#70
「これを見たら……あやつらはなんと言ったじゃろうか……」
そんな事を言ってプロト・ゼロを見上げてるネジマキ博士。どうやらさっきの謎の少女はこのプロト・ゼロに乗ってたらしい。私はあの後、コックピットの中で意識を失ったからそれを知らなかった。どうやらあの娘……日本人ぽいんだよね。服装も制服だったし……まだ私、日本語わかったんだってちょっと驚き。彼女の事を考えると、忘れてた記憶が少しは掘り起こされる感じがある。
まあそれでも以前の自分がどんなだったかとかは全くわからないんだけどね。前の世界の事が少し見える程度。でもそれで懐かしさを感じるかというとなんだか違う。映画とかを見てる感じと似てる。ディスプレイの向こうの世界を覗いてる感じ。多分それは私自身が向こうに存在してた記憶がないからだろう。なんとなくあそこにに居たとは思えるんだけど、それだけ。
そもそも私はこの世界、それなりにエンジョイしてるからね。不満はない。今なんて贅沢三昧だし。戻りますか? とかもしきかれたりしても私は拒否するだろう。だって今の私はここに居る。ここが私の世界だから。
「……で、どういうことなのよ?」
興奮してるネジマキ博士にそう尋ねる。仲間のこととかで落ち込みたいんだろうが、それすらもさせない出来事だったようだ。まあ、異世界人召喚しちゃったしね。しかも破壊した筈のプロト・ゼロまでおまけで復活。本当にどういうことなのか……私の頭じゃ理解できない。
「わからぬ。さしずめ、天才の儂もお手上げじゃ」
おいおい、造ったんじゃないの? 造った本人までわからないってそれはそれで不味いでしょ。
「確かに儂がアンティカは完成させた。それは確かじゃ。だが、骨格は違う。アンティカのコアに成る骨組みは発掘品なんじゃ。それを儂が再利用したと言うわけじゃ」
「つまりは皮だけ整えただけじゃん」
「違うぞ! 誰もどうする事ができなかった物を儂が……儂だけが兵器と出来た。これで人種は今の立場から脱却出来るのじゃ!」
「けど、今回の原因はわかんないんでしょ?」
「ぐぬぅ……」
ネジマキ博士は私の言葉にぐぬぅしか言えない。つまりはソレが答え。まあプロト・ゼロと共に来たあの娘なら何か知ってるかも? なんか興味深い事言ってたし。
「ねえ、あの娘……本当にミリアって子にそっくりなのよね?」
「ああ……本人かと見間違う程にの。今でも本人では無いのかと思うが……どうやら違うようじゃしの」
どうやら彼女はミリアと言うプロト・ゼロのパイロットと瓜二つらしい。これに関連がないとは思えない。だって破壊した筈のプロト・ゼロと共に現れたのか彼女だよ。絶対に何かある。
「どうあの娘は?」
「まだ眠っています」
「そっか」
私の言葉にグルダフがそう答える。ちょっと激しくしすぎたかな? けど女の子に興奮したんだもん。ここだけ聞くと私は変態オヤジかという台詞だね。あの娘が目覚めて事情を聞くのが良いんだけど、あんまり強制はしたくない。取り敢えず首都を目指しながらネジマキ博士にはアンティカの分析してもらおう。わたしはアンティカに不用意に近づかない方がいいとわかったからね。
なんかあの三機が私の力を狙ってる様に感じるんだよね。生きてる? あいつら生きてるの? 身をすくめつつ、私は空挺の司令室へと向かった。