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「流石だね~亜子ちゃん」
ふわっとした良い香りを漂わせて私の楽屋に来たのは誰もが認める美少女『栗林 みう』だった。彼女は女優でありモデルであり、更に一人で歌も出すシンガーソングライターでもあるなんか凄い人だ。最初にそんな事を聞いたときは、ラーゼみたいな奴もいるもんだ――
とか思った。けど、流石にラーゼほどに常識外れで可愛いわけじゃない。確かに彼女『みう』も側に寄られるとドキッとしちゃう位に可愛い。
ふわふわの髪もちょっとラーゼを連想させる。まあ色は茶色なんだけどね。純日本人らしいし、奇抜な色してる訳ないよね。
「何のことですか?」
「またまた~、わかってる癖に」
そう言って私を肘で小突いてくるみう。なんか凄く私、彼女に気に入られてる。どうやら今度は本を出すらしく、それのネタをほしがってるらしい。自分の本なら自伝でも出せばいいのに、彼女はラノベが好きだから異世界物を書きたいらしい。
そこで私だ。なにせ本当の異世界に行ったことある人物だ。自分でいうのもなんだけど……まさにこれは天啓だとみうはおもったらしい。みうを一言で表すならスーパー美少女で彼女は芸能では女優よりなんだけど、別段仕事を選んでる訳ではないらしい。
だからこうやって彼女が持ってる番組とかがなんかある。私がいない間にこんな奴が出てきてるとは……とか一瞬思ったけど、どうなんだろうか? そもそもが私は私が消えた瞬間の時間軸に戻ってきたはずだ。それは確認してる。ゼロ出現のせいで周囲は騒がしくなったが、家族は何のことか訳わかってなかった。
なにせ私がどこかに行ってた時間なんてなかったからだ。普通に学校にいってた筈の私が、何故かロボットにのって異世界から現れた事になった……混乱の極みだろう。でもそういうことで、家族の反応を見る限り、ちゃんと私は元の時間に戻ってきてる。
筈なんだけど、こんな目立つ存在の筈の『栗林みう』を私は……全くしらない。彼女のメディアでの露出はとても高い。毎日テレビで見るほどだ。雑誌にも大抵複数の表紙を飾る程の人気。そしてクラスの女子の憧れはこのみうだ。
というか、たぶん全国の女子の憧れと言って良い。私だってこんな風にこの栗林みうと離してるのちょっと信じられない。私も他の皆と同じようになってたと思う。私も人並みにオシャレするし、見た目にだって気を遣う年頃だ。
自分がそこそこだとはわかってたとしても、憧れってのはある物で、思春期ならそれが最高潮の時期だろう。だから私は絶対にこの『栗林みう』を向こうに行く前から知ってないとおかしい。調べてみると、彼女が現れたのは一年ほど前だ。
知らないわけないだろう。けど……
(知らないんだよね……)
そこで私にはある懸念が生まれた。本当にこの世界は私が元いた世界なのだろうか? という懸念だ。




