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一等星が瞬く頃には。

作者: 爆裂☆流星

また短編書いてみました。

やっぱり情景描写がまだまだだなと感じさせられました。

拙い文章ですがどうか最後までご覧ください

流星が、流れる。

一等星が、瞬く。

隣に誰かいる。こっちを見て優しく、儚く、ほほ笑む。



「はあっ!」


勢いよく目を覚ます。頬には涙がつたい、汗をびっしょりとかいている。


「またこの夢か……」


最近このような夢をよく見る。しかも起きた直後なのに、もう内容をよく思い出せない。とてつもない喪失感に苛まれながら僕は体を起こす。カーテンの隙間からは初夏の清々しい朝日が差し込んでいた。

朝食のパンをくわえながらテレビの電源を入れる。甘すぎるバターの風味が口に広がった。時刻は8:27を示している。


「今日の運勢が最高なのはおおいぬ座のあなた!!ラッキーアイテムは――」


テレビから聞こえてくる朝っぱらからわざとらしいほどに元気なアナウンサーの声に耳を傾けながら着替える。

まだ慣れない手つきでネクタイを締め、カバンを肩にかけてドアを開ける。

眼前には日本の中心である大都会が広がっている。高層ビルが建ち並び、窓ガラスは水彩絵の具で塗ったかのように様々な色彩で彩られている。

僕は春から働き始めた新社会人だ。自分が育った田舎からは出ていく、と決めていて都会で仕事を探し、

なんとか働き始めた。大学も地元のところに通っていたため一人暮らしは初めてだ。

まだまだ慣れない新生活に不安と期待が胸を駆け巡る。


――東京。

人が激しく交差するように忙しなく行きかっている。見上げても足らないほどのビルの山。この国にはこれほどに大量の人間が住んでいたのか、といまでも驚かされる。朝のまどろみを感じることすらままならないほどにこの街には人が溢れている。人ごみの雑踏に流されながら通勤電車に乗る。扉が開いた瞬間に多くの人々が外へ吐き出され、さらに多くの人間が電車に飲み込まれていく。

そんな忙しない大都会の夏をよそに僕の胸には何かモヤモヤしたものが残っていた。



「ではお先に失礼します」


一通りのノルマと残業の終え、僕は会社を後にした。帰りは歩いて帰るという風に決めている。光に染まった街を見渡しながら、なぜか孤独感が頭をよぎる。

わざとらしいほどに煌めく夜景。人のざわめきや車の走る音さえも全身に染みるように響いてくる。

聖夜かと見間違うほどに輝いている街並みを見て胸が締め付けられる。このままでいいのだろうか。夏の夜空を見上げ、ふっと息を吐くがその大きなキャンバスには輝く星ひとつすら見つからなかった。



「疲れた……」


風呂に入り、夕食を食べたらすぐにべッドへ死んだように倒れこむ。こんな日々が東京にきてから約三か月続いている。不満があるのかと聞かれれば、そうじゃない。こうして一生懸命働けることが幸せだと分かっているからだ。しかし、満足しているわけでもない。僕は何も成し遂げられていないんじゃないのか、誰の役にも立てていないんじゃないのか。そんな答えの見つからないことを考えているうちに深い眠りについていた。



「ねぇ、知ってる?流れ星に三回お願いが言えたら、そのお願いが叶うんだって」


少女が言う。


「……星也せいや君はさ、何をお願いしたの?」


そこで、目が覚めた。

まただ。またあの夢を見た。あの少女は誰なのか、そして流れ星……。

ダメだ。全く思い出せない。さっきまで僕を包んでいたやさしいような悲しいような雰囲気は、僕を置いて跡形も余韻も残さず消えてしまった。朝食のご飯をかきこみながらテレビの電源を入れる。

時刻は8:56を示している。……ん?


「――今日も元気にいってらっしゃい!!」


女性アナウンサーが元気よく手を振りながら言う。

いつもの『今日の運勢』はとっくに終わり、番組自体が終わるところだった。


「完全に遅刻だ!!」


ろくにネクタイも締めずにあわてて家を飛び出す。

久しぶりの全力疾走で駅に向かい、普段よりも3,4線分遅い電車に乗る。



「では、失礼します。ホントにすいませんでした」


コツコツと家へ向けて歩きながら「はぁ」とどんよりとした溜息を数回吐き出す。

完全にやらかした。普段から何かとつけては僕に文句を言ってくるバカ上司にも今日ばかりは反論の余地すらなかった。社会人が遅刻って……。学生の頃はしょっちゅうだったが、やはり今は立場と責任が違う。

うつむいて人波を避けるように歩く。こうしていると世界に一人残されたような、そんな悲劇のヒーロー的な気分にさえなる。相変わらずの妄想力に自分で失笑しながら、また人ごみに紛れた。

ふと、弾かれたように振り向く。今、すれ違った。誰と?分からない。

僕の脳みそが高速でひとりでにQ&Aを繰り広げ、気づいたら声が出ていた。


「あの――!!」


しかし僕なんかのちっぽけな声は東京の広大な騒音の海に飲み込まれた。悲痛な叫びはビルを反響して空虚な空に届き、消える。手を伸ばしてつかもうとするが、あっけなくくうを切った。

何してんだ、僕。きっと疲れてるんだ。今日は早めに寝よう、と決心しまた歩き始めた。



「なんだこれ?」


僕の住んでいるアパートの部屋の前に大きいダンボールが置かれている。ガムテープをはがし、中をのぞく。そこには野菜や服、白米などの生活必需品が大量に入っていた。おそらく母からの仕送りだろう。

それにしてもずいぶん雑な仕事をするな、運送業者よ。


その日は風呂上りに仕送りを整理してから眠ることにした。僕の大好きなぬか漬けやにくじゃがなどの母特製料理がびっしり入っている。ふと、見ると隅にアルバムが一つ挟まっている。取り出してパラパラとめくると、そこには幼いころの僕と父母の姿があった。父が写真家だったこともあり、小さいころから成長日記としてことあるごとに写真を撮ってもらっていた。しかし、作り笑いというものが苦手であるためほとんどの写真が真顔にピースである。懐かしいと思いながら引き続きめくっていくと、最後のページで手が止まった。そこには満面の笑みを浮かべる僕と、あの夢の少女がいた。


「どうゆうことだ……?」


必死に思い出す。何か大切なものを穴の底に落としてしまった、そんな不安感と後悔に苛まれる。

頭をかかえ、記憶を掘り下げていくが心当たりが全くない。時刻は既に日付をまたいでいる。

一日の疲れが睡魔へと化けて襲い掛かってくる。思考が回らなくなり、そのまま机に突っ伏すように崩れ落ちた。朦朧とする意識の中で何かをつかみ取った、そんなような気がした。



――僕は田舎に生まれた。ド田舎と呼ばれるほどのものでは無いが、僕は幼いころから無性に都会に憧れていた。そんな僕の価値観を変える出来事が小6の夏に起きる。

もともと人付き合いが苦手だった僕は少ないクラスメイトの中でも一人孤立していた。いじめ、というわけでは無いが友達と呼べる存在がいなかった。


「今日は転校生を紹介します。はい、自己紹介して」


「東京から来ました、星野結月ほしのゆづきです」


担任に促され自己紹介した少女は小さい声だったが、確かに『東京』と言ったのだ。

憧れていた街から来た少女、それだけで無気力な僕から興味を引き出すには十分だった。


「東京ってどんなところなんだ?」


休み時間になり彼女、星野に気になることを聞きに行った。周りからは「うわ、行った」だの「一目惚れしたんじゃね」だの聞こえてくるが何も気にしない。ただ星野を見つめて応答を待った。


「東京は……、あの街では星が見えないの」


微妙にかみ合っていないような会話。しかし星野は本当に悲しそうな目をしていた。

僕の興味は『東京から来た少女』ではなく『星野結月』という少女へと移り変わった。

僕たちはきっと似た者同士だった。人と深く関わるのが苦手で、大人数でワイワイと遊ぶよりも、誰か一人と何かについてじっくり話したい、そんなタイプだった。

だから自然と仲良くなったし、惹かれあったのだと、そう思う。

僕は当時、学校からは南に位置する一軒家に住んでいて、結月は北側にあるアパートの一室に住んでいた。

反対側だけれど毎日交代制で一緒に帰っていた。今思うと、男の僕が毎日行けばよかったと思うが、当時の二人はあまりに幼すぎた。

よくクラスメイトにからかわれたり、お互いの家族から急かされたりしたけれど、僕たちは友達という一線を越えることは無かった。しかし、『恋』と呼ぶにはまだ弱すぎる感情をお互いに持ち合わせていることは心の片隅で確信していた。

放課後はお互いの家に行き、他愛ない話を繰り広げた。昨日のテレビがどうのこうのとか、今日の宿題がどうのこうのとか。その中で結月は星に関する話を幾度となく語っていた。


「あのね、これがデネブ、アルタイル、ベガ。三つを結んだのが夏の大三角」


「へぇ、きれいだね」


「ちゃんと聞いてないでしょ!!」


正直当時僕はあまり星に興味など無かった。ただこうしてだれかと、いや結月と知識を交換することがどうしようもなくうれしくて、楽しかったのだ。

ずっとこうしていられると、そう本気で思っていた。

このまま一緒の中学に行って、高校にいって……。でも僕のちっぽけな理想はいとも簡単に崩れ落ちることとなる。


冬。結月が転校してきてからまもなく半年が過ぎようとしていた。空気は乾燥し、肌に刺さるような冷気が漂っていた。

その日は二学期の終業式の日で授業が無く、いつもよりはやく帰りの学活が始まった。

学期末特有の大量の配りものが終わり、先生の話になったとき結月が何故か教壇に

呼び出された。クラスが少しざわめき、僕の胸もざわめく。そんな中、結月はうつむいたまま口を開いた。


「父の仕事の関係で東京に戻ることになりました。半年間だけど仲良くしてくれてありがとうございました」


そう言った結月は深々と頭を下げ、自分の席に戻った。

嘘だ。僕は重過ぎる事実を、あっけなさすぎる別れを受け入れられなかった。

しかも、「仲良くしてくれて」……?この半年で結月と仲良くなったのははっきり言って僕だけだ。

僕には訳が分からなかった。どうすればいいのか。結月と一緒なら中学だって高校だって、どんなことも乗り越えていける、そう思っていた。幼かった僕は裏切られたと、深く傷ついた。

なんの相談も前触れもなく知った別れに向き合うことができなかった。

その日はいつも二人で笑いながら帰る道を一人で帰った。結月は何か言いたげだったが、僕の方に来ることはなかった。

床に荷物を投げ出し、ベッドに倒れこんだ。溢れる思いと涙をかみ殺し、壁をおもいきり殴った。大きな音がし、そのあとに拳が熱くなった。己の無力さに一層心が陰った。

このままもう会うことはできないと本気で思っていた。だから、母から「結月ちゃんから電話よ」と言われた時は喜びよりも困惑が先に脳を駆け抜けた。受話器を耳に当てると覇気の無い声が聞こえてきた。


「ごめんね。急だったから……」


「別に。謝らなくてもいいよ……」


「明日の午後にはもう出発だから……その……」


「なんなんだよ!!」


煮え切らない結月としょうがないと思ってあげられない自分に対しイラついて声を荒げてしまった。


「…だから最後に星也君と星を見たいなって……」


嗚咽を押し殺したような声が聞こえ、僕は耐えられなくなってしまった。


「今日の七時、裏山の山頂で待ってるから――!!」


がチャン!!!

結月の言葉を最後まで聞くことなく僕は受話器を強く地面に叩きつけていた。ツーツーという不通音が僕を焦らせる。取り返しのつかないことをしてしまった、そんな罪悪感からまだ五時だというのに布団を頭までかぶり、目を閉じた。目が覚めれば全部終わっている、そんな縋るような気持ちで強く強く目を閉じた。

しかし、この半年のことがグルグルと頭を駆け巡る。初めてできた友達。異性であることも相まって強く意識してしまい、寝られない夜もあった。互いに必要としているし、支えとしているからこそ、こんな別れ方をするべきではないのだ。我慢していた涙が決壊したダムのようにあふれ出る。ひたすらに泣いて泣いて泣きまくった。


目が覚めるともう辺りは完全に日が暮れていた。

泣き疲れたのかいつのまにか寝てしまっていた。壁掛け時計は8:07を指している。体を起こし立ち上がるが、うまく足に力が入らずに倒れてしまった。ふとベッドの下を見ると、一枚の写真が落ちていた。満面の笑顔の僕と小さくピースをする結月。また悲しみがこみあげてきて気づいた時にはもう、走り出していた。


「はぁはぁ……」


勢いよく家の裏にある山を山頂まで駆け抜けた。結月との約束の場所だ。もう時間を一時間以上過ぎているためいるはずは無い。けれどここに来ないわけには行けなかった。もしかしたら、ひょっとしたら、そんな確証のない気持ちだけが今の僕を強く突き動かしている。

うつむいたまま歩いて行った先に僕は彼女を見つけた。


「何やってんだよ……」


「何って……星を見てたの」


彼女はあおむけで寝ころんだまま、答えた。


「こんな時間まで一人で?」


「うん、しかも君は来てくれた」


「それはそうだけど……。待ってたのか?」


「そうでもあるし、そうじゃない」


「なんだよそれ……。全然わかんないじゃん」


「うふふ――」


「はっはっは――」


何がそんなおかしかったのか覚えてないが、二人して冬の空の下でお腹を抱えて笑いあった。

その日はたしか二人で寝ころんで夜通しいつものように他愛ない話に花を咲かせた。


「ねぇ、知ってる?流れ星に三回お願いが言えたら、そのお願いが叶うんだって」


「なにそれ。絶対デマじゃん」


「そうかなぁ?私はホントだと思うけど」


「あっ流星!!」


少しの間沈黙する。満天の星が僕らを照らしている。本当に吸い込まれてしまいそうなほどに圧巻だった。

ずっとうつむいて下ばかり見て生きてきた僕にとってこれ以上の絶景は見たことが無かった。

息を吸って、吐いて。星々の輝きの一部になれたような爽快さがそこにはあった。


「……星也せいや君はさ、何をお願いしたの?」


「別に。何も頼んでなかった。結月は?」


「私はね、いつまでも照らし続けてくれますようにって」


「どういうことだよ」


「あそこを見て」


結月が指をさす先には無限に広がる空の中でも一際目立った星があった。


「あれは『シリウス』っていう一等星。地球から見える星で一番明るいんだって」


「それがどうしたの?」


「だからいつでも照らしてくれてるの。朝も夜も、夏も冬も、私も君も」


「じゃあお願いしなくてもいいじゃん」


「それはそうなんだけど……。なんとなく願っちゃった!」


舌を出しわざとらしく笑う結月を横目に僕は願ったことを思い出す。

しかし、それを口に出すと多分泣いてしまう。本当に心からのお願いだからこそ叶わないということが分かりきっている。

『結月に残ってほしい』。こんなことをいまだに願ってしまうのはしょうがないことだと思う。

どこまでも広がっている星空の下で自分がどれほどちっぽけな存在なのかを知らしめられる。


「明日の見送り来ないでね」


結月から衝撃的な一言が発せられる。戸惑って「なんで?」と小さく聞いた。


「だって……だって多分会っちゃったら行きたくなくなっちゃうから‼」


今にも泣き出してしまいそうで弱々しい声から結月が感極まっていることが分かる。

僕も涙が溢れてきて我慢できなくなる。さっきまで笑いあっていた空間に今は泣き声だけがこだまする。




「本当にお見送り行かなくていいの?」


「しつこいなぁ。もういいんだよ」


母にそう言いながら晴れ上がっている空を見た。そこには昼だというのに光輝く一等星があった。



「はぁはぁ、またこの夢か」


過去の記憶?分からない。

もうよく内容が思い出せない。




十二月。

聖夜だなんだと世間は騒いでいるが相変わらず俺はバカ上司のいる会社に通勤している。

なんとかうまくやっていけてるとは思うが心にぽっかりと穴が空いてしまったような感覚がある。

さらに、夏くらいから時折見る奇妙な夢がある。過去にあったことを見ているような気がするが目覚めると、すぐに消えてしまう。ひどく長い間見ていたような気もするが、一瞬だったような気もする。

そんなポエムめいたことを考えながら今日も駅に向かう。

ふと弾かれたように振り向く。そこには彼女がいる。名前も分からないのに『彼女』だと確信している。


「あのーー‼」


彼女は振り向かない。僕は人波をかき分けて進む。

やっと追い付き手を伸ばす。

彼女の肩に。




今日も冬の空にはあの日と同じ、一等星が瞬いている。









気に入ってくださいましたら是非感想、ブックマーク、評価お願いします。

私の他の作品も読んでいただけたらさらに楽しめるかなと思います。

では、失礼します。

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