#68
目を覚ますと目の前に黒髪の女の子が顔を近づけて来てた。丸っこい顔の、日本人的なそれ……懐かしいな……とか思ってると、目を瞑る彼女の息が荒いのに気付いた。しかもなんか唇が尖ってるし……この娘、私にキスしようとしてきてない? まあ可愛い女の子とキスするのはやぶさかではない。てな訳で、私はガッチリとそのこの顔を掴んだ。
「いいわよ、しましょう」
「え? ちょっ――おき――ってちょっとまって!」
何を今更待つ必要があるのか。女の子同士なんだからノーカンだよ。今度は私から顔を近づけてく。
(あれ? この娘誰だっけ?)
ふとそんな事を思ったけど、大きな問題じゃない。てな訳でその唇を狙う。ツヤツヤした唇はとても美味しそう。やっぱり蛇なんかとは違うよね。
「待ってって言ってるのに!」
「聞きたくない」
「なんなのこの子!!」
それはこっちの台詞だが……けど今は唇が重要だから、話しはしない。でも向こうの方が、大きくて力も強いよう。押し戻されちゃう。しょうがない、正攻法では彼女の唇は奪えない。そう悟って別の手に移行する。
「さっきそっちからしようとしてた」
「あああれは魔が差したった言うか……貴女が余りにも綺麗だったから、物語的にはキスして目がさめるかなって……」
「それじゃあ、目を覚まさせてよ」
「覚めてるよね!!」
そんな反論は聞かない。メルヘンチックにお願いします。
「したくないの?」
「う……」
私の上目遣いに彼女は迷う。その視線が私の顔に、唇に注がれてるのがわかる。同性でも私程の美少女だと流石に興味が湧くらしい。彼女の頭を抑えてた手を片方開放して彼女の唇に触れる。そして見つめ合うと彼女も見詰めてくる。私達だけの空間……それが出来上がってる。鼻先が触れる位の距離。彼女はゴクリと唾をのみこんだ。
「いくよ」
そう呟いて私は彼女の唇と自身の唇を重ねる。彼女は抵抗しない。
(あぁーやっぱり蛇とは全然違う)
至福である。柔らかな唇はいつまでもこうしてたいと思わせるには充分な程の弾力を持ってる。けど息を止めてるといつまでもこうしてる事が出来ない。案の定彼女は少しすると離れようとする。けどそこをガバッと拘束。
「うぐっ!?」
そんな声が聞こえたけど、気にしない。大丈夫……息は分け合えばいいんだよ。唇が触れたまま私は口をあける。すると彼女も自然と口があく。そこに素早く舌を忍ばせて息を通す。
「んっ……んう……」
チュパチュパとした音が響きだす。唾液が混じって口元がベタベタになってるかも……けど、同時に互いに溶け合うようで、脳がしびれる感覚に陥る。夢中だった。気付いたら彼女は真っ赤になって目を回してた。
「ごちそうさま」
そう言って私は元気一杯になって改めて、彼女が誰なのかと思った。しかも今気づいたけど、今まで話してた言語……日本語だった気がする。