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他が介入するまでには……そんな将軍の願いは無残にも消え去る。肉の壁を作って団子の様な種の攻撃は防いだ。だが体がブロックで出来たような種とやたらと上半身だけ盛り上がってその額に角を持つ浅黒い肌の種は抑えきれなかったようだ。
体が色とりどりのブロックで出来たような奴はその体を分割して炎から布の種を守る様にその間に体を割り込ませる。そして額に角を持つ、凶悪な見た目の種はその巨腕を振り回し人をただの一撃で肉片へと変えていく。そして炎が遮られた事で布の種も動く。
「てっ――」
撤退という言葉が将軍の口から洩れようとする。だが出なかった。これはダメだと将軍は思ってる。あの四体の別々の個体は別格だ。一体ずつならまだなんとかなるかもしれないが、一辺に四体は本当にダメだ。少し陣地を下げて態勢を整えるしかない。
だがそれは今前で機械を攻めてる兵たちを見捨てる行為に他ならない。けどそれも仕方ないと思うしかない。今の段階で機械を壊せてないのなら、いったん引いて態勢を整えるしかこの混乱を収める方法がない。このままだと、全ての中央の騎士が殺される。
なのに……
(どうしたというのだ!?)
将軍は自分の喉を押さえる。「撤退」という言葉を発したいのに、その言葉が喉からでてこない。まるで自分の意思に喉が逆らってるようだった。
「お逃げくださいしょうぐ――」
そういって庇おうとしてくれた騎士の上半身が消える。彼の血が頬につく。時間差で残った下半身が崩れ落ちる。目の前には鬼がいた。凶悪な見た目の癖に、やけに輝く鎧がアンバランスに見える奴だ。ただでさえ頑丈そうな皮を纏ってるのに、更に防具でその防御力は飛躍的に上がってる。
将軍の持ってる程度の武器では傷一つつかないのは明白だ。そう将軍の持ってる武器では……将軍はチラリとダンプを見る。あれの砲撃なら……そう考えたからだ。だがその希望は直ぐに消え去る。なぜなら、ダンプに布が巻き付いて、ダンプをメキョメキョと潰したのだ。
「ふむ、これで希望は消えたかな?」
布からそんな声がした。
(勝てる訳がない)
それを将軍は思い知る。
(我らは勘違いしてたのか……)
最近はこちらが別の種を蹂躙するがわになってた。だから……だが、その殆どはファイラルからの報告でしかなかった。そう……中央の騎士がやっていたことではない。ほぼ、ファイラルの功績。そして倒した種さえファイラルは取り込んでいた。
将軍は実感してた。ファイラルとその他では圧倒的な戦力差が出来てしまってる事に。なのに撤退という指示も出せない。
(何故だ! 何故何故何故何故!?)
このままでは人種を大量に失うことになる。自分ひとりだけならまだいい。だが貴重な命を無為に散らすのは罪だ。けど将軍には撤退の指示がだせない。そしてそう思ってる間に鬼に頭を掴まれた。
「ぐあああああ!?」
地面から足が離れる。暴れても手にあった銃を撃っても意味はない。このまま、頭を潰されるのが嫌でもわかった。その時だ。
(捧げなさい。王名を為したいのなら)
そんな言葉が将軍の脳裏を駆けた。そして迷いなどなかったのだ。鬼の指を一つ握り、力の限り握ると、その指がつぶれた。痛みで将軍は解放される。だが……大地に再び降りた将軍はさっきまでとはその姿が変わっていた。肌は黒くなり、目は白目がなく、黒目が赤く光ってる。そしてその背からは蝙蝠の様な羽が出てた。