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碧き舞い花//並行譚  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
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「さっきも言ったがな、空気はどこにでもある。まあ一部の世界では空気のない場所もあるが、そういったところを除けば、異空間にだって存在している。それが空気というものだ。それがどういうことかわかるか?」

「知るかっ!……ぐっ」斬り掛かろうとしたズィーは熱を持った空気に岩に磔にされた。「……くそぉっ…………」

「そのまま聞け。いいか、外在力の真髄、それは世界を纏うということだ」

「……世界……を、纏う?」

「ようやく聞く気になったか。そうだ。今の俺を見ろ。熱気と炎を纏い、使役している。この世界の空気を纏うことで、この世界の力をその身に宿せる。各々の世界にはその世界特有の空気がある。例えばホワッグマーラならば、魔素を纏うことになるだろう。それだけでマカを使うことはできないだろうが、『太古の法』というものがあるだろう? あれに似たことはできるんじゃないか?」

「マジか……」

 ズィーの頭に浮かぶの魔導世界の友人フェズルシィ・クロガテラーだ。ホワッグマーラに愛されし者。天才魔闘士。口にはしないが本気の彼には敵わないだろうとズィーは思っていた。彼が知る中で最強の友。セラが言うところのエァンダのような存在だった。

「まあしかし、それは空気を思うがままに操れるようになれば同じことだろうがな。やはり、見た目にもわかるうえに空気だけでは成し得ない付加価値を与えてくれるのはこの世界のような、自然現象が濃い世界だな」

 大地が上下に揺れ出す。地鳴りを伴って。

 ンベリカは気にせずに続ける。

「残念なのは、その世界に行かなければ空気を纏えないということだ。もうしばらく評議会にいられれば、ドクター・クュンゼをはじめとした研究者たちが様々な世界の空気を持ち歩ける方法を開発してくれそうだったがな。こればっかりは仕方ない」

 ふっとズィーにかかる空気の圧がなくなった。

「さあ、教えてやったぞ真髄を。あとは冥土へ送るだけだ」

 揺れが強まる。地鳴りも大きくなっているようだった。

「大きな噴火が来そうだな。それまでに終わらせるとしよう」

 ンベリカに纏わる炎が唸る。

「まあ、噴火すればこの世界を纏う俺と、ただ空気を纏うお前の結果がどうなるかは言うまでもないがな」

「俺にはナパードがあるぜ? 今のまま動けないようにしてた方が確実に殺せただろーぜ」

「それではお前の言うケリがつかんだろ。この手でやらねばな」

「ケリをつけんのは俺だけどなっ!」

 ズィーが駆け出した。その時だった。

 ぐわんと火山が動いた。

 あまりの揺れにズィーはつんのめり、四つん這いになった。そこに巨大な影が落ちた。

 盛大に噴き上がった溶岩。ズィー目がけて飛んでくる灼熱の岩石。

「っ!」

 降りかかってきた岩石にズィーは、這ったまま空気を飛ばした。

 岩石は砕け散った。

 しかし、その背後に巨大な手の平のような溶岩が控えていた。

「マ、ジかっ……ふぁっ!……っなっ!?」

 もう一度空気を放とうとしたズィーの前に、ンベリカが立ち塞がった。

「ぐうぅ……」

「おい、なにをっ!」

 両腕を広げ、背中で溶岩の平手打ちを受け止めるンベリカ。

「ズィプ、外在力の真髄、ちゃんと、理解、したか……?」

「はぁ?」

「理解っ、したのか!……聞いている!」

 ズィーは鼻に焼ける臭いを感じた。それがンベリカの背中が燃やされて発生しているのだと気づくのに時間はいらない。

「ンベリカ、お前空気……炎、纏ってんじゃねえのかよ……っ! 熱さ、感じてなかったじゃなえーか、なのに、なんで……!?」

「ああ、それを言えるのなら、それなりに理解は、したんだな……。そう、だな、これもちゃんと伝えて、おかないとだな……いいか、ズィプ」

 ズィーは表情が明らかにズィーの知るンベリカに、師匠であったンベリカになったことに動揺した。だがすぐに、勘が、なにかを悟らせた。言葉にはできなかったが、確実に悟った。

「くそっ!」

 ズィーはンベリカに触れ、跳んだ。スウィ・フォリクァへ帰った。

 牢屋の瓦礫の傍らに、ンベリカは倒れた。未だに炎を纏っている。ズィーはすぐに彼の傍らに膝をつき、どうにかしようと考える。だが彼には人を治療できる術はない。すぐに避難所となっている訓練棟に跳ぼうと炎を恐れずにンベリカに触れる。炎のほうが意思を持って彼の手を避けた。

「跳ぶなっ、身体に障る……最後まで、伝えたい……弟子のお前に、ちゃんと残す」

「…………」ズィーはンベリカから手を離し、地面を殴った。そしてやりきれない想いと共に頷く。「わかったっ……」

「いいか……世界を纏えば、力を宿せるだけじゃなく、その世界の、環境に充分適応できるように、なる……が、護られるわけじゃない……いい、例を見せただろ?」

「そんなの見せてくれなくてよかった……」

「お前は見た方が覚える……お前が、あの世界に跳んでくれてよかった。お前にもわかるように、真髄を可視化、できた……」

「なんで戦った。そんなことしなくても、教えられた!」

「ケリ、を、つけたかったん、だろ?」

 ズィーはンベリカから目を逸らす。「……っ」

「ああ、あと、もう一つ……その世界に行かなければ、纏えないと言ったが、纏った空気は、一定の間、他の世界へ移動しても、保てる」

 ンベリカは炎を操って見せた。弱々しく。その炎が牢屋の瓦礫に燃え移った。

「それと、外在力を心得ている者へなら、伝播させることができる」

 ンベリカが震えながら、ズィーの腕を握った。すると、彼からズィーへと炎を含んだ熱気が移る。

「その感覚が、世界を纏っている感覚だ。お前なら、一度で……覚えられるだろう?……さあ、こんなところで立ち止まってる場合じゃないぞ、評議会の、異空のために戦え。これが『空纏の司祭』ンベリカの、弟子への、最後の教え……命令だ……ズィプ、我が最後の弟子」

「……話は、それで終わりか! じゃあ、跳ぶ!」

 ズィーが師に触れようとした途端、彼の身体は空気の柔らかく吹き飛ばされた。

「おいっ、ンベリカぁ!」

 離れていく師の姿は、今しがた彼自身が火をつけ、大きくなりはじめていた瓦礫の炎の中に消えていく。最後に、ンベリカはズィーに笑みを向けていた。

「お前は師を殺してなどいないぞ、ズィプ。俺は、戦火の犠牲となったに過ぎない。重荷は背負うなよ……」

 バフッっと、突如勢いよく燃え盛った炎をンベリカを飲み込んだ。その姿はズィーの紅には、確認できなくなった。

 強く口を結んで、燃える瓦礫を見つめるズィー。潤んだ瞳を閉じ、また開くと潤みは強い意思へと変わった。

「重荷?……んなの背負わねぇよ……けど、しっかり受け取った、あんたの想い」

 ズィーは纏う空気を、引き継いだ炎を、唸らせた。

「あんたは偉大な賢者だ。これからもな」

 火炎に消えた師を背に、ンベリカは戦場へと向かった。

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