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騎士たちは目の前の魔族の女に向かって魔剣を突き出す。振り返りもしない魔族の女を不気味に思うが、今さら引っ込めることもできない攻撃だ。それならば精一杯の力を込めて、この一撃で終わらせる気持ちでやった方がいいだろう。
だがその攻撃は見えない壁に阻まれた。何やら見えない壁があるようなそんな弾かれ方だった。
「なんだ?」
「壁があるぞ!!」
地面には落ちずに、弾かれた騎士たちは空中を蹴って、民衆が薄いところに降りたつ。民衆たちは別に動きはしないが、正直言って邪魔すぎる。出来うることならば、今の一撃で決めるか、それかあの魔族を別の場所へと誘導したいところだった。
だが、まさか避けもしないのは誤算だった。魔剣ならば確実にダメージは与えられるはずだが、届きもしないとは……
「今の壁はなんだ?」
「あの魔族の力……でしょうか?」
確かにそう考えるのが妥当だが、あの魔族の女がなにかしたようにはみえなかった。寧ろ……だ。あの力はクリスタルウッドに……ラーゼ様の物に近かったような気さえする。
「くっくく、あはははははははははははははは!!」
今までこれといった反応をしてなかった魔族の女が突然体をそらす様にして高笑いを始めた。その声は女の甲高い声でとても耳にキンキンと響く物で不快だ。騎士たちはそんな笑い声を出す魔族の女を警戒して幾人かは銃を構える。そして始めよりも更に銃に魔力を込める。
カードの補助も入れ、銃を構えてる者同士で視線を交差する。
放たれる光は魔族の女とは全く違う頭上へと向かう。そしてそれぞれの方向から放たれた光は頭上で交じり合いそして太く強くなって高笑いをしてる魔族の女へと降った。それはまるで雷が堕ちるような光景。魔族の女の近くにいた避難民が衝撃で吹っ飛ばされたりしてたが、回復させてやれば問題ないだろう。寧ろこの衝撃で正気に戻ってくれれば……ともおもう。
混乱してしまうかもしれない。だが、あの魔族の女の周りにいられるのは困る。少しでもスペースがあけば、戦いやすくなる。期待は薄いが、騎士たちは今の攻撃でダメージが通っててくれればとも思ってる。
「理解してないみたいだね」
煙が晴れた中から現れた魔族の女にはやはりというべきか、傷一つなかった。今のも壁にさえぎられたということだろう。アレでもダメとなると厳しい。そもそも、人種はこれまで銃ばかり使ってたから銃の方が進んでる。魔剣はもちろん強力だが、まだ未知の部分が多い。
確かに魔力を注いだ分だけ、魔剣はその威力を増すが、それは同時に危険でもある。なにせ完全に動けなくなったり、下手したら死ぬからだ。銃は外部で動力を補ってるし、そんなことはないが……魔剣は基本自分の中の力を使ってる。
もちろん人種が使える様に魔光石からの供給もできる様に騎士たちは準備してるが、それでも銃よりも魔剣は負担がある。なにせ一度体を通らせないといけないからだ。
「無駄ってわかる? 私はね、何もしてない。それでも世界は私を守るの」
心底面白そうに眼を細める魔族の女。何を言ってるのか騎士たちにはよくわからない。世界が守るなんて……そんな馬鹿馬鹿しいと思う。
「信じられない? けどそうなんだもん。そうしたのよ。誰がって? 教えてあげる。それはあんた達のお姫様が、世界をそう書き換えたから」
「ラーゼ様が?」
衝撃を受ける騎士たち。この場にいないラーゼ様の名が出てくるとは思わなかったからだ。動揺が走る。まさかラーゼ様が敵を助けるようなことを……
「落ち着け! 敵の言葉を鵜呑みにするな!!
騎士の一人がそういうが、彼とて動揺してない訳じゃない。もしも今の言葉が事実だとすれば、どんな攻撃だって通じないかもしれない。根本的に戦い方を変えなければいけない……そう騎士はおもった。




