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「ズィプは……ンベリカの方に行ったみたいだね」
「あいつが一番近しいからな。好きにさせればいい。俺たちはあっちだ」
エァンダはサパルと共に大きな穴を背にする居住区に目を向ける。
サパルが納得した声を洩らす。「関所を通らないのはあれのせいか……」
「だろうな。閉められるか、サパル」
「そうだな……僕たち二人、本調子じゃない者同士じゃ時間がかかる」
「エレ・ナパス保持してもらってるからお前が力出せないのを責める気はないけどなぁ、俺はもう完全復活してんだよ」
「嘘吐くなよ。右手に力、どれだけ取られてる。ここに来る前、まだ足手まといになるかもしれないって考えてたん――」
「あーあー、ないない」エァンダは包帯の巻かれた右手を大袈裟に振る。それから真剣な光を帯びたエメラルドを友に向けた。「平気だよ、サパル」
「エァン……」サパルは溜め息交じりに友を呼んでからふっと笑みを浮かべた。「まあ、僕もこの状態で戦いに来てるわけだしな、お互い様か」
「行くぞ」エァンダはタシェを抜いた。「とりあえず穴を目指す。閉じられなかったとしても、敵を止めることはできる」
「だな」
「っと、その前に、サパル」
「なんだ?」
「髪、まとめるもん持ってないか? ばらけてると重心が小刻みにぶれて困る。一本にしたい」
「切ればいいだろ」
「切り落とした髪が悪魔になったらどうするんだよ」
「そんな馬鹿なこと…………わかった」
サパルは鍵束から一本の鍵をもぎ取って、エァンダの後頭部に向けて回した。すると多くの支流に分かれていたエァンダの流水のような髪が、螺旋状の金輪で一本に括られ大河となった。
「重くないか?」
「問題ない。助かる」
互いに心配し合っていた二人とは思えない。圧倒的だった。
エァンダとサパルは大勢の黒の雑兵たちをあっけなく蹴散らし、大穴の前まで辿り着いた。
エァンダは肩を竦めた。「『夜霧』ってのは本当に異空の脅威なのか?」
「強い戦士をケン・セイさんたちが相手してるからだろ」
「言われなくてもわかってる、冗談だ」
「だろうね。でもふざけてられるのもここまでだ」
「それも言われなくてもわかってる」
重みのある口調で、目も真剣そのもの。エァンダは黒き穴から出てきた全身を鋼で着飾った敵に向かってタェシェを構えた。
「援護、頼んだぞ」
「もちろん」