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√8

 一日経って自分たちはアナハイムをめぐってる。森と一体化する様に発展してるアナハイムの都市だが、森に埋もれてるって感じじゃない。結構乱雑に建物が入り乱れて建ってるが、町の中はとても清潔でそして街までは木々はアクセントくらいでしかない。


 これだけ世界樹に近い場所で、これだけ大きな街というか都市があるのはとても不思議な感じだ。どことなく、村っぽい気がする。いや村とは全然違うんだけどな。だって村では建物なんて数えるくらいしかなかったし、周りは畑しかなかった。

 こんなにたくさんの人と建物は存在してなかった。でもどこか落ち着く。自然の中にいる気がするからだろう。事実、アナハイムの周囲は森だ。それも世界樹がこの世で一番神聖なマナを与えてくれると言われてる森に囲まれてる。


「ふう」


 そういって隣でどこか疲れた顔をしてるのはセイだ。最初はそれこそ子供の様にはしゃいでたんだが、流石につかれたみたいだ。自分たち難民者に与えられた建物は想像の数十倍立派なもので、部屋には全部に綺麗なベッドが備え付けられてあった。 

 田舎の家でボロボロだった布にくるまってた時よりも余程快適だった。夫婦といってた手前、セイとは同室で、とてもドキドキした。だが彼女はそうでもなさそうで、すぐに水浴びしに行ってそして寝てた。だから昨日の疲れが残ってるとは思えない。

 ただ単に騒ぎつかれただけだろう。


「何かもらってきてもらおうか?」

「……肉がいい。生々しい感じのね」


 セイは結構ワイルドだ。その浅黒い肌に似合うサバサバとした性格してる。女性らしいかといわれるとそうでもないと思うが、彼女の明るさを自分は好んでる。


 自分は匂いを辿ってちょっと先の広場へと向かった。広場にはラーゼ様の像とその背に世界樹のミニチュア版というべき木が立ってた。そして広場には出店が立ち並び、人がたくさんだ。自分はその中で肉を売ってる屋台の店の人に串焼きを頼む。

 お金の代わりに支給してもらったチケットを束から一枚千切って渡す。ワイルドな店の親父はそれを疑問に思うこともなく、受け取って「頑張れよ」と言ってくれた。このチケットの事はアナハイムで商売してる人たちはもれなく知ってるらしい。


 難民が来る前からあったのだろうか? だってこれだけの商売人がいて全員がちゃんとわかってるなんて……そんなの昨日・今日では無理だと思う。村みたいな小さなくくりならまだしも、ここはアナハイム。王都にも負けないといわれる都市だ。

 人の数なんて村の何倍なのか……気になったら自分は気のよさそうな串焼きの親父さんに聞いてみる。


「これの事、ここの人達はちゃんとわかってくれてるんですね。もらった時はちゃんと使えるか不安だったんですけど」


 自分は正直にそう話す。村人なんでお金に疎いが、どんな物がお金かくらいは知ってる。なのにとりあえずで渡されたのはこんな紙切れだ。いや、紙は貴重なんだが……こんな都市でお金じゃない物で買い物なんかできるのか? と自分以外も思ったはずだ。けど蓋を開けてみれば何のことはない。普通に使えた。


「ああ、商人達はちゃんと繋がってるものだからな。それにここは重要な情報はすぐに拡散される仕組みが出来てるんだよ。色々とニュースもやってるしな。商人はそういうのもに敏いといかんし、まあこの領内では普通に使えるだろうよ」

「そうなんですか……凄いですね」


 ニュースというのもここに来て初めてみた。至る所に魔法で映像が投影されてて、それで何やら色々と話してた。まあ話してたというよりも、こっちが一方的に受け取るみたいな感じだったけど。


「おう、ラーゼ様はそれはそれは凄いお方だからな。それにめちゃんこ美人だ」


 そういう親父さん。けどこの人はなかなかにいい年した人だ。そんな人が領主というか……ラーゼ様という人はまだ年端も行かない少女と聞いたことあるような……


「ラーゼ様という方は……その……まだ子供なのですよね?」

「ははっ、確かにそうだが。ラーゼ様はそこらの乳臭いガキとは次元が違うんだよ。まああんたも一度でもその姿を見たらわかるぜ」


 親父はそういって得意気に笑う。確かにこの領のラーゼ様という人の事は村でもよく聞いた。その中でも特に何回も聞いたのが、絶世の美少女ということだ。いまいち想像できないが、こんないかつい親父までがそこまで言うなら、ちょっと興味湧いてくる。

 いや、今はセイがいるからいいだけどな。全然どうでもいい。いや、感謝はしてるけど。


「まあ今はラーゼ様はここにはいないがな」

「そうなんですか」


 ちょっと残念だ。


「だがどうやら王妃様がくるらしいぞ。ニュースでもやってたから、今から俺たちは忙しくなるぜ」

「王妃様……」


 それはこの国の王様の奥方という……超ビップじゃないか。王妃様というも一度見てみたい気もする。村では起きなかった事が、やっぱりこういう所では起こるんだな。

 そんな事を思ってると――


「遅い」


 ――そういうセイに後ろから肩を掴まれた。責める様な目でこちらをみてくる。しまった……話してたせいで待たせてしまったか。


「悪い。これ」


 そういって渡した串焼きをセイは頬張る。幸せそうだ。


「夫婦か? 恋人か? 大変だろうが、んな可愛い女、泣かせるんじゃねーぞ」


 そういって串焼き屋の親父がもう一本串焼きをくれた。いい人だ。そしてここは良い場所だ。

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