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エァンダがコンゴウルを一刀両断した頃。
ヒュエリは床に直に座り、額に汗を浮かべて集中していた。
研究設備の整う研究棟の一部屋。急ごしらえで数台置かれた魔素受容装置に、体内でマカ発動に必要な変換を加えた魔素を流し込み続ける。
ここで流し込んだ魔素が建物の外に設置された魔素放出装置に向かい、さらにそこからスウィ・フォリクァに空いた大穴を狙う。
世界の入り口を限定するマカの応用。しかし、絶対的に魔素の量が足りない。そもそもこのマカは理論上のもので、常人のホワッグマーラ人が呼吸で得られる魔素の量ではなしえないマカなのだ。
魔力過多症候群の人間ならまだしも。
以前ホワッグマーラでこれを行ったのはヒュエリではなく、圧倒的な才能を持った魔素過多症候群のフェズルシィ・クロガテラーだ。
いや、とヒュエリは頭を振る。
そもそも異世界であるこの場所では魔素タンクという制限がある。たとえその身に大量の魔素を取り込めたとして、タンクの魔素が尽きればそれまでだ。
「魔導賢者!」
「ひゃいっ!」
突然の人の声に集中を切らして跳ね上がるヒュエリ。彼女が灰銀髪を半ば振り乱すように立ち上がり、振り返ると、そこにはボタンがたくさんついた服を着た鍵束の男が立っていた。
サパル・メリグス。
「……驚かせる気はなかった。ごめん」
「え、はっ、いえ……こちらこそ、驚いてしまって、ごめんなさい。……それで、サパルさん? どうしてここへ?」
「穴を閉じようとしているんだろ?」
「はい……でも」
「僕にできることは?」
ヒュエリは視線を落とす。「魔素を扱えないことには……」
「やっぱりか……」サパルは呟くと中空に扉を出現させた。「邪魔をしちゃいけないね。僕は戻るよ」
「あ、待って! 待ってください。準備を手伝ってくれたジュコの小人たちが、外の装置のところにいます。鍵の力も加えられるように調整してくれるかもしれません!」
「なるほど」サパルは笑みを浮かべて頷く。「じゃあ、僕はそっちへ。君もここで頑張って」
「はい!」
サパルは去り、ヒュエリは部屋に一人になる。
頑張る。
それだけでは解決できない。それは彼とてわかっていることだろう。
なにか、考えなければ。評議会の危機を救うために。
思考を止めないまま、ヒュエリが再び魔素注入に集中しようと床に座り直すと、再び部屋に人が現れた。目の前の空間を渦巻くように歪ませて。
その登場に、ヒュエリは目を潤ませ、輝かせた。