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「おかしい……」
そういうのはこの部隊の指揮を任せられた艦長だ。その顔は赤いトサカがキリっと立ってる白い鳥。ファイラル領には他の領では考えれないくらいの多様な種がいて、その者達も人種と変わらない様に生活してる。そして変わらない様に軍にいる。
暗い闇に浮かぶ大きな船がいくつか見える。明かりをつけたままなのは、其方に御旗があるからこそ堂々としてるということか?
「早すぎる」
こちら側の飛空艇ならまだしも、国軍が持つような船がこんなに早く、移動出来る訳がない。聞いた話によると、民衆が王妃様に無礼を働いたのが、昼過ぎくらい。そして怒って帰られたのが、夕方くらいだ。自身の船から王都へと連絡して軍を編成して動き出す……そしてこの時間にここファイラル領という国の端までたどり着く。
これを為せるのなら、堕ちた領の民を国軍ももっと助けれた筈だろう。それなのに、助けたのはこちらだ。国に勿論要請はあったはず。一艦長という立場の彼にはそれはわからないが、無い訳はない。周辺の領と国には連絡するのが普通。
しない訳がない。自分の命が、そして領民の命が掛かってるんだ。けど実際には、動いたのはファイラル領だけだ。まあだが、他の領は責められないだろう。どこもいっぱいいっぱいなのだ。余裕があるのは大きな一部の領だけ。
その一部に我らが女神が治めるこの領は入ってるからこそ、動けた。だが国は領の更に上にあるもの。この国を纏める立場。上に立つからこそは、危機には動く義務がある。だが、それはやらなかった。動きだしたこちらが速すぎたのかもしれない。
だが……この展開力をもってすれば、出来たのではないか? と思わざる得ない。同じ国の端の領にこれだけの軍を数時間で送れるのだ。それなら救援に駆けつける事だってできたであろう。
「多いから……なのですかね」
多少がいなくなったとしても大丈夫。そう思ってるのかもしれない。羨ましい事だ。確かに人種は多い。そして弱いからこそ、簡単に切り捨てる事が出来るのかもしれないと、鳥頭の彼は思う。
「艦長、どういたしますか?」
若い同僚がそう聞いてくる。彼は普通の人間だ。だが、そこに艦長に対する怯えとかはない。もうなれてるのだろう。だが、初めからそうではない。信頼を築き上げてきたからこそだ。そういう物語はきっとどこにもある。そして堕ちた領にだってあっただろう。
きっと助けが来ると信じてただろう。こちらも間に合わなかったから強くは責められないが、これだけの事か出来るのなら……と思わざる得ない。
「彼らはここで止める。だが攻撃は許可されてない。だから我らは壁となるしかない」
「壁……ですか」
「案ずるな。こちらの方が最新鋭。そう簡単に堕ちはしないさ」
こちらの船は向こうよりも小ぶりだが、機動性と小回りは圧倒的だ。実際、あんな鈍重なカメは落とそうと思えば簡単に落とせる。だが、それをしてしまうと完全に国反逆したことになる。それを上は望んではいない。いや、そもそもトップが今は不在だ。
だから事は構えたくないのだろう。向こうを傷つけずに侵攻を阻止せよ――それが我らに下った命令だ。難問だが、上は上で交渉してる筈。それがうまく行けばこの軍も引くだろう。それまでの我慢。そう思ってると向こうから通信が届く。




