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√82

 引き金を引くことを堪えて、俺とカタヤは王の前に肩膝をついて頭を垂れる。そして同じ壇上には陛下と、そしてミリア。どういう立場で同じ位置にいるかと思ったら、『魔族の王』として堂々とこの場にいるらしい。そしてそれに陛下は疑問をもってはいない。


「ミリア嬢は儂等人種と魔族との橋渡しをしてくださるそうじゃ。彼女は魔王としてこの世界を手にする権利を所有しておる。なのでその傘下にこの国も参加させけくれるというわけじゃ」


 そういう陛下の顔には悲壮感なんてまるでない。それは人種という国を……種を魔族へと売り渡す事と同義ではないか? 必死に今まで並み居る強大な種から守り、そして育て上げたこの国を、そんなあっさりと別の種へと売り渡すと……本気か?


「陛下、それは本気なのですか? 魔族の軍門に下ると……」


 俺のその言葉に反応したのは陛下ではなかった。隣に座ってるミリアだ。そこは王妃様の席だが、咎める奴はいない。本当にミリアは王と同格の存在と思われてる証拠。いや、既にこの国が軍門に下る事が決まってるのなら、これでも不敬だろう。

 陛下よりもミリアの方が上の立場って事になる筈だ。


「ベールさん、それは違います。私はこの国を乗っ取るつもりはありませんよ。私だって元は人種です。だから仲間意識があるだけです。人種は弱いですからね、強大な種の庇護が受けられるのはとても心強くはありませんか?」

「それは……」


 ミリアの奴は昔はしなかった妙に色っぽい顔をするようになってる。そんな妖艶な微笑みを見せられると男はどうやったって言葉に詰まる。ミリアはミリア……妹のような存在だ。変な気は起きない。だが、容姿が格別にいいから飲み込まれる。


「だが、どうしてファイラルに攻めてるんだミリア? あそこは……ラーゼの土地だ」

(いい事言ったなカタヤ)


 まさか今のカタヤがその事を言うとは思わなかった。カタヤはミリアと再会できた嬉しさに、ミリアが魔王となってる事とかに意識を裂いてないから既にミリアの術中にはまってると思ってたからだ。けどそうか、こいつはラーゼの事を秘かに思ってる。

 その意識があるから、自然と今の言葉が出たのかもしれない。


「お兄様、ファイラルは……ラーゼは危険なのですよ。それに私には世界樹が必要です」

「世界樹とはクリスタルウッドの事か? 確かにラーゼは危ない奴だが……でもちゃんと話し合えばいい。僕が仲介してやろう。僕が言えばあいつも話を聞く気になる筈だ」

(そればどうだろうな)


 カタヤはラーゼにご執心だが、向こうは全然そんな事はない。カタヤは基本ちょろいからな。ラーゼにいい様に使われてる。ラーゼの事を抱く様な要求を出来るくらいには貢献してるだろうが、カタヤは堅物だからそういう事は本人を手に入れてからとかおもってるし、ラーゼはそれをいい様に使って軽いご褒美でカタヤをこき使ってる。


 カタヤは頼られてる……とおもってるが、いいように使われてるの間違いだ。本当に頼られてるのなら、今言ってる約束の地にだって亜子だけじゃなく、俺たちの事もなんとしても連れてったはずだ。


 結局俺たちはラーゼの軍の奴らよりも使い勝手も信用もないって事だ。


「そうですね。それは期待したい所です。でも……ファイラルへの侵攻は止められません」

「何故なんだ?」

「世界樹は絶対に私に必要だから。そうしないと私は……」

「ミリア?」


 ミリアは少し悲壮感をだしてる。視線をそらし、下げた瞼でうっすらと涙がこぼれる。


「世界樹をラーゼは手放しはしないでしょう。それは話し合いでどうにか出来る事ではないの。それに私だってラーゼと事を荒立てたくはない。彼女を大人しくするためにも世界樹を掌握することが大事なの。だからお願い、お兄様ベールさん。私に協力してください」


 そうやってカタヤは丸め込まれ、そして俺たちに勅命は下った。カタヤは信じてる。これがラーゼもミリアも救う道だと。だからあいつはとまらない。俺にも止める術はないし……どれが正しいのかしょうじきわからない。

 ミリアは上手くラーゼと接触したようだ。ラーゼかミリア……俺にはどちらも強大過ぎる様に思える。だからこそ、そのどちらともを選ぶのかそうじゃないのかはもう世界の意思に託すしかないと思ってる。あの二人は俺たちの干渉を受け付けない領域に既にいる。

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