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「くそっ」
「どうした、そんなものか『紅蓮騎士』は。それでは護れるものも護れないぞ! 人に偉そうなこと言ったのはどこの誰だ?」
「うるせぇっ!」
ズィーが剣から放った空気の刃。ンベリカは空気を纏ったその手で受け止め、握り砕く。
「竜の腕力も大したことないな。その程度、外在力でも充分出せるぞっ!」
体勢低く、ンベリカがズィーの懐に入った。拳が振り上げられる。
「ぐ……ぁぁっ」
貫かれるような衝撃、そして破裂するような衝撃をズィーの腹を襲った。殴打された腹部より、背中の方が強く痛んだ。
「まだまだぁ!」
「……っまっだまだぁぁあ!」
ンベリカとズィーの声が重なった。一人は追撃、一人は反撃の動作に移っている。
「ふんぬぅっ!」
ズィーが反撃より先に塞いだ。顔の横から迫っていた拳に、拳を打ち合わせた。そうして弾き返すと、スヴァニを振り上げる。
「ぅるりゃあ!」
空気が乗る。
剣での攻撃というよりは、空気を放つのがズィーの目的だった。斬撃は躱されたが、ンベリカの身体は空気の壁に押し飛ばされた。が、その身体が空中で止まり、そのまま浮き続ける。
「それも外在力で、できんのか……それにさっきの、パンチも」
「その勘にはさすがに敵わないな」ンベリカは七色の薄光を背に鼻で笑う。そして首を僅かに傾げて問う。「お前は鍵の力でここまで来れるだろう? それとも俺が手伝ってやろうか?」
「なに?」
ンベリカがひょいと人差し指を自身の方へ小さく振った。すると、風鳴りがズィーの背後から迫ってきた。ズィーがそれに気付いたときにはもう遅かった。さっきンベリカが飛んだよりも速く、ズィーの身体が吹き飛ぶ。
迫るのは拳を構えたンベリカ。ズィーは体勢も立て直せずに、殴られ、建物に向かって落ちた。
大きな音と土煙を立てた建物の瓦礫の中、ズィーは顔を出す。圧し掛かっていた柱やなんやを払い除け、その上に立つとンベリカを探す。彼はそもそも気配を読むことを得意としないが、それでも空気を肌や耳や鼻でで感じることはできた。
しかし、見失っていた。呼吸すら感じ取れない。
そんなはずは、そう思ったズィーの横。建物の壁を破ってンベリカが突撃してきた。そのままズィーは首を掴まれ、瓦礫の山から強制的に離されると、地面で馬乗りになられた。
「お前はセラのように自分だけが跳ぶというナパードはできない。勝負あったなズィプ!」
「……勝手に、決めんなよ!」
ズィーは紅き花を散らしてその場から跳んだ。ンベリカも伴って。
彼が跳んだ先は、活気あふれる火山たちが群がる世界。今も彼らの登場に合わせるように火山が噴火したところだった。
『ゴォル・デュオン』。
ズィーが一番に思いついた過酷な環境の地。付け焼刃だが、状況を変えたかった。
しかしこれが悪手だったと、ズィーは後悔することになった。
まさか共に跳ぶことになるとは思っていなかったのか、隙のできたンベリカを蹴飛ばしたズィー。立ち上がり、ンベリカに目を向けるとそこには炎と熱気を従えたンベリカの姿があった。
遠く、噴煙で、火山雷が不吉に、低く唸るように鳴った。