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碧き舞い花//並行譚  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
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『夜霧』の襲撃当初から続く戦いがあった。

 あまりに拮抗した戦い。

 ケン・セイとコクスーリャ。闘気を極めし二人が相手にするのは、闘気を極めし者だった。

「やはり、お前、許すべきではなかった。コクス」

「そんなこと言いながらも楽しんでるじゃないですか、ケン・セイさん」

「ふんっ。もちろん」ケン・セイは鋭く口角を上げる。「お前もだ」

「あなたほどじゃないですよ」

 謙遜的に言うコクスもまた口角を上げている。

「楽しむ……理解不能です」

 相反して二人の敵は無表情。さっきから表情がなかった。

 コクスーリャに代わり第五部隊の長となった機脳(きのう)生命体ムェイ。

 ドクター・クュンゼの異空の怪物のような、人造の生命体。

『夜霧』第三部隊の研究により生まれた、機脳。それを別の研究として開発された生体に限りなく近づけられた機械の肉体、機巧に搭載したものだった。

 機脳は驚異的な学習能力や計算力、判断力を有している。その能力でコクスーリャが『夜霧』へと伝えた闘気の技術を体得し、さらには生身の人間であり本家である二人を相手に劣らない動きを披露しているのだった。

「そこを理解できないんじゃ、俺の後釜には早すぎるな、ムェイ」

「コクスーリャさん、あなたは間違っています。わたしはあなたよりも成果を上げています。この短期間で多くの上等な兵士を送り出しました。わたしのほうがあなたより、優れています」

「俺とお前では、目指した成果が違うだろ」

「話はいい。楽しむ!」

 ケン・セイは二人の会話を許さない。

 ケン・セイとムェイが拳をぶつける。そこから鏡のように身を翻し、上段の蹴りを交える。そこからも鏡の打ち合いが続き、二人は示し合わせたように駿馬で距離をとった。

 ムェイはケン・セイの動きを完全に模倣していた。戦いはじめこそ特定の誰のものでもない動作だったが、戦いの中で確実にケン・セイの動きになっていた。

 それだけではない。コクスーリャの動きも、完全に把握している。

 ケン・セイと変わり攻め込んだコクスーリャとも同じように動き、決着を見ない。

「あれ、いい鍛錬道具になる。俺の不得手、見えてくる。学べる」

「道具じゃないですよ。せめて鍛錬相手と言ってあげてください」

「どうでもいい」

 駿馬でムェイに近づくケン・セイ。その鋭い蹴りで左腕を狙う。

「その腕はいらない」

 より自分へと近づけるためか、コクスーリャはさすがに呆れながらも加勢する。一対一では生身であるこちらがじり貧だ。

 とはいえ二人でかかっても、ムェイはなかなか隙を見せないからこそ、ここまで手をこまねいているのだ。なにかしら、それも大きな変化が起きなければ打開しないだろう。探偵は思考しながら戦い続ける。

 だがこの戦いに無理に決着を見ようとする必要はない。この戦争に終止符が打たれればそれでいいのだ。

 少し前、光の糸が空を走り、居住区の向こうに見える大穴に差し込んだ。それから少しして光の糸は綱となり、穴を塞ぎはじめた。

 あの穴が塞がれば今のような無限のように思える増援は止まるだろう。

 評議会側に増援が来ているのも感じ取れる。

 ロープスではなく鍵を使い穴を空けての進攻を選んだ以上、鍵ではなければいけない理由がある。それは定かではないが、現在もロープスを使っての増援の気配がない。今後もそうだとすれば、数が増えるのはこちら側。

 天秤はこちらに傾き、敵は殲滅されるのを待つか退却かを選ぶことになるだろう。それがこの戦争の終焉だ。

 確かに倒すことが最善ではあるが、戦争が終わるまでの間、目の前の機脳生命体をここに留めておくだけでも、今後のことを考えれば充分な成果となる。

 幸いにも敵はその脅威的な学習能力を闘気や闘技、ケン・セイとコクスーリャに対してのみ発揮している。だが評議会の他の実力者と戦えば、それも変わるだろう。

 あらゆる技術を学ばれれば学ばれるほど、実力者を模倣されればされるほど戦いづらい敵となるのは明白だ。

 それを避けるためにも、この場だけの戦いにしたい。

 視界の端、穴が小さくなり破壊された建物の陰に隠れはじめていた。

 もうじき塞がる。

 見るものすべてがそう思っただろうその時だった。

 穴の周囲にいびつなひび割れが生じた。

 そしてそれに合わせ、コクスーリャの想いが届いたかのようにムェイは唐突に二人から距離をとって、指輪によりロープスを発現させた。

「退却します」

 律儀にそう告げて、機脳生命体は異空を渡る穴の中へ消えていった。

 呆然とするケン・セイとコクスーリャだけがその場には残された。

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