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#81

『我は『ラペラント・ラント・ライザップ』である。この度、緊急事態の為、我が今この時より獣王の地位に着く。皆には不安もあるだろうが、この難局を越える為に理解してほしい。必ずや助けて見せると約束しよう。この国がどうなろうともだ!』


 そんな声を皆が聞いてる。すがってる。この私にだ。私は陣から出て、水を貰う。かっこんで無造作にそれをすてた。普段はそんな事はしない。が、今はもう体裁を気にする必要などない。

 

「そうだよなラーゼ」


 あの娘も既に動いてるだろう。戻ってこないのは気になるが、アンサンブルバルン様が行ったのなら大丈夫だろう。それに……そもそも彼が必要なのかどうかさえ疑問だ。あの娘はそれほどに謎。その力を見たことはないが、対面するとわかる深い深い力。そして強い意思を宿したその瞳。眩しいと思った。容姿だけではない。あの娘は誰もやらない様な……諦める様な事をやってくれる。

 実際、俺は諦めてたんだ。母を殺した父を憎み……だがその父に歯向かう事も出来なかった自分。王子という立場に甘んじて……俺の存在証明がそれだけだと怯えてた。だからこそ、王子であろうと……王子の鏡であろうとやってきた。それは叶っただろう。誰もが次期王は俺だともてはやした。だが俺は嫌だった。玉座も、そしてこの国さえだ。


『それなら、一緒にこの国を潰しましょう』


 あの娘はそんな甘美な言葉を俺にくれた。

 

『獣王は死んだ。次の獣王は貴方。それで最後にしましょう。もてはやした王と共に死ねるのなら本望でしょ? この国の獣人達も』


 自らの手で巻くを引く……それはあの人への最高の復讐になり得ると……そう思った。全てを終わらせられる。それは天啓にも思えた言葉。乗らない訳はない。何故か知らんが、あの娘は俺の奥底の気持ちに気付いてた。あの不思議な色の瞳は全てを見通してるのかもしれない。

 

「出るぞ、近衛達は準備出来ておろうな?」


 その言葉に反対する者はいない。直ぐ様、近衛の隊長が「勿論でございます」と告げる。彼はかのアンサンブルバルン様についで今や強いと謳われる一人。少し落ちて幾つか名のある人物は居るが、それは地方やら色々と事情があって首都にはいない者も多い。が、そのなかの一人は二年前に死んだと聞いた。そして更にそれを殺ったのがあの娘だと、最近知った。

 確かにあの時は大変だった。色々と……だが事態は既に終息したと思ったが……アドパンで起きたあの事件から、この国の運命は既に決まってたのかも知れない。そう思うと、ここまでの人生が何だったのかと思うと同時に、とても肩が軽くなった気がする。

 

 まあ今は『王子』から『王』へとなったから、肩の荷が更に増えたはずなんだが……心の持ちようか、やはり軽いのだ。宮殿の奥……王族と一部の者しか入れないその部屋で俺は父が着ていた防具に包まれ、そして父が使ってたその斧を手に取る。獣王とは力だ。獣人とは力を愛す。だからこそ、強く無いと王とは認められない。前獣王は強かった。だからこそ、この国を作り上げれた。

 立派だった……王として……そして獣人としてだ。だが父としては……俺はあの人を父だと思ってない。そして力を愛す獣人達を憎む。

 

『弱かったからお前の母は死んだ』


 そんな事をいう奴だった。王子とて、強くなければならなかった。母は父に、獣人達に殺された様な物だ。父の行動も獣人達の信念も理解は出来る。もう、子供ではいられない歳になったのだから。だがそれでも……許せるかどうかは別だ。これは全てから逃げ出したい俺の独り善がりな感情だろう。だがそれすらもあの娘は肯定してそしてこの場を用意してくれた。

 

 そもそももうこの国は限界だったのだ。獣人達は強さを愛す。だが集まり国になり、安定を得……更に強大な種を前にした時、この国は更に進撃しただろうか? 今見てるのは下ばかりではないか。強さを愛す獣人が聞いてあきれる。我らははき違えたのだ……強さの意味を。だからもう一度示そうじゃないか。そして盛大に終わろう。

 それが最後の花道……そして俺の復讐だ。

 

「ゆくぞ、ガロンの軍勢を一機残らず撃滅し、我らが獣人の強さを示すのだ!!」


 そんな俺の言葉に近衛達が武器を掲げて沸き立つ。各々が専用の大鷲に乗ってる。それらが次々に大空に飛び立ち、我ら獣人の反撃の狼煙を上げる事になる。最後の仕事だ。王となり、そして最初で最後の仕事。俺はただ、自分の為に戦う。それが腑抜けた同胞達に真の強さを見せつけられる事になるか……いや我は獣王。焼き付けさせよう。その魂にまで。

 そしてその時、俺の復讐は完遂される。

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