H4
その日は何も変わらないいつもの日。いや、最近まで頭上に鎮座してた星のせいで、ここら一帯ずっと日陰続きだったから、ここ数ヶ月は久々に太陽を沢山拝める様になってとても気持ちの良い日が続いてた。彼等は頭にちょこんと花を咲かせた岩だった。
彼等は『パウジーフラワー』という種でその本体は何の変哲もない花である。だが彼等パウジーフラワーは自走する。そしてただの花よりも知能があった。
彼等は大きな体を求めて、その根を色んな物に放つのだ。絡め、浸食してそして動かす。その物を自分たちの体と化す。それがパウジーフラワーという種の特徴だった。そして色んな物に寄生して移動して、みつけたはこの安住の地。
くりぬかれたような崖の下。湖畔と共にある草原はまさに花である彼等にはとても丁度良い場所だった。ここの湖の水は特殊で涸れる事はなく、そしてマナが豊富だった。きっと星の中心から直接マナが送られてるんだろうというのが古参のパウジーフラワーの言だった。
ここが安住であるからこそ、パウジーフラワー達はここから離れる事が出来なかった。だが運が良いことに、ここまでは別の星のマナは来なかったのだ。多分この場所は特殊に星のマナが濃いのだろう。だからこそ、浸食されずにすんだ。
だがここ以外は浸食された。パウジーフラワーたちはここ以外へと出る事は出来なくなった。なにせここの外には別の星のマナに浸食されて変異した悲惨な怪物達が闊歩してるからだ。
「ふう……」
岩に寄生して、水くみをしてたパウジーフラワーの一人が腰を伸ばしつつ空を仰ぐ。天には青い空。白い雲。腰を曲げた時に岩と岩がこすれて僅かに粉となる。それになにやら、魚のような何かが群がってバシャバシャしてる。
「はははは、今日も良い天気だ……ん?」
何か空に違和感があった。気持ちいい日差しが差し込んでるのに、違和感? とは思ったが、注視してるとその感覚が正しかったとわかった。なにせ空間が何やらねじれて行ってる。そしてそこから自然物では決してあり得ない直線的な岩が出てきたん。
「綺麗だ……」
パウジーフラワーの彼はそう呟いた。それは始めてるみる模様をしてたからだ。そして美しい形……
「な……なんという……おお……」
バシャバシャと水をかき分けて湖を進む。すこしでもあの岩に近付きたかった。だが現れたそれには次第にヒビが入っていく。
「まって! 待ってくれ!!」
そんな彼の声は届かずに、その岩は砕け散る。中から大量の何かを放出して……だ。そしてその一体が彼の前にも降ってきた。




