閑話 ある日のユングの苦悩4
お父様から言われて、城を歩く。目指すは城の端っこの方だ。城は広い。大人でもそう思うんだから、子供である僕には当然とても広い。本当なら城に来た……なんてなったら、子供心に探検心を湧き上がらせる物なんだろう。実際それは僕にもあった。
普通城になんて入れないし、僕は本当の父親には認知されてなかったから、もちろん城にお呼ばれしたことなんか無かったから、当初ここに住むことになって、ワクワクしないわけ無かった。まあ旧お城とは全然違うんだけどね。こっちはファイラル領のアナハイムに立てられた城だ。
ファイラル領が首都になって、辺境だったここが中央になると、色々といままでの城では不便だって事で、新たにこの城は建てられた。普通城は何年も掛けて作りそうな物で、実際この城も何年も作ってる。というか、なんか完成しない。
完成しそうになったら何やらおかしな場所が増えてるような? しかもそれをお父様もお母様も把握してない。ラーゼ様がしてるからいいんじゃない? 的なスタイルである。いや、良くないと思うけどね。流石に自分たちの生活圏である城のメイン部分はちゃんと把握してあるし、色々と意見も言ってとても過ごしやすいように作られてるらしい。
旧王城はそれこそ何百? 何千年と使われてた奴だから、かなりボロボロなのだ。それを聞くと、初めての城がこっちで良かったと思う。実際旧王城にもいった事はある。てか、旧王城はなんと観光地化してる。ラーゼ様が言ったみたいなんだけど、お父様もお母様もそれを了承するなんて……いや、二人にとってもあそこは別段愛着がある場所でもなかったんだろう。
僕もそうだ。旧王城は古いだけあって厳かで年季の入り具合はここの比じゃない。でも何もかもが不便なのは間違いなかった。井戸水しきだし、冷暖房もない。会議はだだっ広い所に集まって皆で広げた地図を見てうんちゃんうちゃんしなくちゃいけない。
立派だけど、あんがい隙間風も酷くって……うん。
「こっちか?」
まあけど、こっちの城もずっと建築してるせいで、把握できてないエリアが多く、普段住んでる居住区とお父様達が執務してる場所、後は訓練用の施設とかの場所以外はあまりいかないから迷いそうではある。一応自宅……なんだけどね。
「今なら……探検心に従ってもいいかもね」
僕はそんな風に呟いた。最初に来た時は、心に身を委ねるなんて出来なかった。なにせ受け入れられてなんかなかったからね。それがわかってて、無邪気にはしゃぐほどに僕の精神年齢は幼くなかったんだ。でも今ならそんな負い目はなくなってる。だからやってもいい。この城だけでも、知らない場所は案外多い。
「でも今は違うかな?」
なにせ今は目的地がある。広い廊下をあるく。一応ちょくちょくと人とすれ違うけど、うん、自分が行動してる範囲では見ない人達が一杯だ。自宅に知らない人達が一杯って……なんか変な感じ。セキュリティ的に大丈夫なのか……権力があると、それだけ命を狙われやすくなるものだ。まあお父様もお母様も大人気だし、そこまで心配はいらないかもしれないが、世界には理不尽存在がいて、今はそんな存在と世界の覇権を争ってる。
だから危険が無いなんて事はないと思う。色々と見て回りながら、人通りも少ない通路に入ると、メイドさんが待っていた。
「お待ちしておりましたユング様」
そういう彼女は人種で二十こえた位の歳のお嬢さんだった。ソバカスが主張してる素朴な顔の人だ。その人はなんか幕が掛かった一面の壁の前に立ってた。てか明らかになんか不自然じゃ? そこは突っ込んではいけないのたろうか?
「それでは案内いたします」
すると彼女は幕を掴んでガバッと勢いよく振り上げた。大きな幕が自分たちにも覆い被さってくる。
「わわっ……ん?」
なんだか違和感がある。てか鳥や草木の声……そして何より風を感じる。前を見ると、なぜか、森の中の小さな湖畔に立つ小屋の前に僕はいた。




