閑話 ある日のユングの苦悩13
体がだるい? 自分はとりあえず手をにぎにぎとしてみてた。けど……別段違和感はない。自分が鈍いのか? わからないが、メチャクチャどやってるスナフスキンの巫女に何というか……ここは嘘をついておこうか? でもバレた時、なんか可哀想だしね。嘘は打ち解け合って初めて許される物だと僕は思ってる。なら、ここはちゃんと正直に言った方がいいだろう。
「えっと……別にだるくは……」
「ふえ? それは本当か?」
「……ええっと、多分」
「そんなバカな……」
何やら一瞬、スナフスキンの巫女の堅い鎧が綻んだ気がした。それから彼女はメイドさんへと視線を移す。
「貴様はどうだ?」
「わた――私ですか?」
「ああ、そうだ」
メイドさんはとても怯えてる。まあ普段から会話をしてるって感じじゃないしね。寧ろ、スナフスキンの巫女が彼女に語りかけたのはこれが初めてなんじゃないかってかんじだ。
「ええっと私は……そうですね。ちょっと気が重いですね」
「それはここに居ることがイヤなだけでは?」
「そ、そういうわけではないですよ。給料は倍近く出てますからね」
本音が……このメイドさん、結構優秀かと思ってたら、案外ポンコツなんだろうか? そこら辺は上手く隠すのが一流だと思うんだけど……いや、いまの瞬間までちゃんと上手く隠してたし、やっぱり優秀なんだろうか? そもそもこんなVIP……というか訳ありな客人に信頼できない人員を送るとは思えない。だから彼女はメイドの中でもかなり高い評価を受けてるのは確かだと思う。
「そっか……私は怖いか……まあ人種にとってはそうだろうな」
なんか微妙に傷ついてるっぽいスナフスキンの巫女。意外だ。星まで持ってた上位の種が、人種の評価を気にするなんてね。そもそもそういう上位は人種なんて虫けら同然に思ってると思ってた。でもこのスナフスキンの巫女はちゃんと僕たちを見てる。一度ラーゼ様ともスナフスキンはエデンがらみで接触したことがあるとは聞いてる。その時の事が効いてる? わからないけど、人種をただの雑魚とはこの人は思ってなさそうだ。
「いえ、さっきの彼に対した時以外は、とても上品でよきでございましたよ?」
「ありがとう。そうだな、こいつの中のアラガタに振り回されてるな。心を落ち着けなければ。さっきアラガタの人形を壊したじゃないか。今日はアレで十三体目だ。十分だ」
「ん?」
今、なんかとんでもない事をぽろっとこのスナフスキンの巫女は言わなかった? さっき壊したアラガタの人形ってティーカップを変形させた奴だよね? でもアレで十三体目……それはつまりはこの家の中でアラガタの人形をああっやて作っては壊してストレス発散してるって事だよね? それは確かに本人がいたら首くらい締めますね。僕はなんか納得した。
(随分な恨まれようで……)
『ふん、強者とは其れすらも踏み潰す物だ』
自分の中のアラガタは別に反省なんかしないみたいだ。まあそれが覇者の態度なんだろう。




