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黒くごついダンプが土埃を上げながら沢山走ってる。可能な限り広がり連なり走る様はまさに壮観。先頭を走る一団がひと際大きく、それに続くのが数が多い一団だ。先頭のは体も大きく、武装も装甲も妥協がない点がみえるが、一つ後ろの一団はダンプの四面全てに砲を備えた攻撃的なつくりをしてる。
更に後ろには上にしか砲がないのが続いて、更には次々と合流してるダンプはただ人を乗せて走ってるだけの、まさに移動手段としてのダンプだった。どんどんと膨れ上がる一団は国軍を筆頭としたファイラル領侵攻軍だ。先んじて飛空艇船団が行ったが、あれは独断専行みたいなもの。
だがこの侵攻軍は違う。王の勅命により動かされた軍である。そしてその勅命は周辺の領にも響き渡ってる。合流してくるダンプの一団はいろんな領が派遣してる固有の軍だ。
どこもファイラル領という領がどれだけの大きさ、強さなのかは知ってる筈だがそれを実感してる者は少ないのだろう。この機会にファイラルの力を削ぎ、功績と共にその利益を享受出来たら……そんな領主の思いを受けて沢山の兵隊が送り出されてる。
それにこれは王側と一領の対立……なんて物で終わるものじゃない。いや、大抵の領主はそんな感じで判断してるのかもしれないが、そうとは考えない者達もいる。王の勅命だからこの国軍に参加しないと、それだけでこれからのこの国での立場は危うくなる。
だからこそ大抵の領は王につく。それでもやはりというべきか、ファイラルの恩恵を多大に受けてる近隣の領はファイラルの方につくようだ。王よりも……いやどちらが王かと、そこの領主が見たのかわかる判断だ。だが彼我の戦力差は圧倒的。
広大な平原に数百ばかりで展開する軍のなんとひ弱そうな事か。このままスピードを落とさずに通るだけで蹂躙できそうなくらいの差。実際国軍は止まる気配はない。対して、平原に展開するファイラルについた側の軍は幾つかの奇怪な機械を展開してる。大きな半円状の物体を空に向けていて、その中央に尖った部分があるような機械だ。それを感覚を持って持ってきてる様で、そしてそれを守る様に軍は展開してる。
一つの機械の傍に約三百の軍。それが五つあるから、総勢は千五百の軍ということになる。一領としては頑張った数だ。突然開かれた戦いに即座にその数……判断の速さは国を見限ってるということなのか……だがそれが間違いだったというように、ダンプの一団は迫る。とりあえずは進路上にいる部隊を踏み潰す気の様だ。
だがそこで異変が起きる。機械を展開してる奴らに近づくにつれ、次第に先頭集団の足が遅くなる。そして次第に止まってしまった。そして先頭が詰まれば、後ろも詰まる。つまりは渋滞だ。だがここは平原であって道路じゃない。行く道を決められてる訳ではないのだ。だから功績を欲してる色んな領の軍はそれぞれで別の場所の機械の元へと走って更に止まる……ということをくりかえした。
そしてそんな事をしてると、本当に通れるところがなくなる。立ち往生した国軍は仕方なしにぞろぞろと出てくる。そしてその圧倒的な物量で蹂躙をしようとする。ファイラルに与してる側は千五百だが、向こうは数十万を誇る軍勢だ。
蹂躙など簡単な事……かとおもわれたが、真っ先に走り出した先頭集団が大きく宙を躍る。それも一か所でじゃない。複数の場所で同じように起こってる。しかもそれを為してるのは数十名からなる少数部隊。彼らは人種ではない。
人種ではなく、ラーゼという存在の軍門に下った他種の戦士たちだ。