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86/2414

#86

 手が震える。息も荒い気がする。周りの奴等は皆落ち着いてる様に見える。やはりというか、アンサンブルバルン様の選りすぐんだ兵隊たちだ。こんな状況も慣れっこなのかもしれない。それにきっと誰もが歴戦の猛者達。自分の様なひよっこではない。ついてるのか、ついてないのか……前を見て後ろを見て俺は後者を選択する。

 後ろで優雅にお菓子の入った箱を持ってクッキーをポリポリしてる我が主。戦場でなんと緊張感の無いことだと……普通は思うだろう。実際周りの人種達は引いてる。だが愛らしい。世界のどんなものよりもだ。あの方を視界に移すだけで満たされる。艶やかな鎖骨、頬ずりしたいお腹、完璧な脚線美。輝く様な髪。恐怖など……どこ吹く風だ。


 震えは止まっている。何が幻獣種だ。あの方の美しさには神でさえ怖気づくだろう。そんな方がこちらに居る。微笑んでくれる。男なら、その笑顔だけで自分の限界など超えれると言うものだ。俺は授かった大斧に力を込める。戦闘は既に始まってる。数はこちらが上。幻獣種限定で言えばだ。ガロンの軍勢は周りを囲んでるだけで、なにもしてはこない。

 いつ動くかは分からないが、今動かないのなら気にしない。そもそも幻獣種の方がガロンの兵よりは強いのは明らか。それだけの種だ。だからこいつらを倒せれば……退けられるかもしれない。我が国は終わる。彼女が終わらせる。だがせめて、悲惨な最後にはしたくない。あそこには家族がいる。これが終われば、売国奴と呼ばれるかもしれない。

 が、それでももうあの方の無い日々など考えられない。狂ったのだろう。狂わされたのだろう。あの方は男を狂わす。だが……後悔などない!

 

「うおおおおおおおお!!」


 大きな跳躍と共に、一体のユニコーンの女に斬りかかる。だが奴はその角だった武器で安々と受け止める。まだ……まだ足りない!

 

「こいつら……」


 何かを奴が呟いたが関係ない。俺は直ぐ様めり込んだ斧を今度は横に振りかぶる!!

 

「ぬおらああああああああああ!!」

「ぐぬううううう!!」


 ユニコーンの女が大きく後方に吹き飛ぶ。さっきまでの余裕はない。凄い……あの幻獣種相手に、自分がここまで出来るとは。いや、俺だけではない。幻獣種の攻撃に皆が耐えてる。アンサンブルバルン様ならまだしも、幾ら精鋭達といえ、それはあり得ない筈の事だ。それだけ、獣人と幻獣種と呼ばれる種の力は違う。獣人は獣と成り下がった種族だが、幻獣種は神の力を残した種と言われてる。

 だからこそ、一撃の元に殺せると……奴等は疑いもしなかっただろう。だが今それは崩れてる。俺達は死なずに渡り合えてるのだから。奴等は驚愕してるだろう。獣人にこんな事が……と。

 

「何故だ……貴様ら!!」


 輝く魔法陣が奴の武器にまとわりつく。俺は大斧を前に踏ん張った。次の瞬間、凄まじい衝撃が襲いかかった。眩しい光が視界を妨げる。

 

「ぬぐぐぐ……」


 流石は幻獣種。とんでもない力だ。こんな力を単体で普通に宿してるんだから、種の壁と言うのは厚い。自分自身の力だけでは、こんな攻撃を防ぐ事は出来なかっただろう。獣人は強い肉体を持っていると言われてはいるが、上位種の攻撃には紙みたいな物だ。なにせ彼等は生まれ持つマナの量が段違いなのだから。扱えるマナが違えば、当然攻撃力も防御力も跳ね上がる。

 肉体の強さなど、実はさほどメリットなどではない。だが、弱いよりは良いのは当然だが。元々の強い肉体に規格外のマナが加われば……それこそ怖いものなどない! 俺はあの方をラーゼ様を想う。その思いに応えるように、耳につけた不似合いなピアスがその光を強める。満ちる……あの方が。感じる事が出来る。その匂いもその肌の軟さも、そして俺を呼んでくれるあの声と紡ぐ唇にいつだって俺は魅せられる。

 

「ぬるいわああああああああああああああ!!」


 俺は奴の全霊の攻撃を上方に弾き飛ばした。これぞ、愛の力。

 

「なっ……そんなバカな……獣人風情が我――づっ!?」


 驚愕に揺れてた隙きに彼女の胸から刃が突き出た。アンサンブルバルン様の精鋭達が、そんな隙きを見逃す訳がない。その角を落とし、地面にやけに眩しい透明な血液を広げて彼女は倒れた。まずは一匹……いや、既に三匹倒してるようだ。みなぎる力は枯渇する気配はない。皆に分け与えてそれを物ともしてないラーゼ様。やはり、貴女は最高だ。

 この日、ライザップは終わるかもしれない。だが、獣人の歴史は、立場は更に上にいける事だろう。上を目指すのは……強さを求めるのは獣人の本能。国などという縛りから開放されて我ら種は最強の道を再び歩めるのかもしれない。

 

 だからまずはお前らだ。その角全てへし折って、俺達の上位互換などという戯言を覆してやろう。俺は笑う。自然と笑ってた。これが獣人の本能だ。

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