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#84

「はあ……」


 思わずそんなため息が漏れる。一体何がどうなってるか……私たちには何もわからない。いつもの部屋で過ごしてると、振動が伝わって来て、それを砲撃とか、彼が言った。それで色んな考察とかしてる間に、砲撃は一旦止んだんだけど、その時扉が開け放たれて奴等が入ってきた。一人の獣人と、見たこと無い人達。それは額に立派な角が生えた人達だった。

 助けが来た……とは流石に思えなかった。だってそんな目じゃなかったもん。大体わかる……あれは私達を歯牙にもかけてない目だった。生き物とさえ多分みてない。そんな冷たい目。ここで皆死ぬのかと思った。

 私達は生体兵器だから、そんなのは全然平気……そう平気だった筈。なのに……震えてた。怖いと思った。嫌だと……嘆く心が出来てた。アイツに会った時から変化してた私達。

 

 ただの無でしかなかったと言い聞かせてた筈なのに……いつからだろう、明日の事を考える様になったのは。アイツだけじゃない、あの時私達を庇うように前に出てくれた彼等との時間が、外への思いを募らせたんだ。

 

『必ず全員助ける』


 彼『カタヤ』と名乗った金髪の青年とは彼等がラーゼに嵌めらてここに来た時からよく話した。そして彼や、彼の仲間が語った外の……人の国の話はとても魅力的だった。言ってみたいとそう心から思った。そして何故か彼の言葉は、不思議と信じれる様な気がした。なぜかは分からない。私達は誰かを信用するなんて愚かな事、絶対にしない。だって信じて救われた事なんか無かったから。

 長い……なんて言えない人生かもしれないけど、それでも私達が必死に生にしがみつくために学んだ事。それなのに何故か彼のカタヤの言葉はすんなりと受け入れられた。反応が薄かった他の生体兵器の面々もいつしかカタヤ達の話を目を輝かせて聞いていた。そういえば、この頃から出てくる食事が立派になってた。前は硬いパンと水だけ……しかも全員分じゃない。三つ四つを千切って食えってスタンスだった。

 

 それなのにいつしか温かなスープやらバターが塗られて焼かれたパン。しかもなんと日に三回はそんな食事が人数分出てた。最初は毒を疑った。だってそうでしょ。私達生体兵器にこんな豪勢な食事が出される訳ない。言ってなんだけど、生体兵器なんてこの国では物扱い。使い捨ての玩具みたいな物。壊れたって直されやしないし、無くなったって未練も何も感じられない……そんな扱いが生体兵器の筈。

 

 だから温かい食事なんて、これはもう用済みだからと殺しに来てるとしか思えないのも無理無かった。それにカタヤ達もそれを最初は疑ってたしね。けど手付かずの食事を見て、持ってきたいつもと違う服の獣人がそれを私達の前で食べて見せた。安全だと示すように。それからはちゃんと食べる様にした。勿論それすらも作戦って線もあったから、次に運ばれてきた食事はカタヤがまずは食べてみてた。

 特殊な訓練で毒には強いと彼は語ってた。そして大丈夫そうだったから皆で食べた。初めて食事を美味しいと思った。今まではただ生きるために食べる……口に入れる物で、お腹が痛くならないのならなんでもいいって感じだった。みんな大体そんな感じだ。

 だからその食事を一口口に入れたと同時に、私達は一心不乱に手を進めた。そして空になってカタヤと目があって、私はとても恥ずかしくなった。けど笑って差し出してくれたそのパンを私はやっぱり食べた。

 

 さっきと同じパン。けど、なぜかさっき以上に美味しかった。

 

 

 僅かな期間の思い出……その筈なのに、目を閉じればもう彼等と会ってからのことしか浮かばない。いつか人の国に行くんだと……そう信じきってた。なのに周りはガシャガシャと音を立てる変な人形みたいなので一杯で……遠くに見える街を攻撃してるようだった。あれが私達の居たところだろうか? 外から見たことなんかなかったから分からない。

 攻められてる……けどどうして私達をこの人達は攫ったのか分からない。私達は一箇所に詰め込まれて、周りを硬そうな人形達が囲んでる。その外で、私達を連れ去った奴等が何かを話してる。何か聞こえないか? と必死に耳を澄ますけど、周りが煩すぎて全く意味ない。すると何か引っ張りられた気がしたから振り向く。

 

「ひゃっ――うぐ」

「静かに、どうやらライザップとガロンの戦闘がはじまってるようだ。どうやってか自分達はここを抜け出して、仲間と通信を取りたい。だから――」


 ドキンと胸が高鳴った。それはカタヤの顔がすぐそこにあったから。そして直ぐに冷めた。彼の言葉で。けど考えるよりもまえに私はこういった。

 

「私も行く」

「それは……出来ない。これだけの人数が一斉にここから動くなんて不可能だ。けど安心して。約束は必ず守る。これを」


 そう言って彼は綺麗なアクセサリーを私にくれた。綺麗な石が輝く指先ほどのアクセサリー。一体どこにつけるのか私にはわからない。誰かから貰った初めての物。何かが胸にこみ上げてくる。こんな状況なのにだ。

 

「それは……多分役に立つと思う。なんせ――」


 何かを言いかけた彼が私の背後を見上げてる。私もそっちを向こうとして首の締りと共に、浮遊感を感じた。そしてそれは私だけじゃないと、周りを見て悟った。幾人かの人がカタヤの仲間と生体兵器の私達区別なく数人、角の生えた人達によって捕まれてる。

 

「何をするんだ!」

「そう興奮するな人よ。ただ、管理しやすくするだけだ」


 淡々とそういう角の生えた人は、感情の変化なんか何もない感じで、私へとその腕を振り下ろす。

 

『ああ、ここで死ぬんだ』


 それが理解できた。名残惜しい……けど最後に良い物を貰えた。それだけで……するとそのアクセサリーが私の拳の隙間から強い光を放ちだす。

 

「ぬお!?」


 そんな声とともに私の命は繋ぎ止められた。更に何か声がするような?

 

『あれ? いや、出来そう……うぅ……でき……でき……デキレ!!』


 すると次の瞬間、何かが私達の周囲に展開される。私達以外は外へ放り出された。そして同時に、激しい音と共に、地面がうがった。周囲が一瞬でぺちゃんこだ。さらにさらに、私の目の前に凄く派手で可愛くて、そしてイヤラシイ感じの服を着た、間違えようのない奴が降りてきた。

 

「ラーゼ……なの?」

「うん、私が来たよ! さあ、死にたい奴から地獄に送ってあげる」


 彼女は笑う。戦場で誰よりも魅惑的に。彼女こそが死を運んで来たかの様に。


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