閑話20
「さいっあく……」
私は思わずそう呟いた。何が最悪だって? それは勿論目下の大問題、カタヤさんが連れて来た子供である。その子供の名前はどうやら「ユング」というらしい。たどたどしく教えてくれた。けどなんか私には演技してる様にみえる。女の勘だ。子供を演じてるというか……子供なんだからそれはおかしいんだけど……子供だからって侮る事は私はしないよ。
私は全てを諦める事を知ってる。それはなにせ褒められた事じゃないが、そうするしかなかった。でもそれは結局私の弱さ……けどこのユングという子はカタヤさんから聞いた話だと、戦ってた子だ。強い子だ。こんな子供子供はしてないと思う。
カタヤさんは私とそのユング君と共に結果を言ってきた。なんの結果だって? それは勿論彼の血統だ。本当に王家に連なる血なのかということ。そしてそれはどうやら本当だったみたい。彼は紛れもなく人種の王家の血筋みたいだ。強制疎開させてる元王を問い詰めて記憶を思い起こさせたらしい。
すると言質がとれた。彼、ユング君は間違いなくあの王様の子供だそうだ。あの王様、今は枯れて……枯れてるかな? ラーゼにいつも欲情してたけど。でもラーゼには誰だって欲情するからあんまり参考にならないか。あいつにかかれば、死ぬ直前の老人だって建たせることができるだろう。
とりあえずあの王様はその立場を使って若い頃はかなりやんちゃしてたみたいだ。そういえば後宮とか実はあったんだよね。でも彼、ユング君のお母さんはそんな後宮とかにいた人でもない。まあそもそも後宮に居たらちゃんと育てられるからね。
聞いた感じの境遇になるなんてありえない。てかただ仕込んで後は放ったらかしとか、あの王様最低だよ。きっとユング君だけじゃないんだろうなって思った。けどそのいるかもしれない彼の兄妹姉妹の事はどうでもいい。辛い環境にいるかもしれないが、出来うることならこれ以上私の前に現れないでほしいというのが本音だ。
だってユング君だけで私の計画が瓦解してる。どうやらカタヤさんは彼を養子として組み込みたいらしい。そしてきちんと教育を受けさせて次代の王に――とかんがえてるみたい。その説明をしてくれた。いやいや……だよ。当然私は怒るよね。だって私は私とカタヤさんの愛の結晶に王を継がせたい。だって王様なんて最高じゃん。王族なんて勝ち組だよ。
確かに既に王じゃなくても、それなりの地位にはいれると思う。でも一度手にしちゃうと手放すのが勿体なく感じるものだ。
「どうして勝手に決めるんですか!」
「勝手に決めてはないよ。だからこうやって相談してるだろ?」
「相談じゃなくて、事後報告じゃないですか! もうカタヤさんの中では決定してるんでしょ?」
「それは……」
「私は……私は私たちの子供にこの国を渡したかったのに……」
カタヤさんに全然その気がないのはわかってた。けど一生懸命迫ればいつかはさ……堕ちると思っていっぱい努力してたよ。なのにこれ幸いとばかりに子供持ってきてその子に王位を継がせるとか、しまいにはその子を育てなきゃいけないとか……なにそれだよ!?
私はポロポロと涙があふれてくる。
「私……私はもうアナタの妻なのに……奥さんなんだよ。カタヤさんが抱いてくれなかったら私ずっと愛されないままだよ」
そう私は今はもう女王だ。そんな私に夫以外誰が手を出すのか……だせるはずがない。私を女にしてくれる人はもうカタヤさんしかいなんだ。私を幸せに出来るのはこの人しかいなんだよ。
「ごめん……キララ」
そういって近づいてくるカタヤさんを私は拒否する。私は自分からカタヤさんを拒否したことはない。だっていつだって求められればオーケーの態勢だったからね。けど今、初めて私はカタヤさんを拒否した。それには流石に衝撃だったのか、彼も止まる。
「謝るくらいなら、私を抱いてください。私はそれを望んでるんです。愛がなくてもいいです。ちゃんと愛してもらえる様に努力しますから!」
私はそういって今度は自分から勢いよく彼の胸に飛びついてそして頭を強引に引き寄せてユング君の事も忘れてキスをする。青臭いチュってした奴じゃない。もっと濃厚な奴だ。
「キララ、ここには彼が……」
「ユング、貴方は部屋へ戻りなさい。明日ちゃんと説明するわ。二人で今夜、じっくりと語り合ってね」
「……はい」
聞き分けのいい彼は素直に下がっていった。これで邪魔者はいなくなった。さて、どうやらカタヤさんは観念したらしい。私をまっすぐに見つめてくれてる。やっぱり女の涙は武器だね。語り合う、交わり合いながら……本音と本音をぶつけ合うんだ……勿論物理的に。
きっと夫婦にはこれは必要な事なんだ。ベッドの上だからこそ話せることがある。この夜、私たちは本当の夫婦になった。