い方をするなぁ。
「俺はただ、あそこで生きている人の役に少しでも立てればと・・・」
「えらいですね、シズは」
そう言ったユーリスは珍しく柔らかい表情ではにかんで俺の頭に手を伸ばす。
「おい・・・何を・・・」
そしてポンっと手をのせて優しく頭を撫でたのだ。
「よし、よし」
髪に触れられるのがこんなにこそばゆいなんて・・・
いやいや小さな子供じゃあるまいし、こんなんで俺が喜ぶとでも?しかし悪い気分ではないのも確か。待て待て、今年26になったそこそこいい歳の大人の男が年下の少女に頭を撫でられてちょっと上機嫌になってるのって普通に気持ち悪くないか?
・・・そしていつまで撫でてるつもりなの?ユーリスさん。
俺の頭をずっと撫で続けているユーリスの瞳はなぜか元の世界の亡き母親の眼差しに似たものを感じた。
・・・言っておくがバブみとかではない。
「あの~、ユーリスさん?そろそろ」
「私としたことがつい夢中になってしまいました、シズの髪はふわふわで気持ちがいいですね」
言葉ではそう言っていても手は頭の上でまだ動き続けているんだが?
「ストップ!ストップ!ほら!さっきの殺し屋うんぬんの話の続き聞かせてくれよ」
「・・・・・・分かりました」
なんだその名残惜しそうな目は、される方は割と恥ずかしかったりするんだぞ。
今度同じ目に合わせてやろうか、そんな度胸が俺にあるかは別として機会を窺っとくのはアリかもしれないな。
ユーリスが頭の上から手をひいて俺の正面の椅子に座りなおす。
「先ほどの話の続き、ですね」
「あ、ああ」
あのまま撫でられ続けているのが恥ずかしかったから話題を変えた、なんて言えない。
チクショウ!いつから俺はこんな初心な野郎になっちまったんだ。
こほん、と咳払いを一つしてユーリスは再び俺に話を続けてくれる。
「この国の裏と精通している貴族は少なからず存在しています。そういう人達ならば城の見取り図を取り引きすることも可能でしょう」
「闇商人との闇取引って訳か、そうなるとやっぱり大金が必要になったりするんだよな」
それか商人に非合法な見返りを求められるとか、俺の中の闇取引のイメージはそんな感じだ。
「一概にそうは言えないのです、特に城の内部の見取り図に関しては」
「ん?なんでだ?凄く価値のありそうな物なのに」
「価値は確かにあります、ですがそれは最新の見取り図の場合だけなのです」
「最新の見取り図?その言い方じゃまるで城の中が頻繁に変わっていってるみたいじゃないか」
「事実その通りなのです、シズ」
「いや、ユーリス何言って・・・」
建造物だぞ?部屋の配置やその位置が頻繁に変わる事なんてあり得ない、それが本当なのだとしたら毎日ひっきりなしに工事をしていなきゃおかしい。
実際、今城の中の一室でこうして会話をしている俺の耳にはユーリスの声しか聞こえていないし、けたたましい壁を削る音なんてこれっぽっちも耳に入ってこない。
まさか工事もしないで部屋を増やしたり場所を変えたりするなんて言わないよな?ないない、絶対ない。
誰もが知る有名アニメ映画の、ハオルの動く城の魔法じゃあるまいし。
・・・・・・・・・ん?・・・魔法?
一つの取っ掛かりがヒントになって、俺の頭の中にとある推測が浮かび上がる。
よく考えてみれば俺達の世界とは違ってこっちの世界には重機の一つもあるわけがないのに、俺の26年間の人生で蓄積された常識がこの世界では通用しないことをすっかり忘れていた。
つまるところ。
「魔法を使えばすぐに終わりますよ、それなりの優秀な人材が多数必要ですが」
さも当たり前のようにユーリスは言う。
って、やっぱり城の建築も改築も魔法で全部済ませてんのかーい!!
心の中で叫ばずにいられるか!途中で薄々気付いてたけどね!だって普通重機でもなきゃこんな立派な城作れないし!人の手でちまちま運ぶわけないし、だったら魔法使うよね!そっちの方が早いもの!
右手で顔を押さえて、前傾姿勢ぎみになる姿は傍から見れば異世界版、考える人かもしれない。だが知っていて欲しい、一見落ち着いているようで心の中はツッコミの嵐が巻き起こっているのだと。
「参考までに聞きたいんだがそれは具体的にどれくらいで終わるんだ・・・?」
「複数人で行う大規模な魔法ですので、大体10分から15分くらいでしょうか」
どんだけ便利なんだよ魔法、俺達の世界のガテン系お兄さん達が泣くぞそれ。
「ちなみに城の中を改変する周期は一定ではありません、前回の改変から5日後の時もあれば3日後の時もあります。その命令を出すのは殿下自身ですから気まぐれで翌日、ということも少なくはありません」
ユーリスが言った殿下というのは後輩ではなく女王の方なんだろう、後輩は気まぐれで大勢の人を動かすような自分勝手さは持っていない、なにより力関係が圧倒的に女王に傾いているからだ。女王の言葉にならあいつは盲目的に従うだろう。
「しかし気まぐれって・・・なんというはた迷惑なやつ」
呆れてため息をつく俺にユーリスが
「でも、悪い事だけではないのですよ。短い間に次々と内部の様子が変わっていく事で裏の人間は城の見取り図の作成が追い付かなくなるのです、結果両陛下の命が危険に晒されることも少なくなるのです」
「なるほどな、一応女王の気まぐれも自分の命を守る為に役立ってるって事か」
城内の改築、特別なことではなく日常的に行われている防犯措置みたいな認識でいいんだろうか。やっぱり一国の王ともなると自衛には甘えがないのが当然か。
―――いや、本当にそうか?何か引っかかる。
あの女王だぞ?我が強くてドSで保身という言葉自体を嫌っていそうなあの女が自分の命惜しさにそこまでするか?
俺の中にある女王のイメージとどうも重なり合わない。俺の知る女王ならば不敵な笑みを浮かべたまま、向かってくる敵に真正面から鉄槌を下し、扇を片手に高笑いしてそうなもんなんだが。
女王らしくないというのならあれか?前国王、つまりはあの女の父親の代から続く防衛方だったり?ユーリスに聞いてみたらわかるだろうか。
「シズ?何か考え事ですか」
「ん?あぁ、なぁユーリス城の構造を頻繁に変化させるのって昔からやってたことなのか?」
俺の問いにユーリスは少し困ったような顔をする。
「昔・・・ですか?アグリスト王国を建国したのは先代の国王様です、それ以上の昔は存在しないのですが・・・」
「すまない言い方が悪かったな、その先代国王の時の話だ」
この国の歴史はお世辞にも長いとは言えず先代国王であり初代国王でもある、トリステント・アーサース・アグリストが若くして建国した王政国家だと聞いた。
その時点で昔といっても数十年前の話なのだが、よくよく思い返してみるとユーリスの年齢は17歳、昔の事を聞いても知らない可能性だって十分ある。
「私が騎士になったのは12歳の時です、トリステント様はまだご存命でしたので幼いながらに謁見もさせて頂き城内にも出入りしていましたが、城の中の改変を行った事はありませんでした」
「それはつまり・・・」
続きを促す俺にユーリスは首を縦に振る。
「はい、構造の変化は現女王陛下であるリミュール様の代からです」
やっぱりそうなのか、でもなんでそんなことを始めたんだろうあの女王サマは。
いや、そんなことって言い方はないか。この国で最高権力を持ってるんだ自分の命を守ることも立派な仕事なのかもしれない。
「あの、シズ」
「どうしたユーリス?」
「いえ、さっきの質問はどういう意図だったのかと考えていたのです」
いきなり脈絡のない質問をしたから不思議に思ったのか。
「あーっとなんていうか、あの女王が城の中をいじくりまわすなんて回りくどいマネしてるのが引っかかったっていうか気になったっていうか、ほらあの女王の性格上向かってくる敵は正面から圧倒的な力で高笑いしながら叩き潰しそうだろ?むしろ自分の居城を何度も作り変えるなんて保身みたいな事あいつが一番嫌いそうじゃないか?」
「それはそう・・・かもですね」
俺の言葉を聞いて一言そう言った後、ユーリスは顎に細い指を添え何かを思考し始める。
その姿を見て俺は思ってしまう、なんて画になる姿だろう、と。
金髪碧眼で顔も整った美少女騎士が汚れ一つない純白の制服を着て椅子に浅く腰掛け、睫毛を伏せて一考している。
なぜこの世界にはスマホが存在しないのか、悔やまれる・・・やましい事なんて何もないただ美しいからこの瞬間をメモリに保存したいだけなのに。
え?犯罪?知らんなそんな言葉。せめて瞼に焼き付けておこう。
ユーリスが顔を上げるまでの少しの間、俺は二度あるか分からない今この時を懸命に、全集中を注ぎ込んで脳裏に焼き付けた。
「私は・・・ですね」
小さく口を開いたユーリスに俺の意識が向く。
「私はこう思うのです、陛下はご自身のお心を曲げてでも守らなければならないものがあるのだと」
「あの我の強い女王が・・・?」
ユーリスは頷く。
「そいつは一体なんだっていうんだ?」
「答えはきっとそう難しいことではないのです」
あの女王が何を守りたいのかユーリスはすぐには教えてくれない。これは俺に少し考えてみるよう促しているのか。
「う~ん・・・」
腕を組んで瞼を閉じて思案する。
一体なんだ?地位や名誉ではない気がする、あの女王の場合自分で汗水たらして守ろうとしなくてもそういうレッテルの方が後ろから勝手についてきそうだもんなぁ。わざわざ意地になって守る必要もなさそうだ。
だとしたら・・・
「あ、もしかしてアマナの為だったりする?」
目を開くと同時にユーリスへと聞いてみる。
アマナ・リニアル・ウォルハング、元の世界での職場の後輩であり今はこのアグリスト王国の国王。
あぁ、そういえば結婚して名前が変わったんだった。
今はアマナ・リニアル・アグリストか、言いにくいことこの上ないな。
「現国王のアマナ・・・様ですか」
ユーリスは一瞬だけ言い淀む、俺には分かるぞその気持ち。
これまで騎士団に所属している時はアマナと呼び捨てだったもんな、それがいきなり国王になってしまってそりゃあ慣れるまで時間がかかるさ。
俺の同情をよそにユーリスは言葉を続ける。
「アマナ様は・・・どうなのでしょう、リミュール様の守りたいものの中に含まれているか私には分かりかねます。どちらかというと守りたいもの、というより既に自分の物、という認識の方が正しい気もします。あれが愛というものなのでしょうか?」
やめて小首を傾げないで純粋な瞳で俺を見つめないで、今後の為にもユーリスにはしっかりと言っておかなければいけないようだ。
「いいかユーリス、あれは愛なんかじゃない。もっとドロドロしたものだ」
「ドロドロ・・・?アマナ様とリミュール様はドロドロ・・・」
何その昼ドラみたいな言い方!?
「シズ、分からないことがあります」
嫌な予感がする、純粋無垢な表情でとんでもない事を聞かれそうな気がする。
「・・・一応聞いてやろう」
一抹の不安が俺の中に渦巻いているがそんな事など知らないユーリスは、では、と前置きして
「ドロドロとは具体的にどういった関係を指すのですか?男女が互いに想いあうという意味ではないのですか?」
よりにもよって一番答えにくい質問を・・・くそう、完全に墓穴を掘った、言葉のチョイスを間違えた。
他意など全く感じない、純粋な疑問なのだろうが俺にどう答えろと。
『あのねユーリス君にこの話はまだ早すぎる』
と言った所で分かりました、と素直に身を引いてはくれないだろう。かといって
『あの二人は出会った時からご主人様とその犬のような関係で、主に肉体的にドロドロなんだよ』
ってそんな馬鹿正直に言えるか!男友達との下世話な会話でも憚られるわ!
どうするべきか、この話はユーリスにとってまだレベルが高すぎる。
俺の口からはとても・・・ん・・・?俺の・・・口から・・・
一つ、たった一つだけこの場を突破する方法を俺は思いついてしまった。
後日もしかすると俺は彼女に殴られるかもしれないし、騎士団の全ての敷地を巡り永遠と草むしりを強要されるかもしれない。まぁでも今から俺がしようとしている事を考えればそれは当然といえる罰だろう。つまるところこの状況の突破法とは
「よし、ユーリスその話は今度フィアナさんに聞くといい」
全ての責任を投げる事だった。
「団長に・・・ですか?」
「そうだ、きっとフィアナさんの方が俺よりうまく誤魔化・・・じゃなかった、上手く説明してくれるだろう。多分、おそらく、メイビー」
全ての騎士の模範たるフィアナさんなら、大人の女性であるフィアナさんならそれっぽい話にすり替えてユーリスが納得できる説明をしてくれるはずだ。
ごめんなさいフィアナさんほんとに、許してください。今度酒ならいくらでも奢りますから、いや奢らせてください。
「団長の方が上手く説明・・・という事は団長はドロドロの関係について詳しいのでしょうか?」
俺に聞かれても・・・いや初めに言ったのは俺なんだけどさ・・・
「そ、そうなんじゃないか?まぁ詳しいかどうかは本人に直接聞けば分かることだし、そんなことよりも結局あの女王の守りたいものがなんなのかそろそろ教えてくれよ、考えてはみたが俺にはさっぱりなんだ」
強引な話題の転換先に選んだのはさっき答えが出なかった女王の話。
「そうですね、団長へは後で確認しに行くとしましょう」
ここでやっぱり行かないでくれ!と言えたらどんなにいい事か、チキン野郎な俺を許してくれフィアナさん。
「そしてリミュール様の事ですが」
「お、とうとうきたか」
嗜虐心の化身の様な苛烈で加虐な女王様、そんな一人の人間の守りたいもの、言い換えれば大事なものがなんなのか素直に興味が湧いていた。
だがそんな俺にユーリスが放った言葉は、あぁそうかそうだよな。と頷いてしまうくらい当然で、だけど同時に再びあの疑問を抱かせるものだった。
「あのお方がご自身の在り方を曲げてまでも守りたいものは多分、この国と全ての国民なのだと思います」
「・・・この国と全ての国民・・・か」
例えあんな性格でも、この国の発展とそこに住まう民達の幸せを願う、上に立つ者としては真っ当な思いを持つ王様なんだろうな。あんな性格だけど。
「はい、リミュール様の志は気高く前国王トリステント様のご意志を継いでおられます」
俺の目を真っ直ぐ見て迷いなくハッキリとそう言ってみせる。
まさかあの女王に対するユーリスの評価がここまで高いとは、一国の王と騎士という身分の違いから出る表面だけの言葉じゃなく心の底からそう思っているという、尊敬や畏敬の念を感じる。
もしかしたらこの二人には俺の知らない繋がりみたいなものがあるんだろうか、あっても不思議ではないか、5年前の時点でユーリスは前国王に謁見していたらしいし、その娘であるリミュール女王と面識があってもおかしくない。
「でもまぁ前の王様が突然亡くなっちまってからもこの国は崩壊することなく機能してる、それも女王サマの手腕あってのものか」
「はい、その聡明さもさることながら一目見ただけで人々が釘付けになる容姿と堂々たる王の振る舞いで民を引き付けるのがリミュール様です」
そう話すユーリスは徐々に前のめりになってくる、これはあれだな自分の好きな物を布教するときの状態だな。
こころなしか目を輝かせて楽しそうにも見える、ユーリスが女王に抱いているのは尊敬だとか畏敬だと思っていたが、いやそれももちろんありはするんだろうが。
もっと簡単な言葉で表すなら、憧れかもな。
いつもは無表情なユーリス、逆に女王は楽しければ笑い不機嫌な時はつまらんと一蹴する。その違いに思う所があったのかもしれない。まぁあくまで私見で本当の所は分からんのだが。
しかしそう思ってみると俺はユーリスの前で散々不敬な物言いをしてきたことになる、今は大丈夫そうだが後で怒られたりしないだろうか。心配だ。
そんな俺の胸中にあるのは心配と同じ大きさの疑問だった。
女王の守りたいもの、大事な物が自身の治める国とそこに住まう人々なのは分かった。それを聞いて再び疑問に思ったのはこの会話の一番初め、話しを始めるきっかけとなったものだ。
「それでさ、ユーリス」
「なんでしょう」
「結局、どうしてこの城改装に改装を重ねてんの?」
女王様の話ばっかりしてるけど肝心の本人はまだちゃんと登場すらしていない。待っててくれもう少しだ、たぶん。




