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Δ166

 (くっ)


  僕は空から落ちてきた奴を見てアンティカの中でそう呟く。落ちてきた奴はフルプレートの鎧に身を包み、その腕には、自身の体の大きさと同等くらいの斧がある。そんな斧を肩に担いでる奴の正体をアンティカは暴く。


(グルダフ……)


 確かそんな名の獣人だったはずだ。同じ獣人が、僕達を狩りに来る……か。けどたったひとり。確かグルダフという獣人はラーゼの信頼の厚い部下の一人。奴の軍をまとめてるのもグルダフの筈。そんな奴がたった一人。舐めてるのか? それとも、一人で十分だということか。


 きっと後者なんだろう。さっきまで彼はあんな装備はしてなかった。それこそ獣人の頑強な体こそが鎧だというようにその体を筋肉で覆ってた。それが今やどうだ? あのフルプレートの鎧は……藍色の鎧は漆黒にも、深い青にも見る角度によって変わる。歩き出したグルダフの足跡は地面にその足跡を深く深く刻んでる。あれはきっと見た目通り、いやそれ以上に重い。


 けど単純な厚さだけで何でもかんでも防げるなんて程、この世界は甘くはない。もちろんあの鎧はその対策もしてあるんだろう。地面に足跡を残す程の重量の鎧をまとってはいくら獣人でもそこまで速くはうごけない。が、むしろグルダフはさっきまでよりも早い。


 絶対にあのフルプレートの鎧は超重量だ。アンティカが予測計算で叩き出した数字ではあれだけで二百キロはあるというあほっぷり。どこまで正しいかはわからないが、アンティカは凄い技術の結晶だ。だから多分正確なんだと思う。


 だがグルダフのスピードは速い。あの鎧には色々な仕掛けが施してあるんだろう。このアンティカだって重そうだが、動きは速い。同じことだ。そしてあの斧は、ついさっきまで持ってたものよりもデカく豪華だ。刃は金で、刀身には色のついた球体が埋め込まれてる。


 球体には何やらマナが入ってる。きっとあれにはそれぞれ別の力が入ってる。


(あれを振らせるわけにはいかない!)


 僕は皆を守る為に前に出ようとする。けどそんな僕よりも素早くグルダフの前に立ちふさがる者がいた。バッカスさんだ。バッカスさんはその鋭い腕でグルダフの大斧を受け止めた。いや、受け止めたと思った。


「ぐはっ!?」


 そういってバッカスさんが吹き飛ばされる。彼の鋭い腕の刃が欠けている。どうやらあの大斧は思ったよりもヤバイようだ。バッカスさんは進化してる。そしてグルダフは進化はしてない筈だ。なのに……押し負けたのはバッカスさんだった。


 僕は止まらないグルダフの前に立つ――だが――


「退け!!」


 ――そう叫んだのはバッカスさんだ。彼は吹き飛ばされた体を器用にひねって地面を再び蹴った。一瞬で彼の腕は治ってる。そして再びグルダフに切り込む。今度はすぐに吹き飛ばされない。


「ラジエル! 貴様は行け! ここは俺が引き受ける!!」

(そんな! バッカスさん! 二人でなら!!)


 僕の声はバッカスさんには届かない。この体では声を発することは出来ない。二人でなら、勝てる可能性は高い。けど、僕にはわかる。バッカスさんとそれなりに長い。彼はちらちらとこちらを見てなんども言ってる。


「行け!!」


 と。ここで助けは不要といってる。


(行くべきだ。ここから先、我らが必要だ。それをあいつはわかってる。そしてあいつは死に場所を選んだのだろう)

(バッカスさんは! バッカスさんは……死なない!)


 僕はシズルスにそう強く言った。そういったが……一合打ち合うたびに、彼の腕は傷ついてる。斬れぬもの無しの筈のその刃が、欠けている。それでも彼は引かない。彼は頑固な人だ。きっと何を言っても……いや、いまの僕には伝える手段もない。


 僕達がアルス・パレスを掌握するのに必要なのも事実……彼に任せるのがきっと……


(バッカスさん……すぐにおいついてください)


 僕はそう願ってアルス・パレスへと向かう。そう願いつつも頭の中では彼との日々がとめどなくあふれて来てた。

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