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二日が経った。このエデンを掌握して二日だ。それでようやくファイラルの端っこが見えてくる距まで来たのだ。長かった。まさか行く時よりも帰るときの方が掛かるなんて思ってなかった。まあ島だからね。そんな早く動けないのだ。とりあえずその二日の間にエデンの事を把握しようとしたんだけど……無理でした。いやいや、こんなの無理に決まってるよ。だってここ、なんでもあるし、なんでもできる。これでも一つ重要な場所がまだ足りないというのだから驚きだ。
アルス・パレスの修復は既に始まってる。だけど、まだまだそれは全然進んでない。その原因を羽持ち達に効いたら、どうやらマナが原因と言ってた。このエデンはマナで想像され、そして維持されてるらしい。まあそれは世界そのものがそうなんだけど……でも表面上はそうはみえないものだよね。だって全ては物質へとなってるからだ。土や木、空気や、鉱石とかそういう物質を材料として普通は作る。
だってマナはそこにあるけど、掴める物じゃないからだ。世界の種の常識だと、マナは宿る物であって成すものじゃない。けどどうやらここの羽持ち達はそうは考えなかったらしい。全ての源がマナなら、マナから直接物体を想像する事が出来るのではないかと――そう考えたらしい。そして作り上げたのが、この神の宮殿『エデン』である。簡単に言ってるけど、これを作るまでにとても長い年月と、そして争い。更に犠牲があったのは言うまでもない。
けど私はその全てを『ご苦労』の一言で済ませる事が出来る存在である。なにせ私は神だから。実感なんてないが、まあこの世界のマナを掌握してるのは私なので私が神というのは間違いではない。それにここを作った羽持ち達が私を神と崇めるのだから問題ない筈だ。まあその羽持ち達はなかなかに煩いんだけどね。しかも私にしか見えないから厄介だ。こいつらの言葉を私が皆に伝えたりしないといけない。
それが単純な事ならいいよ。まあメンドイけどさ……まだそのくらいなら、私の美声を使うことも我慢してあげる。けど専門的な事、特にネジマキ博士とかに伝える事とかはもうね……口がモニョモニョする。いや、私は発音いい方だとおもうよ。だって皆がずっと聞いてたくなるくらいの美声だしね。鈴の音を転がすような天使の声をしてるのだ。まあ自分の事をそんな風に言うのはこそばゆいが、事実だからね。事実だからしょうがない。
「ねえあんた達見える様にならないの?」
「体を用意してくださるのなら、それも出来ましょう」
「体ね……」
羽持ち達は体を捨てたんだよね。まあ元々はその気はなかったが、そうなってしまって、今はそれに後悔なんてこいつらにない。マナと一体化したことがこいつらは嬉しいんだ。けど私の為になら体も受け入れるという。なら私が雑事をこなさなくていい様に用意したい。けど、人体培養なんて……
「人体って作れる?」
「作れますが、器に今の我らは……」
何やら芳しくない反応。作れない訳じゃないよね。だってこの体も作ったのこいつららしいし。けど厳密には私のこの体自体を作った訳じゃないというらしいが、そこら辺は聞いてもよくわからない。
「遠隔で操作できる程度のものでいいですな」
「寧ろ、声を届けるだけでいいのでしたら、それだけでもいいのでは?」
色々と彼らが白熱してきたから、私は玉座で目を閉じる。
(やっぱりクリスタルウッドが侵食されてる……)
私はちょっと前にクリスタルウッドの異変に気付いてた。まだ完全に私の手からクリスタルウッドが離れた訳じゃない。けど、このままじゃいずれそうなるかもしれない。どんな手段を使ったか知らないけど……なんとか間に合ったからもう大丈夫だよね。エデンの力を見せつけて、哀れな魔族達には滅んで貰おう。私はそんな事を考えて酷薄に笑うよ。




