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「は、早く逃げないと!」
自分はそういってセイの手を引く。アナハイムは夜だというのに警報が鳴り響き、ニュースを伝えてた映像は避難警告を発してる。
「大丈夫だよ~、他の人達も落ち着いてるし~」
「いやだけど!」
軽い考えは危険だ。あの時の事を知ってるのならそんな言葉は出ない筈だが、相手はセイだから仕方ないのかもしれない。彼女は自由奔放だからな。だからこそ自分がしっかりしないといけない。
(もうこの手は絶対に離さない)
その決意を自分はしてる。色々と記憶がおかしいところがある……自分が王妃様に襲い掛かったような気がするとか……その時護衛の騎士に殺された気がするとか……な。だがそれなら自分が今ここにいる筈はない。きっとあれは不安が見せた夢だったのだろうと思う。
だって気づいたときには自分たちの夫婦に与えられた部屋でセイに膝枕されてた。幸せだった。だからその幸せが手から滑り落ちない様に、自分はこの手を強く握る。
今は都市の警備の人達の誘導に従って進んでる。急ぎたいが、周りはセイが言う通り、結構冷静だ。この都市の強固さを信頼してるのか、それとも軍をなのか……たしかにこの領は自分が前にいた時とは全てが違う。全然だ。前の領では見たことも無いようなものがいっぱいだ。たった一日でカルチャーショックを受け続けてる。
今だってそうだ。なにせ今、自分たちは地下の道を通ってる。坑道とかならわかる。自然にできた洞窟だって見た事はあった。けどこれは何だろうか? 自分たちはまずは近くの大きな建物、最初にアナハイムに降り立った時の建物に向かった。そこから、頑丈そうな扉でとざれてた道が開いて避難民がそこに誘導されたのだ。
そこは緩やかに坂になっていて、地下に言ってるんだろうなってのはわかった。だがなんとここは土がむき出しじゃない。側面も天井もなんと鉄で囲われてる。しかも広い。横に百人くらいは並べるのでは? というひろさ。しかも地下とは思えないくらいに明るかった。
だからかもしれない、そこまで悲壮感がないのは。やっぱりこういう地下とかは暗いイメージがある。緊急場所なんて最悪使わないかもしれないから後回し後回しになるもの。けどここはそうとは思えない。まるで最優先で作られましたと言わんばかりの設備。
足の悪い人たちや、病人とかをダンプで運んでるくらいだ。これが領の力の差……領主の人の差か。自分は一度もここの領主様を見た事はないが、伝え聞くことはあった。なにせここの領主様は有名だ。天上人の様な美しさ。曰く美の化身。そんなものだ。だがこれを見る限り、それだけじゃないみたい。いや、アナハイムという都市を見ただけで、美しい人なだけじゃないなんてわかってた事だ。
「少し上がってる?」
そう感じた。傾斜がある。ということは地上に出るのだろうか? 意外だ。地下の方が安全だから戦いが終わるまでは地下にかくまわれるのだと思ってた。そんな事を思ってると、何やら空気が澄んでる気がした。誰もがそれに気づいてたのか、ガヤガヤとしてた避難民たちの声がしぼんでく。
そして終着点……そこにはとても……とても大きな、巨大という言葉ではたりない、まさに雄大というべき命の根源が目の前に現れた。それはこの世界の中心。世界樹とも呼ばれる『クリスタルウッド』の身許だった。